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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 1 -ITALIANs Break Heat《イタリアからの新風》-
14/188

10

 「やっと会えたな!」

 「そうだなー」

 

 放課後となった今、俺はエイラと教室で待ち合わせをしていた。

 なぜってそりゃ小隊を結成したわけだし、日数少ない予選へのスケジュールプランを決めるためだ。


 「では、第1回チームフォードこれからどうする作戦会を始めよう」

 「なんかとってつけたような名前だな」

 「適当だ」

 「だろうな……」


 名前に無駄に長いし。

 そんなことはどうでもよくて問題は中身。

 

 「ところでここの生活には慣れたのか?」

 「ボチボチってとこかな」

 「ならばよし!」

 「お、おう」


 母親みたいなこと言うなコイツ。

 でも今日のクラスでの模擬戦も思ったよか周りについて行けて、あと数回やれば波長も合うだろう。

 そういやふと気になったが————

 

 「エイラは実技授業はどうしてるんだ?」

 「私か?」

 「ああ。周りと合わせなきゃいけない時が少なからずあるだろ」

 「私は隅でシャドー斬り合いをしている」

 「……そうか」


 シャドー斬り合いって、想像はつくがシャドーボクシングの剣バージョンってことだろうな。

 なかなかの悲壮感でジワジワくるぞ。

 おっと閑話休題だ。


 「話が逸れたけど、予選までどうする? 連携練習するか?」

 「ふーむ……」

 「2か月もない、生半可な練習じゃあ間に合わない」

 「ならば死ぬ気でやればいいのだ!!」

 「お前なー……」


 安直だな。

 でもエイラの言う通り、必死にやるしかないのは事実。

 だがコイツの天才的な動きに合わせるには、それ相応の『時間』と『経験』がいる。

 実際今までもそれで挫折してエイラをみんなチームから弾いたんだろうし。

 短期間で形にするには凝縮され濃密されたものでなければならない。

 

 そして動きを合わせるのに時間が必要だが、もう1つ問題がある。

 根本的な問題。


 「死ぬ気でやる。ただな、『相手』がいない」

 「相手? 練習のか?」

 「俺たちが2人とはいえチーム戦、練度を上げるためには練習相手が必要だ」

 「そこら辺のに頼めばいいのではないか?」

 「そこら辺のじゃ、俺たちの個人技で勝てそうじゃないか?」

 「むむ…… そう言われれば負けるヴィジョンは思い浮かばんな」


 Sランク以上の能力者は、この学園では俺とエイラだけ。

 まともに戦えそうなのはAAAランクの会長のチームぐらいだろう、頼めば1度や2度は対戦してくれるかもしれない。

 ただ俺たちが連携できるほど何度も模擬戦をしてくれるかというと、ちょっと疑わしい。


 (しかもコッチが個人のランクで格上の以上、自分たちチームの情報はあまり与えたくないはずだ……)


 「そうかー練習相手かー」

 「そこが一番の難題だと思う。 生半可な相手じゃお前が1人で倒しちゃうだろうし」

 「ぬぬぬー……」

 「どうしたもんかねー……」


 イタリア国内の能力者育成の学園はここだけ。

 やる前からこういうことは言いたくないが、予選の2、3回戦は普通に突破できる。

 俺たちそれぞれの個人技でごり押しでだ。


 ただその後。

 Sランクが混ざった熟練のチームが相手になったとき必ず『差』が生まれる。

 これは個人戦じゃない。


 「ユウ」

 「ん?」 

 「要は私たちが必死に連携しなければならない状況で、なおかつ強力な相手がいればいいのだろう?」

 「ざっくり言えばそうだな」

 「ならいい案がある」

 「……」


 なんか嫌な予感する。

 前振りすっごい丁寧だし。

 エイラにとっての強力な相手ってかなり限られてくるぞ……

 これは————


 「すなわち! 魔王と戦えばいいのだ!!」

 「……バカか?」

 「魔王の力は絶大! むろん私1人では討伐はできない!」

 「いやいや魔王はハードル上げすぎだろ! それこそやったら勲章もんだわ!」

 「ユウも言ったではないか、『死ぬ気』でと」

 「……いやまあ言ったけど」

 「ならばやるしかない!」


 魔王は相手にもよるがS級が最低でも10人はいる。

 ようはエイラみたいな怪物が10人いてやっと互角に戦えるかどうか。

 エイラを怪物に例えたが、魔王はもっとヤバい。

 100年前に現れた異形の存在。

 その力は絶大の一言。

 殺された人間の数も相当なものだ。


 奴らと戦うなら、本当に『死ぬこと』を覚悟しなければならない。

 もし本当に2人で行くようなら、 9割強の確率で死ぬだろう。

 たかが大会のため? 

 一生のうち数百、数千分の1しか支配しないような時間のためにそんなリスクを犯す?

 

 前代未聞。

 バカな話だ。

 それこそ頭が逝かれてるってことだ。


 ただ。

 ただな。

 エイラの言う通り、 死ぬ気ってのはそんぐらいやんなきゃいけない。


 

 「——俺は正直、この大会にあまり興味はなかった」

 「……」

 「そもそもエイラ、お前と組んだのも場の空気に流されてだ」

 

 俺の意志は薄れていた。

 場の空気に流されたとしか言えない。

 あの時の、エイラの瞳に俺は吸い込まれたんだ。

 真っすぐと前を見据えるお前の瞳に。

 



 

 

 かつて俺は仲間が欲しかった。

 俺より強い仲間が欲しかった。


 自分を頼ってくる仲間じゃない。

 自分をガツガツ引っ張ってくれる、むしろ引きずってくぐらいの強者。

 

 きっとそんな時が訪れようものなら、それは鮮やかに輝き、一瞬にして、だけど永遠のように長く感じる時間になるだろうと思っていた。


 だがそんな時間は訪れることはなく、いつしか頭から飛び出て、はるか彼方に飛んでしまっていた。


 だけど、なぜだろう、今そのことを思い出す。

 長く待っていたあの感情を。


 

 初めて会ったときは衝撃と、歓喜。

 コイツと同じだ。

 対峙した。

 自分より、強い奴。

 

 「お前は真剣だ」

 「私は真剣だ」

 「ああ。だから、魔王討伐しに行くんだったら、覚悟決めなくちゃいけない」

 「覚悟はある」

 「お前、俺に『一緒に死にに行こう』って言ってんだぜ」

 「そうだな。ユウは、私と死ぬのは嫌か?」




 「————嫌だね」




 「……そうか」

 「死ぬのは嫌だが、生きて帰ってくればいい話だろ」

 「それは……」


 俺もバカだな。

 出会って数日。 

 会話したのもたかがトータル数時間。

 でもなにより記憶に焼き付いている、剣を、槍を交えたあの時。


 (エイラがうつったな。これで俺もはれて脳筋か) 


 「ノッてきたんだよ。いくぞエイラ!」

 「……まったく、ユウはバカだな」

 「お前の相棒なんだから仕方ないだろ」

 「なら当然か」



 「「ははははは」」


 

 2人して顔を見合わせ笑う。


 誰もいない教室に響く声。

 これは狼煙だ。


 破滅を纏い、針の穴ほどの生きる道しかない。

 そんな修羅道。

 

 でも不思議なことに、俺は死なない。

 死ぬ姿が思い浮かばないんだ。

 コイツと、エイラが隣に居れば。



 「では練習名は、第1回魔王討伐大作戦でどうだ?」

 「魔王討伐が練習っておかしな話だな。しかも第1回ってついてるし」

 「適当につけた」

 「だろうな」

 

 小隊としての初の活動が魔王討伐とはこれいかに。

 しかも名前のセンスが壊滅的だが、 もうこの際いいだろう。

 これからやるのはそんなこと気にならないくらいの事だ。


 「聞き忘れてたが、『どこの』魔王のとこ行くんだ?」

 「おお、肝心なことを言ってなかった」

 「で、相手は?」

 「ユーラシア大陸極東、吸血王ヴァンダルだ」

 「ロシアの赤い悪魔か……」

 「私も1度見たことがあるが、とてつもなかったぞ」

 「そりゃ魔王だからな」


 

 ロシア東部、それもさらに東の方で、ベーリング海に面する海岸に彼は居を構える。

 吸血王の名の通りで『血』の能力を持ち、世間からは『赤い悪魔』とも呼ばれる魔王だ。

 

 

 「申し分ない相手だろう」

 「上等だ」


 正直ここまで言った以上、どの魔王でも文句はない。

 

 「出発はいつにする?」

 「今日はもう遅い。 明日朝一でどうだ?」

 「めちゃめちゃ急だな」

 「周りに知られては止められるからな」

 「そうだなー……」


 これは自惚れじゃないが俺たちは貴重な能力者だ。

 政府も学園も失いたくない人材だろうし、止められるのは目に見える。


 

 「じゃあ身支度して明日出発だな」

 「そうしよう」

 「ただ、飛行機はどうする?」

 「私が任務で使うときのパスがある。乗客日時関係なく国家専用機に乗れるぞ」

 「じゃあロシアまでの足は大丈夫と……」


 移動問題なし。

 ロシア語もシンクロすれば習得可能。

 あとは気持ちの持ちようか。



 「後悔してるか?」

 「いや、むしろ楽しくなってきたよ」

 「旅行ではないぞ?」

 「わかってるさ」

 「なら問題ない」



 顔を見合わせる。

 まさかこんなことになるとは数日前まで考えてすらいなかった。

 そもそも魔王と戦うことなんて一生ないと思っていたし。


 「今日はこれで解散としよう。明日は早い」

 「そうだな」


 

 「では、明日」

 「ああ、あしたな」


 

 嵐が過ぎ去り、今は黄金色の太陽が光り輝いている。

 

 新たな刺激。

 

 新たな理性。


 新たな軌跡。


 俺たちは今、始まった。

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