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「大爆炎!」
「まだまだ。もっとよ」
「くっそ! 当たんねえ!」
ひと昔前、空飛びは箒に跨ってというイメージ。
ただ本当の魔法使いってのはその身ひとつ。
物語の中に幻想はおいてきた。
魔力を使って空間を操作、身体だけで宙を舞う。
(同調を封印しての魔法戦闘、やっぱりキツイ……!)
同調も銀も鎖で雁字搦め、魔法オンリー。
師匠との魔法による模擬戦、ひたすらに画工論理。
魔法を脳内で組み立て、閃光する思考と巡る方程式。
これは遊戯、魔法とは遊びだ、感情を最も色濃く表す直結列車だ。
師匠の動きは俊敏、責めるならば鋭さよりも爆発の広範囲攻撃が適している。
「水魔法と炎魔法、合成!」
水魔法を第2工程まで分解、炎魔法を途中プロセスにインプット。
高速の魔法合成、右辺と左辺を掛けるで繋ぐ。
イコール、導き出すのは人工原子力に匹敵、核融合ボマーヘッド。
「複合魔法! 水爆破!」
適当につけた名前と共に解き放つ。
魔法ってのは式と同じくらいイメージが重要。
恰好良かろうがダサかろうが、名ってのは魔法の外装に。
脳内でドーパーミンが炸裂、水爆を想起する。
「ぶちかませ!」
師匠は俺より上、物理的にも技量的にも。
大気を圧倒的エネルギーで捻じ曲げる、魔力の鉄槌。
俺の両手は天を仰ぐ、全てを飲み込まんと。
結果はすぐに、威力は絶大、速さとタイミング的にも良かったはず。
「————壁天魔法」
ただ俺の力技は力技で返される。
幾重にも展開される分厚い障壁。
それらが折り重なり1つの花弁にも、壁になって爆破を退ける。
爆風生まれる中で師匠は傷なしで空に浮く。
(真向から返された、追撃を————)
「魔法使った後の隙が多い」
「っしま……!」
「大風魔法」
「っ!」
頭に横から見えない拳が直撃で激痛的中。
脳髄に響く衝撃破。
情けない声を出してしまうがやむなし。
今日1日で何度目になるか。
吹き飛ぶ身体と同時に意識はフェイドアウトしていった。
魔法の修練に入ってもうすぐ1ヵ月。
魔力基礎は当然のことながら、単色魔法も大方制覇した。
合わせ技も使えるようになり、タイムテーブルは順調、そう師匠は言う。
ただ自分の中、やればやるほど不可視なる、超えられぬ壁を感じるように。
ダイヤモンドの牢、今度こそやろう、たが抜けぬ、扉はビクともしないのだ。
「————なさい」
誰かの声が俺を呼び覚ます。
応えるべきか。
魔法の式の中に俺はいる。
まるで果てなき海を泳いでいるよう、そろそろ溺れる時なのか。
いいや、まだ、まだ潰えぬわけにはいかない。
扉は見えてる、掴んでいるんだ、あとはこじ開けるのみ。
あと足りないもの、それは————
「起きなさい!」
顔に伝達される冷たさ。
北極が体感に侵入、水でもかけられたか。
「し、師匠……」
「やっと目覚めたわね」
「すんません……」
「意識は? ハッキリしてる?」
「それは、大丈夫です」
横になっている四肢に命令、二足直立を目指す。
ただグラリと揺れる。
足元がおぼつかない。
自己分析、限界がきてるのだ。
(今日だけで手合わせ100回以上、その内半分は気絶してる……)
いい加減ガタが来たというところか。
ボロボロも程々に、そろそろ壊れ始めそう。
「もう今日はここまで、これ以上の……」
「やります」
「ユウ……」
「扉が、見えてます」
何もない目の前に突き出すフラフラの右手。
ブラブラしていられない。
師匠は壁の先、扉の向こうにいるのだから。
俺はまだ手にかけているだけ、三流だ。
残された期間は1ヵ月と少しだけ。
意思は残留する、徹底的に追い込む。
「……魔法の真理が近いんです」
「だからって無理をしていいわけじゃない」
「でも、時間は限られている」
「限られているって、それは……」
「来てるんですよ、すぐそこまで来てるんです。この手が真理を掴むところまで」
何故だろう、笑ってしまう。
魔力は殆どスッカラカン状態、まるで師匠が飲み干したビールの空き缶のよう。
ただ残香は薫る、喉元まで迫る。
若干師匠が引いている、果たして俺はどんな表情で言葉を放っているのか。
今ならイカレタ科学者の心情も理解、進化を求めるこの心は狂気が支配を進める。
「っくっくっく」
「ユウ……」
「ホントに面白いですね、魔法ってやつは」
「このペースじゃ廃人に直行するわ」
「俺は脳筋なんで問題ないっす」
「はあ、貴方は……」
強欲の悪魔さえも殺す探求精神。
ガラスで覆われた空、俺は必ず打ち砕く。
残り少ない魔力をメラメラ燃やす。
大前提となる共和を目指し、魔力との共存を————
「共存をする必要って、あるのか……?」
魔力は生き物だと最初に叩き込まれた。
だからこそ隣人だと思って接した。
しかし共存、共和、均衡、それは本当の本当に重要なのか?
「どうしたのよブツブツ言って」
「師匠、魔力と協力することが、魔法の正しい姿なんですか?」
「正しい姿? なにを言って————」
一番初めの頃、俺は魔力の意思を無視して自分を最優先した。
だからこそ失敗して爆発、師匠に大爆笑された。
重ねすぎ、魔法使いが最初にやってしまうテンプレ失敗例だ。
それからは協力や共和という名の妥協。
ご機嫌伺いとまでは言わないが、ある種の制約を掛けていた、だがそんなもの————
「そんなもの、要らねえわ」
魔力は生きている?
共和なんて捨ててしまえ、俺はファシズムに。
ヒトラーさえも度肝抜くような、超一党で超一強の世界観。
俺が力づくで引っ張っていけば問題ない。
「もしかしたら、これが正解か」
「待ちなさいユウ! それは……!」
絡まった鉄格子を叩き割る、鍵で開けなくたって外には出れる。
考えすぎていたのか、いやはやなんとも。
確かに魔法式は重要だとも、流石にそれを捨てるなんてことはしない。
だがだ、もっとイメージ。
全身を使って思うがままに。
マキシマムで脳筋プレー。
「魔力、全開放」