109.5 with Recognition
「まだ行方分からないらしいっすね」
「アイツに限って死んでるってことはないだろうが……」
「でもやっぱ気にはなるっす」
1週間前、フィンランドにて謎の災害が発生。
死者多数、建物損壊。
現場は都市としての機能を果たさず、荒野に変わったとか。
国連が急ピッチで対応してる、らしい。
これらの情報はあくまでテレビ上、実際はどうなのか。
(災害じゃなくて、何者かによって引き起こされたって可能性もゼロじゃない。むしろそう考えた方が————)
仮に公共電波を信じるとして、最も重要なのはその次。
事変起こった現場に出くわした人物について。
SS級の赤眼の殺し屋、そしてユウ。
この2人がちょうど居て、住民避難に尽力したそう。
しかし結果として赤眼は重傷、ユウは行方知れず。
(アイツの言ってた仕事ってのが一体何なのか……)
俺の予想じゃ、出くわしたのではなく、出会った。
偶々なんてことはない。
災害と呼ばれるナニカに関わることをしに行ったんだ、そして失敗した、ヘマをした。
ファンタジーでありがちな封印されし邪龍を呼び覚ましたと同等。
災害ってのは魔王か神か、自然なんて生易しいもんじゃないと思う。
「でも意外にフォード先輩は大人しいっすね」
「それな。特に気にして無さそうなんだよ」
「もしかしたらユウっちの消息を知ってるとか?」
「実際あり得る。なんせSSS級でユウの相棒、国連が情報渡しても可笑しくない」
何も教えなければフォード先輩はきっと暴走する。
暴走といっても暴れるとかではなく。
ユウ探しに躍起になるという意味。
SSS級の力は絶大、フォード先輩が居なくなるのは困るはず。
相棒という点でも、戦力という点でも、ユウについての情報提供をされている可能性は低くない。
「この調子じゃまた留年っすかね?」
「いや、今回は大丈夫だろ」
「そうなんすか?」
「元々政府の依頼で動いてるっぽいし、流石に配慮はされんだろ」
「へー」
今回は自分勝手な行動で欠席してるわけではない。
結構前だが受けるかどうかの相談もされたし。
政府絡みなのは間違いない。
留年、もとい単位についてはさして問題無し。
問題なのは————
「ユウのやつ、一体何処で何をしてんだか」
「退屈だ」
イースターも終わり学校は再開。
ただ日常は訪れない。
それはユウがいないから。
赤眼と仕事をしに行き、それっきりだ。
「はあ、学校が長い……」
アイツが居ないだけで授業はエターナル。
放課後も寄り道することなく一直線で帰宅する。
季節故、段々と下がっていく気温、この感情も下降線気味。
「早く帰ってきて欲しいものだ」
少し前に政府からユウについて話をされた。
なんでも任務中に、かなり厄介な相手に遭遇、そして相当追い込まれたようだ。
それは命の危機にまで到達、もう死ぬ寸前まで来たとか。
「だが、あの魔女王がユウを助けたと言うのだからなぁ」
ギリギリのところで魔女王が介入。
その危機を塗り替えたらしい。
(ユウは魔女王を師匠と呼んでいたしな。その繋がりなのか?)
よく分からない。
ただユウが魔女王のことを師匠と謳っていることは知っている。
普段は口外しないようだが、私にだけは大体教えてくれた。
曰く、魔力を貰ったとも。
(その後、魔女王はユウの身柄を奪った。そう政府の連中は言っていたが————)
赤眼だけは此方に返還されたらしい。
つまりユウだけは連れ去られた、偉い奴等はそう解釈をしている。
ただユウの見る目は確か。
師匠と呼ぶ魔女王がロクでもないことをするとは思えない。
きっと何か訳、理由があるはず。
少なくとも殺されたり、痛めつけられることは無いはず、むしろ————
(師匠とは弟子に技を教える者、この間にも魔女王はユウに何かを授けているやもしれん)
心配はしていない。
強くなれと言って背中を押した。
アイツなりにの答えを持って帰ってくるはずだ。
左手が薬指にはめられた指輪がなによりの証。
「だとしても、退屈なものは退屈だな」
鍛錬をして気を紛らわせるとしよう。
それに、私自身そう易々と抜かれる気は無い。
いや、むしろまったく無いとも。
空見上げて夕暮れ色、ユウもこの空の下にいる。
思いは通ず、切磋琢磨の精神はシンクロ。
私は聖剣振りつつ、信じて待つのみだ。