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「魔力は生きている、単純な力じゃない」
「い、生きてるんすか……」
「ええ。だから押し付けるのではなく共和」
「魔力さんとの共同作業と……」
「その通り、そして今行っているのがその第一歩————」
座禅みたいな様式、両脚折り曲げ大地の上。
右と左、対になる指と指を合わせる。
合掌に似ているポージング、蓮の花を咲かせるか。
高める魔力、強引に使っていたものを繊細に。
まるで雲を掴むよう、割れないように、砕けないように、全ての神経張り巡らせる。
「正直めっちゃシンドイ……」
「喋れている内はまだまだ余裕ね。とりあえず意識落ちるまでやるわ」
「気絶するまでって、しまっ!?」
「はあ、集中力切らすから」
鎧のように魔力を身体に纏わせていた。
ただちょっと反応しただけで膜ははじける。
途端に襲う倦怠感、体感はヘヴィー、消耗で体幹がグラグラ揺れる。
(初歩の初歩でこれ……、こんなに難しいもんなのかよ……)
もともと人には使えない力。
楽に手に入るとは考えていなかったとも。
師匠が自分のものと言い張るこの島で修業はスタート。
しかしその初日はなんとも、力に壁を感じる。
「じゃあ初めからよ」
「うっす、まずは————」
まずは魔法にとってのエンジン、起動元たる心臓に働きかけ、魔力の核を形成する。
そして神経と血管に一定の量で流し込んでいく。
これがまあ難しい、今までは力任せで強引に詰め込んでいた行為を、両手で皿の山を運ぶぐらいに繊細化。
更にだ、話はそこで終わらない。
その状態かつ、長く続く細道を歩くくらいのことをやっているのだ、それも即興で。
(だけど俺はそれをやらなきゃいけない。いや、やってみせるとも)
「魔力、集中」
魔力は生きている。
1つ1つは小さいものだが、確かにこの体で息吹を吹いている。
俺はお願いする、力を貸してくれと。
一点集中、実践スクール、理屈を捨て感覚のフルマックス、心臓を感じろ。
自然に佇む大狼が孤高の鋭さ、シャープかつダイナマイトのようにダイナミック。
持ったハートはまるでアトミック。
纏う紫を色濃く、強く、美しく開花していく。
「たった1、2時間でここまで、やっぱり貴方は……」
師匠が何か言っているが、周りの声に意識を傾ける余力はない。
目下目前目標に全てを。
段々と鮮明に、より現実に姿をあらわ————
「っぶへ!」
いいとこまで来た、かなり深く潜れて、このまま行けるとこまで行けるかと。
ただそこに立てられる一時停止看板。
纏っていた魔力は突如爆発、凄まじい衝撃が、髪の毛が燃えたんだろう嫌な臭いもする。
まるでコメディー、博士が調合失敗して丸焦げになるのをリアル再現してしまう。
「くそ、なんで爆発したんだ」
「……」
「今の原因はなんで、って師匠?」
「……っふ」
「師匠どうして顔隠すんです? もしかして笑ってるんですか?」
「わ、笑って、ない、わよ。っふふふ」
「いやいや笑ってますって! 酷い! 俺は真剣にやってるのに!」
「っふふ、あはっはっはっは!」
「もう隠す気も無いじゃないですか……」
「ご、ごめんなさいね。久しぶりにその失敗を見て、っくっくっく」
(普通にツボってるし、そんなに面白いかねこれ)
笑いながらも、燃えた髪の毛は師匠が治してくれる。
まさかの元通り、いやはや助かった。
にしても魔法ってのは凄い、こんなことも出来るんだと憧れはさらに高くにシフト。
この力には無限に等しい進化先が。
探求の冒険はまだ序章、しかしトム・ソーヤも驚くぐらいの可能性を秘めている。
「さっきの失敗、あれは重なりすぎなのよ」
「重なりすぎ……?」
「自身と魔力が一体化しすぎて負荷が大きいの。間合いはしっかり考えなさい」
「なるほど」
「それとその失敗、私の友人が同じことをずっとやっていたから」
「だから笑ってたんですか」
「ええ。とても仲の良い友人だった。懐かしいわ」
どうやらさっきは、魔法使う者にとってのザ・失敗。
失敗のテンプレとも言えるもので、やったら笑われるそうだ。
レベルとしては着た服の前後ろが逆だったという感じ。
ようはアホ、見習い魔法使い最初の失敗。
(しっかし師匠にも友達がいるんだなあ)
聞いたことのない人間関係、新鮮だ。
ただ考えてみれば師匠は人間なのだろうか?
見た目は100パーセントで人、というか美人。
1つも魔族的特徴は見当たらない。
ただ魔族にしか使えないはずの魔法を使えているし。
最初から最後まで分からない、謎だ、謎だらけ。
でも放った懐かしいの言葉、故郷がどこかにあるのだろうか。
(俺が詮索するのもな、まずは魔法のことに集中しねえと————)
気になりはするが、それより目の前のこと。
それに俺が立ち入っていい領域かも怪しい。
ここはでは触れないでおく。
「あ、それと」
「はい?」
「同じ失敗をしたらお仕置きがあるわ」
「は!?」
「1回目は仕方ない、ただし2回目以降は厳しくする」
「せ、折檻すか……?」
「人聞きわるいわねえ、愛の鞭よ」
「同じでしょそれえええええええ!」
師匠が言うには折檻ではなく愛の鞭らしい。
それイコール記号が間に挟んであるでしょ。
一体どんなことをされるのか、考えただけで恐ろしい。
「はい再開」
「ま、魔力集中……」
ならばこれ以上失敗しなければいいだけの話。
成功すりゃ文句ないだろ。
ただ、そう決意したのも束の間。
現実とは思い通りにいかないもの。
修行初日、俺は師匠のお仕置きフルコースをこの身に刻むことになった。