106.5 with Observation
「————ユリア・クライネから緊急信号!」
観測室に轟く1人の声。
ただ収まりはせず。
むしろそれを一陣とし、他の観測員からも次々と状況報告を。
その様子は暗黒の木曜日も凌駕、焦りと汗がはじけ飛ぶ。
「凄まじい物質影響力を観測! パーセンテージ200オーバーです!」
「空間崩壊も確認しました! しゅ、瞬間値4000! 今なお上昇中!」
「フィンランドより特級の救援要請を受信!」
「衛星座標固定を完了! 目標地点をモニターに出します!」
国連本部、観測室に響くサイレン音。
これは緊急の中でも緊急のものにしか鳴らぬもの。
観測員たちがアタフタと動き回る。
本部内に居た重役たちもすぐに駆け付け、原因を映すモニターを注視。
現況を創り出し元凶を確認する。
「早い、早すぎるぞ……」
目に映るのは人型をした美しいモノ。
生物ではない、審判という1つの概念だ。
かの英雄、賢者の書が予言したことが現実に起きてしまう。
しかし、重役たちはその存在の出現はまだ先と見込んでいた。
予言にはあと数年の余地があると。
「まずは現地民の避難を最優先しろ! それと、SSS級で現場に今一番近いのは誰だ!?」
「ろ、ロシアSSS級、絶氷がサンクトペテルブルクにいます!」
「奴に国民避難を手伝わせろ! 最悪の場合を除きアレとの戦闘は避けるように伝達!」
「了解です!」
映像では変幻と赤眼が交戦中。
ただかなりの深手を負っている。
彼らが持ちこたえてくれるのも時間の問題だと全員が察知。
すぐにでも支援体制を整える。
ただその中でも国連幹部たちの表情は暗い、案じているのだ。
「やはり強い、いや、強すぎる」
「ですが変幻がいて助かりましたな!」
「ええ。彼の能力は広範囲で応用が効く、良く持ち堪えてくれてますよ」
「しかし耐えるのも時間の問題」
「その通りだ! まだ我々は、彼らを失うわけにはいかない! すぐにでも————」
ここでSS級2人のロストは人類にとって痛すぎるもの。
アレが顕れてしまった以上、戦いが遠くない内に起きる。
地球の歴史で最も苛烈過酷を極める戦争が。
そのためにも、彼らを失うわけにはいかない。
ただ現実とは冷酷で端的なもの。
そうこうする間もなく、力の前に赤眼は地に伏してしまう。
残るは変幻たるユウ・ヨンミチのみ。
「まずい、まずいぞ」
「このままだと殺されてしまう!」
「絶氷は!?」
「ま、まだロシア上空です!」
「くうぅ……!」
卑下には出来ない、これでも良く戦った方、素晴らしいとも。
AAA級以下の能力者なら瞬殺、数秒と持たない。
そこを数分伸ばしているだけで相当な神がかり。
ただ、その神も人を助けてはくれない、変幻の首はもう飛ぶところまで来ているのだ。
「ここで————」
終わってしまうのか、いや、そうはならなかった。
観測室、ここに居る人間全員が思い知ることになる。
変幻は神に等しい豪運、九死に一生を得る絆があったと。
何故か何故か、来るはずのない魔の者、とてつもない威力の魔法を放って登場。
ユウ・ヨンミチの危機を救う。
「む、紫のパターン色! 魔女王です!」
落雷の如く、どこからか出現。
審判下す者を魔法の海で飲み込む。
能力ではない、人が使えぬ魔の法が起こす奇跡。
「何故魔女王が……」
どうして変幻を、ヨンミチという男を助けるのか。
ここ最近、変幻には魔法のようなものを使用したという疑いがあった。
しかしDNAは人間で確定。
魔法が使えるはずないのだ、だからこそ銀神絡みの能力だと勘違いしてたのかもしれない。
「変幻も紫色の能力を使う、もしやあの力は……」
ただその不可思議を問う暇はない。
アクションは止まることはなく次々と。
魔女王はナニカ魔法を発動、今度は赤眼の殺し屋ユリア・クライネに。
紫に飲まれ忽然と姿を消し————
「うお!」
「どうした?」
「と、突然————」
下方、観測員座る座席近くに、フィンランドに居たはずのユリア・クライネが現れる。
どういう原理か、おそらく転移魔法なるものの仕業。
どちらにせよ画面を超えて此処に。
傷と出血は相当、危険な状態だ。
「すぐに医療班を呼べ!」
「了解です!」
一体魔女王は何がしたいのか。
この場にいる誰もが困惑。
だがアレと対立していることは確か、出来れば共倒れして欲しいと重役たちは思う。
しかし戦闘は続かず、魔女王は退散のよう。
己の足元に魔方陣を展開、転移だろうか、しかし一番目が行くのは魔女王のその手。
「ま、まさかユウ・ヨンミチを連れていく気か!」
倒れた変幻、その身体には魔女王の手が添えられてる。
そしてもう用は無しと。
最後の最後、魔女王は気付かないはずのこのモニターに向けて笑みを浮かべる。
映し出される高貴な笑み、それが何を物語るのか。
魔法は描き出す、想像と現実を越える不思議なナニカを。
11月が初旬、世界は終わりと接触。
そして同時に、変幻が魔女に奪われた瞬間でもあった