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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 8 -Starting of the END 《魔女王の後継者》-
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 「……さむ」

 「ロシア育ちが何言ってるんですか」

 「……あったかくして」

 「はあ、大気同調アトモス・シンクロ


 ユリア先輩の依頼を受けた俺。

 イタリアで一度合流し、向かったのは北欧がフィンランド。

 雪降る妖精の国が仕事の舞台だ。


 「……ユウは便利」

 「もしかして寒さ対策に俺連れてきたんですか?」

 「……それもある」

 「堂々と言いますね、まあいいですけど」

 

 11月に突入、気温はマイナスを切るかギリギリのところ。

 イタリアより断然寒い。

 豪雪なんてことも無いが、ハラハラと白い結晶が降る。

 降り立ったヘルシンキの街並みも薄白色だ。

 乱雑に切られたユリア先輩の白髪も、何時もよりかは目立たなく感じる。


 「……とりあえずホテル」

 「今日は何もしないんでしたっけ?」

 「……打ち合わせだけ」


 ぶっちゃけた話、俺はユリア先輩から仕事の内容を全然聞いていない。

 話してくれなかったというのが正しいか。

 この初日はミーティングに費やすのみ。

 意外とスローペース、学校が1週間休みでも依頼の期間は未定なのだから当たり前。

 まさか学業に合わせて急ぐはずも無し、万全を期す。


 (それに学校に間に合わなかったとしても、政府の依頼ってことで出席考慮してくれるらしい)


 聞いて安心、やるのも安心。

 つまりマインドは平穏、ただ気温湿度、周りの環境はどうか。

 能力で寒さを断絶しているとはいえ、イタリアからフィンランド、暖房効いた部屋に行きたいのが正直なところ。

 一旦気を休め、この国に身体を慣らさねば。

 そうして事前に予約を取っていたのだろうホテルへと向かう。

 数十分歩いて目的地に。


 「……着いた」

 「ここですか、しっかりホテルしてますね」

 「……しっかり?」

 「エイラと旅したときは、ほぼ毎日野宿だったんで」

 「……バカ」


 先輩が気温に対する能力を持っていないということもあるが、やはり同じSS級でも野宿は極力しないそう。

 しかも雪積るロシアでと言ったら、そりゃもう嫌そうな顔。

 曰く絶対御免らしい。

 今いるホテルについては高級でもなく低級でもなく、丁度いい感じのミドルクラス。

 この時期ながら観光客もチラホラといる。


 (街観光っていうよりも、オーロラを見に来たってところか)


 荷物には三脚、首にはカメラをぶら下げと。

 かの有名なオーロラを観測しに来たのだろう。

 11月も初日、今だったらまだ間に合うな。


 「……チェックイン」

 「してきますよ」

 「……たのむ」


 (どう考えてもその身長じゃ受付に届かないでしょうから)


 俺の胸元にギリギリ到達するかしないかのユリア先輩の頭頂点。

 身長が高い欧州人、彼らに合わせ造りも高めの仕様。

 ハイ・トールでハイ・モードだ。

 ただ先輩の見た目は完全ロリ、受付さんに怪しい目を向けられるが、俺のメンタルは鋼鉄で出来ているから大丈夫。

 なんとかチェックを済ませたならレッツゴー。

 上階へとシフト、指定された部屋へと向かう。


 「ていうか同室なんですね」

 「……なにかあった時のため」

 「そりゃまあそうですけど」

 「……ベットは2つあるから大丈夫」

 「そうじゃなきゃ困ります。流石に同じベットで寝るのは厳しいっていうか、エイラに知られたら殺されるんで」

 「……そっか、……結婚おめ」

 「まだしてないですよ」


 俺とエイラの関係は世界に発信されている。

 指輪のことも先輩は知っていた。

 それにしては軽い祝福。

 まあ先輩なりに祝ってくれているんだろうけど。


 (緊急時に備えて同室は仕方ないか、そもそもホテル確保してくれたのも先輩だし、文句を言える立場じゃない)


 ゴールインの話は置いといてルームイン。

 これといった特徴のない部屋空間。

 ベットが2つ、あともテンプレ通りの造り。

 扉閉めて回す鍵、一応の施錠行為。

 捻れば曲がりそうな錠をとりあえず働かせる。


 「……周りに怪しいのいる?」

 「今のとこ感じてないです」

 「……私も、……後は空間把握よろしく」

 「了解です」


 大気を同調。

 周囲一体を支配下に、あらゆる熱源を感知し敵がいつ来ても大丈夫なように。

 また空間の波長を弄って、音を外部に漏れないように。

 ここは密室、不可視なる鎖張る絶対領域の完成だ。


 「……改めて仕事の話」

 「やっとですね」

 「……ちなみに難易度はSSS」

 「一発目に凄いカミングアウトですね」

 「……あくまで暫定」

 「でも超高位の魔王討伐に匹敵する可能性もあると」

 「……うん」


 人外を相手にする場合、その仕事には能力同様ランク付けがされる。

 ユリア先輩が言ったSSS級とはその中でも最高難易度。

 ただ情報少なく、あくまで仮定の格付け。

 気を引き締めるためにも、あえて高く見積もっているらしい。


 「……これ」

 「写真ですか、学園祭で見たやつと一緒?」

 「……それに追加」

 

 ユリア先輩が見せてきたのは数枚の写真。

 学園祭の時は1枚見ただけだが、それはぼやけていて何かわからなかった。

 ただ投下される詳細資料、領分は拡大する。


 「これは……」

 

 改めて露わになる仕事の全容。

 新たに見せられた写真の内容、それは殺戮現場だった。

 一般人が見れば吐き気を催し、見続けることは困難になるだろう。

 飛び散った脳や臓器が大地を覆っている。


 (だけど一番気になるのは————)


 「この死体の山、人間だけじゃないですよね?」


 写真を見た感じ転がっているのは人間、だけのように思える。

 しかしだ、グチャグチャの肉塊の中には、魔族の特徴たる角や翼が混じっているようにも。

 パッと見で殺戮劇には人間だけでなく、魔族も踊っていると感じた。

 相対する、何時もぼんやりした赤眼も鋭く締まる。

 どうやら俺の問いかけは正解だったらしい。


 「……撮られたのはフィンランドの北」

 「北部にいる魔族って言えば、海特化のゴブリンですか?」

 「……いえす、……人間は近くに住む地元民らしい」

 「単純に人と魔族の抗争、共死にとかじゃ?」

 「……それが違うっぽい」


 そしてここぞとばかり、最後に提示される写真。

 原点に回帰、それは俺が学園祭で見せてもらったボヤけたものだ。

 たぶん人型、ギリギリ生物かなと分かる程度の解像度だが。


 「……犯人はコイツ、かも」

 「かもって、また曖昧な言い方ですね」

 「……国連の連中はそう判断した」

 「つまり俺たちはそれを確かめにきたと?」

 「……その通り」

 「なーるほど」


 人間も魔族も見境なく、殺戮をした謎の存在がいる。

 いると予想している。

 まあそこに至るまでには幾つものプロセスがあったんだろう。

 詳しいことは政府の奴等しか分からない。

 ただ最終確認はこの俺たちがしに行くと。

 これ今更ながら、死に逝く可能性めちゃくちゃ高い案件じゃないだろうか。

 

 「やっぱエイラ連れてきた方が良かったんじゃ?」

 「……殺戮の後は南下、……都市に潜ったらしい」

 「っげ、マジですか」

 「……もしやり合うのなら市街戦になる」

 「市街戦、確かにエイラじゃ厳しいですね」


 潜伏をする理由は簡単、身を隠したいから。

 事前に避難勧告をするのはリスキー、相手にどういう行動を取られるかわからない。

 そんな状況下、人が退避しきれない中で振るうエイラの力は自爆に等しい


 「でも先輩、もし本当に実在するのなら、クソ強いですよコイツは」

 

 人と魔族が描く死体のコントラスト。

 描き出したのは何者か、タダ者でないのは直感で理解。

 最低でも高位魔王クラス、もしくは神ということもあり得る。

 そんな力を持っていて群衆の中に潜伏とは、一体どういう神経している?

 何が目的、俺たちは一体何と相対してるのか。


 「潜伏予想地点は?」

 「……中部のロヴァニエミ」

 「結構な都市ですね」

 「……逆にもう居ない可能性もあるけど」

 「次の場所へ移動してると?」

 「……うん、……とにかく行ってみるしかない」


 自分の中に嫌なフラグが立つ音がする。

 それも今までの中でトップクラスのやつ。

 

 「……ユウの仕事は探知」

 「同調、それと神力で探すと。地味にツライやつですね」

 「……私は主に戦闘、……探し中のユウを守る」

 「索敵に全力を、分かりました」


 この後も細かい指示や、特定のシチュエーションに対する行動など、案を煮詰めていく。

 しかし話し合っていて実感。

 やっぱりユリア先輩はプロ、その作戦、その考えには見習うべきことが多い。

 一度は同じ隊、最強の脳筋アルティメット・パワーズに属していながらも、ここには冷静なプランが並び立つ。

 その綿密な打ち合わせは星が真上に輝くまで続いた。

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