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「————そういやユウはもともとコッチに住んでたのか?」
「最近来たばっかりだよ」
「でもイタリア語ペラペラっすよね?」
「辞書とシンクロした」
「うわー……」
午前の授業が終わり、今日は無事に昼休みを送っている。
『無事』というのは、模擬戦とか色々あった昨日との比較だ。
人が詰めかけて休む暇もなんかく、あの時はパン1つ食べることもままならなかった。
途中からエイラも来るもんだから余計ややこしくなる、なんて思ったが逆にみんな引いて帰ってしまったんだから、エイラさまさまだったけど。
昨日で今日と続くかと思っていたけど、エイラの威光が働いてこうして無事に休み時間を過ごせている。
「午後は実技授業だっけ?」
「ああ。内容は集団戦闘における配置と役割だったはず」
「……小難しそうな内容だな」
「ユウ君は半年遅れての飛び入り参加だから大変だよねー」
「日本も9月スタートにすればいいのに……」
イタリアは9月から新学期となる。
4月の今の時点なら、他の連中は半年以上いっしょに学校生活を送っているわけだ。
学科自体も進んでいるけど、何より厄介なのは実技。
集団行動、連携が多い実技授業は半年遅れの俺にはキツイだろう。
「心配しなくてもユウっちなら余裕っしょ」
「そうだよー大丈夫だよー」
「……ザック、……アリーナ」
「むしろ俺のポジション代わってやろうか?」
「トニー、お前はサボりたいだけだろ」
俺を心配してくれているのはザックとアリーナ、一応トニーもか?
アリーナは見た目小学生だけどすごい頼りになる。
ザックも模擬戦で戦った後はよく話すようになった。
2日目にしてこんだけ話せてるんだから、俺結構コミュニケーション能力あるんじゃないか?
「模擬戦でコテンパンにされたのが思い出されるっす」
「あれは見ててマジでちびりそうだった」
「もはやイジメだったもんねー」
「……変に手加減したら悪いと思ったんだよ」
こんなこと言われるけど。
母よ、俺にも友達ができました。
エイラっていうバカとも知り合ってしまったけども。
ただエイラの存在で、こうやって昼休みに飯を食う仲間ができたともいえる。
「それで学園はユウっちとフォード先輩の話で持ち切りっすからね」
「早く収まって欲しいの一心だ」
「そりゃ無理だろ。こんな面白い話題はない!」
「ねー」
面白い話題か。
まあ確かに、同世代で唯一のSSランクと、この学園で唯一の、編入してきたばかりのSランクが小隊を組んだんだから、しかも2人だけで。
この俺とエイラの話は、教師、生徒、清掃員さんに至るまで1日で学園中に広まった。
「しっかし、あの孤高のエイラ・X・フォードがねー」
「孤高?」
「普段はいつも1人で行動してるよねー」
「そっすよ。今までいくつか小隊にも入ったらしいっすけど、すぐ追い出されたらしいっすから」
「……孤高か」
「並はずれた力を持つ故、周りと合わせられないんだろな」
エイラの力は常軌を逸してる。
挑んだところで一蹴されるろうし、小隊戦となったところで合わせられるはずがなく性格も相まって連携するのは困難だろう。
俺だってSランク、ある程度自分に自信はあった。
しかし大聖堂での一戦は本当に死を垣間見た。
「ユウがここに来たのは本当に運命だったのかもなー」
「運命?」
「今までフォード先輩と戦える人はこの学園にいなかったからな」
「確かに良くてもAAAの会長ぐらいっすもんね」
「じゃあやっと隣に並べる人が現れたってことなのかなー?」
「隣に並ぶ、か……」
イタリアに来て、周りの連中は俺に躊躇いを持たない。
それはエイラというさらに格上の存在がいるから、ある意味『慣れている』んだろう。
俺が日本にいたときは年齢が重ねてくにつれ、理性、知性がついていき、仲の良かったヤツは俺の力を見ると自然と離れていった。
まだ能力をうまく使えていなかった当時の俺は悪魔にでも見えていたんだろう。
それでも幼馴染たちがいたからまだマシだった。
でも流れていく毎日が、軽く、薄く感じた。
アイツ程かはわからない。
わからないが、 少しはわかる。
エイラの『孤独』が。
俺に初めて会って戦っている時も、無邪気な子供みたいな笑顔だった。
(あんな笑顔で剣振られるんじゃ怖いなんてもんじゃないか)
「フォード先輩もお前と一緒にいると楽しそうだよ」
「私、昨日初めてフォード先輩が笑ってるの見たかもしれない」
「俺もっす!」
「そうか? よく不敵な笑み浮かべてるぞアイツ」
意外とエイラの存在で助けられたこともある。
もう少しちゃんと接してもいいかもな。
「今更っすけどフォード先輩、見た目は完璧美少女っすしね」
「おう! 煌めく金髪! 整った顔立ち! ボッキュンボンボディ!」
「女の子の理想だよねー」
「ユウー、実は惚れたりしてるんじゃない?」
「あり得るっすね!」
「ねーよ!」
見た目いいのは認めるが、別に惚れてなんかいないぞ。
アイツは性格が破綻しすぎてる。
「ほらこれから2人で練習あるだろうし、練習中誤って……」
「間違えて押し倒したりとかっすね……」
「おーユウ君頑張ってください!」
「……お前らの脳内お花畑か?」
さすがにハッピーすぎな思考だろう。
「フォード先輩とは今日会うのか?」
「放課後にな」
「期待してるっす」
「頑張ってくださいー」
「だから何もないっつーの……」
鐘が鳴る。
時刻は13時を大きく回っている。
話していただけだったが大分時間が経ったようだ。
「さ、実技だしそろそろ移動するか」
「そっすね」
「あーあ、もう始まっちゃうのかー」
居なかった数人も教室に帰ってくる。
そこにはルチアの姿もあるが……
(相変わらずゴゴゴゴってオーラが出てるな)
まあ時間をかければどうにかなるだろう。
たぶん……
「トニー」
「なんだ?」
「次の授業、 お前をぶん殴る」
「は? え? なんで?」
「なんとなくだよ」
「えええええ」
ルチアは一旦保留。
今は周りに追いつくことが最優先。
俺にはこの能力がある。
全ては流れだ。
きっとどうにかなる。
「おいユウ、俺なんかしたか? おーい?」
「だからなんとなくだって」
「意味わかんねえええ、実は脳筋か?」
「そうかもな」
「おいおいおい! ザック助けてくれー」
皆とともに移動を始める。
向かうのは昨日と同じ屋内練習場。
「諦めるっす。俺にはユウっちを止める力はないっす」
「そんなあ、俺は死にたくねええええ」
授業が始まるまで、無駄に大声でトニーは叫ぶのだった。
それが原因で、エイガー先生にトニーがぶん殴られたのはまた別の話である。




