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「な、なんだこれ……」
学園祭からネクストデイ。
授業は行わず、片付けだけが今日の登校理由だ。
そんな1日、緩い登校時間、ただ俺は遅刻してしまう。
言い訳だが、今の今まで色々あって来るのが間に合わなかった。
教室入って一発目、どうせ皆に咎められるか呆れられるかと思っていたんだが————
「「「「「おめでとう!」」」」」
開口一番は祝辞。
片付けしてると思ったら待ち伏せしてたとばかり。
しかも中央にはケーキまで用意してある始末。
もちろん意味は察し、ただ仕事早すぎるだろ。
「いやあ遂にユウがなあ」
「短いようで長かったっすねえ」
「でも学園新聞で知ったときは感動だったよ」
「うんうん。女の子の夢だもん」
「……おとぎ話、です」
どうやらまたも凄腕パパラッチの仕業のよう。
視線を落とせば、号外と打ってエイラとのことプリントしてある新聞が置いてある。
大文字抜き打ち、告白大成功と冠むっている。
「昨日の夜の時点で可笑しいとは思ったんだ。なんせ俺に、今日は帰ってくるなって言うんだぜ?」
確かにトニーにお願いをした。
俺は寮生活なわけで、トニーとは2人でシェアルームな関係。
昨日はどうしても他人の居ない、個人オンリーの空間が必要だった。
そこで昨日だけはザックの部屋に泊まってくれと。
部屋に帰ってこないでくれと頼んだのだ。
「夜のことまでは新聞に載ってねえけど————」
「ユウっち、まさか—————」
「……」
言わんとすることは分かる、分かるとも。
ただこんな人いる場所で告白するものでも無いだろう。
言い淀み、言葉を言葉として出さず、表情で察してくれと念じる。
それでトニー達は理解したようだ。
「かー! やっぱり先に大人の階段を登っちまったか!」
「悲しいっす、仲間だと思ってたっすのに……」
「いや、非モテ同盟の入ったつもりはないぞ」
その面白い同盟に入ることは無さそうだ。
誘ってもらって悪いがお断り。
そして事実を知ってかトニーは興奮気味。
いや、怒っているのか?
どういう感情表現か分からないがとにかく暴走し始める。
「くっそ羨ましいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「と、トニー落ち着くっす! まだ時間はあるっすよ!」
「でも、相手がフォード先輩だなんて! お前を嫉妬だけで殺せそうだぜユウ……!」
「じょ、冗談に聞こえないんだが」
トニーから漂うオーラはS級、強者のもの。
どれだけ羨ましがっているのか、その気が物語る。
「止めなさい。みっとも無いわよ」
「る、ルチア! いいや! 男には譲れない時が————」
「炎細剣」
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」
「まったく……」
お約束になってきたお決まりパターン。
日本で言うところの漫才に匹敵。
トニーとルチアの組み合わせは中々面白い。
「意外に冷静っすね」
「まあ、大体分かってたことじゃない」
「ルチアっち……」
「あの試合で皆気付いた、この2人は私たちとは別次元にいるって」
「……そっすね」
「だからこれでいいの。でもヨンミチ————」
確かにその通り。
通り越していく常識街道。
どうしようも無い能力格差、そして常人離れの脳筋力の規格さ。
「次は、勝ちなさいよ」
何故だろう、国際戦の時がフラッシュバック。
決勝戦でも同じことを言われた記憶が。
あの時は果たせた、だが今回は失墜してしまった。
でも次は負ける気ない。
それはルチアだけじゃない、エイラとも約束したことだ。
「ああ。次こそは勝ってやるとも」
「なら、期待しとくわね」
また1つ増える背負うもの。
ただ幾ら増えても零すつもりはない。
どれだけ時間がかかるとしても、少しずつでも、俺がでかくなればいいんだ。
「たのもーう!!」
力強く扉を開け、というか扉外れてしまっているが。
これもお馴染みの光景。
快活に現れたのは、話が渦中の人物エイラである。
「仕事が無いと言われてな! 暇だから来たぞ!」
「また左遷されたのか……」
そりゃ教室入るだけで扉を破壊する。
片付けどころの話じゃないか。
「あれフォード先輩、それって……」
「ん?」
話す機会の多いこのクラス、男子はともかく、女子は今やエイラと普通に話すように。
あの試合を経たとしても特にビビっている様子はない。
現在進行形、目の前でも、本当に先輩と慕ってだろうアリーナが話しかけに行く。
「いや、左手の薬指に……」
「これか? ユウに貰った!」
「「「「「ええええ!?」」」」」
皆が注目するのは指にはめられた1つのリング。
指に輪が一巻き、それに驚いて皆舌を巻く。
「な、なな、なんで!? もうプロポーズ!?」
「……まあ、てか学園新聞で知ってるんじゃないのか?」
「知らねえよ! 告白成功しか書いてなかったわ!」
「お、おう」
どうやら学園新聞にはそこまでのことは書いてなかった様子。
流石のパパラッチも限界があったのだろうか。
どちらにせよ、周りは驚愕。
そりゃ告白してすぐのプロポーズだからな。
「フォード先輩! 見せてください!」
「うむ! いいぞ!」
男子は大体ここまでの流れでノックダウン、膝をついていたり、廃れていたり。
まあ素直に祝福してくれている、はずである。
逆にテンション上がり始めたのは女子連中だ。
皆興味津々にその指輪を見つめる。
「うわー綺麗」
「羨ましい……」
「いいよねえ、私にも王子様現れないかなあ」
「ないない。ていうかフォード先輩ぐらい美人じゃないと」
「現実は厳しい、か」
クラスの女子全員がいわゆる女子会モード。
エイラも嬉々として喋っていることだし、割り込むのは無粋か。
「ところで、そこのケーキ食べてもいいか?」
「「「「「どうぞどうぞー」」」」」
「いや、皆で食べよう。その方が美味しい!」
「「「「「フォード先輩……!」」」」」
友達と言えるかは本人次第だが、先輩後輩という関係にはなったはず。
先輩という呼称、形式だけじゃなくて、本当に慕うという意味で。
「フォード先輩、色々話してくださいよ」
「そうだね! ちなみにプロポーズは何処で!?」
「いやそれよりも何て言ったかでしょ!」
「あのヨンミチ君がだよね、気になるー」
「まあ落ち着け! 私は逃げん! まずはだな————」
エイラも口が軽い、昨日のこと言う気かよ。
普通に恥ずかしい。
でも止めたところで1時間坊主。
アイツはホントに大切なことは黙ってくれるが、自分が嬉しいこと、楽しかったことはペラペラ喋っちまう。
今だって俺との出会いからスタート、旅の話から現在に至るまで。
それに女子連中は食い入るように聞き、時折高い悲鳴を上げる。
(これじゃ片付けどころじゃないな、もう帰って————)
「さあユウよ、仕事を始めようか」
「と、トニー……?」
「サボった分、今日清算っすね」
「ざ、ザックまで……、お前らの目が怖いんだが……」
「「「「「そんなことないよ」」」」」
「は、ははは……」
男連中の眼はギラギラと。
どうやら今日の片付けのMVPに俺はなれそう。
むしろ仕組まれてなるようなもんだけど。
徒然なんてことはなく、やることは多事多端。
俺とエイラの関係はちょっとだけ変化、ただこのクラスは変わらない、いつも通りの友でいてくれる。
イタリアに来て半年以上。
今更ながら、このクラスの皆に出会えて感謝感激雨あられである。