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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
124/188

99.5 with Eilla and Yu

 「おいまじか!」

 「あれ最悪死ぬやつっすよ!」


 繰り返された本気の攻防。 

 ただそこにも遂に終止符、ユウがフォード先輩に聖剣をぶっ刺された。

 危険な出血量、見てるだけで痛みが伝わってくる。

 本人にとっちゃ、もはや痛みもなんもない極限状態のはずだろうが。

 

 「これで決着が————!」


 誰もがユウの負けを確信。

 何故って、核心は聖剣によって突き刺されたのだから。

 しかしアイツはそこで終わらなかった。


 「————羅刹の王冠!」


 なんと聖剣を素手で鷲掴み、その動きを止めた。

 流石にフォード先輩も狼狽え静止。

 そしてここ一番、空に巨大な魔方陣が描かれる。


 「おいおいおい……!」


 俺なんかじゃ一生理解できないような幾何学模様の創造。

 想像できぬ未知との遭遇。

 紫の輝きが会場を照らす、光が眼を眩ませる。

 そして会場に鳴り響く危険警戒音、本来は最上級魔族の魔力に反応して鳴るはずのそれ。

 感じる、身の危険を。

 ここに居座っていてはいけない、逃げなくてはいけない。

 本能が全力で逃亡を指示する。


 『聖教の盾壁(ヘブンズ・ウォール)!』


 魔方陣に際し、来賓である聖女マクイエス様が盾を増強。

 あの大戦でも使われた最高位の防御結界だ。

 光が盾に、それが連なり壁となり、俺たちを守ろうとする。

 だがそれも————

 

 「神滅魔槍テンペスト・オブ・バリスタ


 魔法陣は轟く、それは遠吠えをするかのように響き渡る。

 地上が真下に発射される槍状のナニカ。

 瞬く間にユウたちを飲み込み、想像を絶する超爆発が起こる。


 「け、結界が割れるっす!」

 

 紫混じりの衝撃波が聖女の結界さえも打ち砕く。 

 だが威力は軽減、喰らったといえば途方もない突風くらい。

 ただその暴風は身体を飛ばすほどの威力。

 なんとか辺りのものしがみつく。

 そいうしてやっと耐え忍んだと思ったとき、ふと空を見れば雲が割れ、ある種芸術的な姿になっていた。


 「風の勢い強すぎて、ここだけ晴れちまったぞ……」

 「そ、そんなことよりユウっち!」

 「っ! そうだ! どっちだ、どっちが勝った!?」


 超常現象に度肝粉砕、ただ惚けている場合では無かった。

 塵と風が混ざり、よく見えない舞台の中心。

 戦場はもう原型崩れ、荒れた様子がチラホラと見え始める。

 

 (まさか2人ともダウン、いや死んでるなんてことも————)


 段々と晴れていく砂塵と霧。

 主役たちが明らかに。

 そして勝者が定かに。

 

 『しょ、勝者は! エイラ・X・フォードオオオオオオオオ!』


 そこには天を仰ぎ見る黄金の聖剣使い。

 その様子、一言で言うなら感無量。

 対してユウ、あいつは聖剣腹にぶっ刺さったまま、片膝をつき俯いている。

 ビクともしない、おそらく気を失っている、そう信じたい。


 「「「「「うおおおおおおおおおおおお」」」」」


 ここまでの激闘は劇にだって出来るレベル。

 おとぎ話みたいな力と技の連連発、超高度な戦い。

 この2人だからこそ出来た、一筆書き奇跡のストーリー。


 「あいつ、死んでねえよな?」

 「流石にちょっと怪しいっすかね」

 「なら早く行ってやろうぜ————」


 友人のピンチ、何時までも浸っている場合じゃない。

 医務室なり応急処置なり手を打たないと。

 出血は相当、打撃も後半は身体で受けてたし、外も内もボロボロだろう。

 動こうとした足、実際一歩前に出た時にだ。

 既にユウの相棒は動いていた。


 「フォード先輩、おんぶし始めたっすよ!?」

 「あの傷で自分で運ぼうとしてんのか!」

 「銀神様も出てきたっす……」

 「アイツは頼ってばかりだな。俺たちも行くぞ」

 「う、うっす!」


 フォード先輩が運ぼうと、銀神が出てこようと、俺は俺。

 具体的に何が出来るってわけじゃないが、今行かなくて何時行くよ?

 とりあえず、アイツが目覚めたら言ってやる。


 (滅茶苦茶カッコよかったぞって)


 敗北を知って、アイツは落ち込むかもしれない。

 それでも俺からしたら、あんなに恰好良い奴もいない。

 傍から見てただけなのに、フォード先輩に対する思いがビシビシ伝わって来た。


 (いや待て、起きたら俺なんかよりフォード先輩と話したいか)


 この様子じゃ、なんか今日仕掛けそうだし、茶化すの含めしっかり話すのは明日以降だな。

 にしても天下の脳筋相手、こんなこと出来るの本当にお前くらいだ。

 波乱のエキシビションマッチはエイラ・X・フォードの全勝利で終結。

 ただ最終試合、ユウとの決戦は、大きな伝説としてこの学園の歴史に深く刻まれた。

 観ていた誰しもが語り継ぐはず、あれは幻が現実になったような格別の試合だったと。















 「————っ痛」


 全身を蝕む痛みの大蛇。

 肉は焼けるような熱さを感じ、骨は軋んでガタガタ、頭の中も苦痛で一杯だ。


 「起きたか」

 「ん、エイラ……」

  

 一杯の頭に現在情報。

 ここは医務室、それは置かれた薬品瓶、巻かれた包帯、寝ているベットが教えてくれる。

 そして隣のベット。

 そこには同じく包帯だらけのエイラが横になっていた。


 「全然覚えてないんだが、結局どっちが勝った?」

 「無論私だ」

 「……そうか」

 「なんだ。案外アッサリしているな」

 「そんなことねえよ。内心悔しくて泣きそうだ」

  

 俺はエイラに負けたか。

 聞いてみれば、エイラはあの状況でも無理やり強化を発動したそう。

 つまりは槍を真向から受け耐えたというのだ。

 なら俺は————

 

 『我のお陰じゃぞ』

 (レネ……)

 『無茶をしおって。我が代わり身してなければ死んでおったわ』

 (ごめんな)

 『まったく。これからは修行100倍ぞ』


 情けないことに俺は槍を創ってすぐ気絶したそう。

 ただレネが勝手に顕現、代わりに槍の攻撃を受けてくれた。

 しかし相手は神殺しの魔槍。

 回復気味だったレネの神力はまたもゴッソリ失ってしまったらしい。


 『それとじゃ、今日は疲れた、もう寝る』

 (あ、ああ)

 『我を起こそうとしても無駄じゃぞ? 絶対に、ぜーったいに起きんからな』

 (そんなにクドク言わなく、あ……)

 『そういうことじゃ。戦いは戦い、愛は愛、気張れいよ』


 そう言って脳内からレネの声は消えていく。

 この後にあの告白ある。

 レネは寝るから絶対に起こすなと言うが、要は引っ込んでくれるということ。

 なかなかお節介な神様、だが俺はそういうレネが大好きだ。


 「どうしたボーっとして」

 「いや、なんでもない」

 「そうか、あと、今度クリーナ様にお礼を言っておけ」

 「クリーナ様、聖女様のことか」

 「うむ。ユウも私も、傷はクリーナ様が手当してくれたのだ」

 「どうりで回復が早いわけだ。痛みはあるけど、骨なんかも繋がってるみたいだし」


 死者さえ蘇らすという回復の腕前。

 折れたアバラも元の位置に。

 この技量は師匠の回復魔法にも匹敵してるかも。

 

 「だがすまない」

 「ん?」

 「聖剣で刺した腹部なんだが……」

 

 メンドクサイと包帯を取っ払いミイラから脱出。

 少し前まで聖剣が貫通していたそこには、一閃、鋭く大きな傷痕が残っていた。

 

 「中は治せたようなんだが、外までは、すまん」

 「命あるだけ全然いいさ」

 「まあ……」

 「むしろ戒めになるぐらい。未熟だとこうなるってな」

 「それは、ふふ、いや、そうだな」

 

 もう消えることのない聖剣の駆けた痕。

 左半身刻印だらけだったり、眼は銀色だったり、腹にはでっかい斬痕。

 フランケンシュタインでもドン引きか。

 ただ俺にはこれが形ある軌跡に、経験は力になる。

 

 「ユウ、今日の約束は覚えているか?」

 「夜の舞踏会、一緒に踊るってやつだろ」

 「そうだ。といってもこの身体だが」

 「まあ全身痛いわな」

 「とりあえず、あとで強化をかけてやろう」

 「それで痛みを鈍らすと、最高のアイデアだな」

 「「はっはっはっは」」


 何が面白くて笑うんだか。

 自分でもよく分からない。

 だがエイラが笑えば、俺もつられる。

 俺が笑えば、エイラもまたつられる。

 そういう関係、今日はそこから更に一歩先に。

 勝って堂々と言うなんて目標はご破算。

 だが言わないわけもない。

 結果は結果、受け入れてこそ進化がある。

 今エイラに言いたいことは山ほどある、だがそれは夜に全部————

 

 「夜が待ち遠しいな」

 「ああ。ホントにな」


 ボロボロの身体、窓辺から見る空はオレンジ色。

 夜の時間はすぐに訪れる。

 そして時が来たのなら、自分の気持ちを改めて伝える。

 戦場で言った気もするが、今度は血の飛ばないこの現実で。

 それまではこの医務室、エイラとの時間を噛みしめるとしよう。


 

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