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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
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 「————エイラ!」

 「————ユウ!」


 刀と剣は軌跡を描く。

 描いた先に仕留める相手。 

 手合いを越え死合いに昇華。

 軋む空間、旋風は裂かれ、眼には光の残像が。

 

 「経験同調!」

 『ユウ! これ以上は……!』

 「重ね経験同調!」

 『かあ! 死んでも知らんぞ!』


 キャパをオーバーして経験を行使。

 公私混同、レネは俺と共に。 

 握った刀、結んだ拳、敵は目の前にいる。


 「速度強化!」

 「大気同調!」


 瞬間と瞬間が交差する光の世界。

 速度は常識を越え、凡人は置き去りに。

 ここは俺とエイラだけしか存在しない。

 

 「地を起こせ! 大地同調!」


 ただ理性を失ってはいない。

 加熱していく中でも、核は融点手前で耐え忍ぶ。

 隙を、いつか訪れるチャンスを待って。

 最低限で最善の状況把握、大地を浮かせ足場を崩す。

 まるで天空上、ガレキとなった人工物の大群が視界と間合いを埋め尽くす。


 「レネ!」

 『っ任せい!』


 浮いたガレキ、障害物が目標への目隠しに。

 ただそれは意図的、力任せの真っ向勝負じゃこっちが不利。

 同調が舞台を制覇、青い粒子が彩るそこはまるで美しき聖夜。

 加速するスピードと脳回路、レネが身体を動かし迷路の中を突き進む。

 

 「ここは俺の世界だ!」


 障害の出現により、今までよりコンマ数秒遅れるエイラの動き。

 ただ俺はこうなることを察知、いや俺がこうしたいからこうした。

 躍れ、俺の手のひらマリオネット。

 加速と考えが混じり、まるで瞬間移動の如くエイラの背後に周りこむ。 

 

 「ぶっ飛びやがれ!」

 「っ!」


 背中に叩き込む神力纏ったミドルキック。

 エイラの背には爆弾なみの衝撃。

 そのまま延髄ブチ折るくらいに。

 

 「っ強化……!」

 「逃がすなレネ!」

 『当ったり前じゃ!』


 神力かなりつぎ込んだ、流石に苦痛の表情。

 男女平等主義の究極体。

 遠慮なしに追撃追撃追撃。


 (この機は逃さねえ!)


 身体操るレネが人体における急所を的確に正確に攻める。

 額、目、顎、首、心臓、肝臓、腎臓、上腕骨が隙間、肘後部からアキレス腱に至るまで。

 殺人刀の容赦ないオンパレード。

 

 「っさせん!」


 ただ野生の感性、崩れた態勢であるはずが殆どを弾かれる。

 本来くるはずのない所から聖剣が出てくる。

 なんてデタラメ、不可視なる攻撃に回避を余儀なくされる。

 結果として急所攻撃は失敗。

 ただ肩や脇、太腿は銀刀が軽くだが切り裂いた。

 傷口は鮮血を垂らすと共に銀へと変化する。


 「なんつー動きだよ……」

 

 銀化させた身体部位には強化は及ぶまい。

 つまりは若干の腕力低下とスピード減退を引き起こせた。 

 エイラにとっては些細なことかもしれない。

 しかし塵も積もれば山となる。

 攻略の手は鈍足ながらひたすらに進む。


 「————まだまだこれからだぞユウ!」

 「————望むとこだ」


 浮いていたガレキは沈下、観客にも全貌明らかに。

 ただ、もはや彼らには何が起きているか分かるまい。 

 刀を構えなおす。

 剣を構えなおす。

 瞬間的な戦いから一転、刹那に訪れる停滞の時。

 仕掛けるタイミング、間合いを見定める。


 「「…………」」


 ジリジリと視線をぶつける。

 心臓が潰れそうなぐらいストレス負荷。

 ただ押し潰れるわけには、少しでも気を抜けば首が飛ぶ。


 『ユウ』

 (なんだよ)

 『真向から行けば獲られるぞ』

 (なに……?)

 『感じるじゃろうが。聖剣使い、これまでで最高の覇気を放っておる』

 (つまりは突っ込んだら……)

 『負けじゃ』


 どうやら一定間合いでの見定め、このまま刀剣で戦闘再開したら負けは確定のよう。

 確かに、俺だって感じている。

 エイラが今最高の状態、狂喜と狂気の最高点にいると。

 踏み込んだら、死ぬ。

 0から1へのシフトに劣勢なのは分かった、なら————


 (重力反転グラビティ・リバース!) 


 「なんだ!?」

 

 加重があるなら逆も然り。

 マントルを逆さま、不意打ちの逆手(さかて)打ち。

 この場を疑似的な宇宙空間に変化。

 ただ世界事象への干渉が大きすぎる分、ほんの少ししか使えない。

 だとしても、その踏ん張っていた足、見事に地を離れるではないか。

 共にグラつく態勢、居合切りをするかのように張っていた神経の乱れ、気迫していた空気も軟化する。

 

 (エイラの集中が揺らいだ今が————)


 「大気同調!」


 自分の得意な分野、距離、攻撃は心得てる。

 このまま再びの剣戟に入る前に。

 浮かした身体そのまま、あえて突風を自分にぶつける。

 逆らうことなく吹き飛び、観客席、エイラの反対側へと。

 間合いの距離は数倍化、レンジを言うなら長距離に、それは俺が得意とするところ。


 「輝け刻印(ルーン)!」


 キロメートル単位で生まれた距離という名の猶予。

 即座に反応したエイラが迫ってくる。 

 ただそのまま近づけさせるわけも無し。

 魔力を左手に集中、背後に創り出す無限の魔法陣。


 「魔女王の力ここにあり! 神殺しの槍と今混ざり合う!」


 無際限に生み出した魔法陣、それは1つ1つが噛み合い、まるで歯車のように働きだす。

 今日まで魔法の練習を密かにしてきた。

 師匠に比べれば雑でみっともない形かもしれないが————


 「付加魔法エンチャイント! 紫の幾風槍(アナザー・テンペスト)!」


 ただ風の槍を多数放つだけじゃない。

 風は紫を帯び威力を増大、魔法が俺に力を貸す。

 舞台を紫に染め上げ、津波のようにエイラに襲い掛かる。

 その光景、まさに天変地異。


 「真開闢強化ラ・カルマ・ミラータ! 必殺脳筋技————」


 ただエイラも黙っちゃいない。

 強化の最終形態を使用。

 月との激突でさえ可能に。

 ただその情報もだいぶ前、もしかしたら月以上、太陽との激突にも耐えるかもしれない。


 「聖剣フルスイング!!」


 野球のバットと同じ、全力の一振り。

 津波の如く押しかかる魔の風槍、真正面から跳ね返さんと。


 「私は絶対に負けなあああああああああい!」


 轟。

 超特大ホームラン、津波からの生還法たるノアの箱舟も貫く聖剣の一撃。

 魔法の歯車はハンマーで叩き割られたように砕け散る。

 エイラは押し勝ってしまう。

 ただそんな凄まじい神業、俺は誰よりも成し得るだろうと信じてたさ。


 「エイラアアアアアアアアアアア!」


 津波に乗じて突撃。

 魔風槍が通じぬ時点でネタは底をつく。

 閃光の一迅、ありったけの神力の注いで刀を叩きつける。


 「ふっふっふっふっふっふ!」

 「なに笑ってんだよ!」

 「ユウこそ!」

 「そりゃ面白れえからな!」


 グチャグチャの思考、唯一保っていた核も熱気で爆発。

 接触により戦場の世界も凄惨せいさんに。

 肉も骨も斬らせて首を断つ、大丈夫、骨なら気合で持ちこたえるさ。


 「大好きだぞユウ!」

 「俺もだよエイラ!」

 

 皮膚に剣が侵入、肉と肉の間に切れ込みを。

 噴水のように吹き出て全身真っ赤、頭部からも血が流れ目に染みる。

 

 「っふん!」

 

 聖剣弾いたと思えば左手のボディーブロー。

 鳩尾みぞおちクリティカル、脳に痛く響く粉砕音。


 (今のでアバラ4、5本持ってかれた……!)

 

 こみ上げるナニカを必死に抑え込む。

 エイラみたいに神経強化できるわけじゃない、アドレナリンやらなんやらに無茶頼み。

 歯を食いしばり剣戟謳歌。

 どれほど続くか我慢比べ、1秒、10秒、100秒、重ねていくが時間が単一化。

 

 (やばい、意識がボヤける……!)

 『踏ん張れい! 負けて良いのか!?』

 (嫌に、決まってんだろ……!)


 だからここまで登って来た。

 コイツに勝ちたくて、コイツに背中を見せたくて、コイツに思いを伝えたくて。

 過ごした毎日走馬灯、当然の如く一緒にいた今日この日まで。

 腹を抱えた日、自分を語った日、共に世界を獲った日。

 色んな、色んな事があった。

 

 「動きが鈍って来たぞ!」

 「お前だって! 剣が軽くなってきたんじゃないか!?」

 

 大口叩くが、劣勢の一言。

 エイラの剣が軽い?

 ふざけんな、滅茶苦茶痛くて泣きそうだよ。

 語る中で交わす刹那の剣技、いや、それはもはや殴り合い。

 技術も経験もあったもんじゃない、ただの、シンプル過ぎるほどの感情のぶつけ合い。


 「そらそらそらそら!」

 「……っ」

 

 全身駆け抜ける聖剣の乱打。

 手数が完全に上回られ、致命傷を防ぐのに精一杯。

 誰が見ても明らか、俺の負け筋は明確に。

 きっと剣を振っているエイラが感じているだろう、この身の限界を。


 「これで————!」


 エイラがここ一番の剛剣を放つ。

 もの凄いパワー、もの凄いスピード。

 避けること出来ず、聖剣は腹を貫通。

 俺の身体を穿った。

 血が大量に流れる、もう痛みすらも感じない。


 「さあ、私の————」

 「……勝ち、ってか?」

 「っしま! まだ眼が!?」

 

 勝利を確信、つい緩んだ緊張感。

 確かに致命傷、普通だったら死んでるかも。

 だがな、俺はこれでも脳筋の端くれ。

 不可能も可能に変えてやる。

 腹に刺さった聖剣、それを抜けないように両手で掴む。

 研がれた刃が手を切り裂く。


 「は、離せユウ!」

 「嫌、だね」

 「っく……!」

 

 今までの緊張感が切れたせいか、ここでエイラは躊躇ってしまった。

 このまま剣を抜けば俺の指がすべて落ちると。

 

 「————羅刹の王冠、起こせ、神を滅ぼす最強の一槍を」


 俺とエイラ立つ位置は殆ど同じ。

 空かない距離、俺の身体を柄とし聖剣をしまっているのだから当たり前。

 聖剣は使えない、緊張感も途切れた。

 そして放つのは持ち得る最強の武具。

 刻印をフルスロットル、神力すべてつぎ込み、同調が補佐。

 頭上、つまりは天上に、羅刹王が奥義を生む巨大魔法陣が描き出される。


 「共死にする気か!?」

 「いいや、最後に立ってた方が勝ちだ……!」

 「っく! このバカ!」 

 「はっはっは、バカって言う方がバカなんだぜ」


 一緒に味合おうや風の槍。

 お前が自分だけ強化しようとも同調掛けて邪魔してやる。

 気合と気合の根競べ、脳筋の資質を改めて問おうじゃないか。

 ありったけ、本気の本気、これが正真正銘最後の一絞り。

 巨大魔方陣、完成。


 「神滅魔槍テンペスト・オブ・バリスタ


 まさに神の光、いや逆、神を殺すための光が降下してくる。

 最大火力、最大範囲、もう逃げられない。

 周りへの被害は聖女様に全投げだ。

 

 「————愛してるぜ、エイラ」 


 勝つのはどちらか。

 最後の最後で気持ちの勝負。

 限界突破の最終局面。

 滅殺の槍が俺とエイラを飲み込んだ。

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