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世界を照らす青き光。
銀は道と成り修羅へと通ず。
待ち受けるのは相棒、そして己自身。
根拠ない自信で駆けあがる。
以心伝心の仲に今日は落雷、地震も起こして日常破壊。
「とうとう来たな」
身体に走る神力の廻り。
高まる濃度、速度上昇、心の臓は数段先へ。
心は矛先の如き鋭さ、背後に広がるのは岬。
荒れ狂う大観衆が大海となり、この身を前へと推し進める。
「レネ!」
『応とも!』
試合はまだ始まっていない。
ただレネは顕現させる、狂気を描くこの銀眼に力を注ぐ。
フォーディメンション、3次元に超上が姿を現す。
「エレネーガ様……」
「我はユウの味方なのでな」
「知っていますとも」
「ならば良し。全力で叩き潰してやろう」
俺の右隣にはレネが威風堂々と。
また特注された試合服は何故か左手左足が露骨に露出。
魔力を通したせい、左半身の刻印は紫に輝き、魔方陣を浮かび上がらせる。
試合前、発動は一歩手前で静止する。
瞬間で発動できるよう最高のスタンバイフェイズ。
「————聖剣」
それはエイラも同じこと。
両手握りの聖剣、切先をこちらへ、殺気を滾らせ相対してくる。
ギリギリ声の通ずる距離、ただ心は伝心。
もう言葉は要らない、後は共にゴングを鳴らすのみ。
『それでは! エキシビションマッチ、最終試合を行います!』
膨れ上がる熱気と歓声。
最初のパフォーマンスで大分盛り上げられたようだ。
バリア越しでもそれが伝わってくる。
「「「「「10! 9! 8————!」」」」」
にしても生徒会長には感謝しなければ。
なんせこの勝負に相応しい最高の舞台を用意してくれたのだから。
見上げる上層階、お偉いさんが観戦するその席には、あの『聖女』がいる。
雷槍や賢者の書と並ぶあの英雄がだ。
彼女によって展開される障壁バリアは人類で最高クラス。
心置きなく戦えるというものだ。
「「「「「5! 4! 3!」」」」」
時は近づき、姿勢は前のめり。
構える両手、握りと開きの狭間で拳を向ける。
エイラが剛だというのなら、俺は柔。
森羅万象を体現する、変幻自在の性質だ。
「「「「「2! 1!」」」」」」
あとコンマ数秒。
エイラのこと、開始早々仕掛けてくるのは目に見えている。
ならばまずは出鼻を挫こう。
この学園誰しもが叶わなかった、拮抗というものを見せてやろう。
俺の力にみんな脳みそぶっ飛びな。
『————試合開始です!!』
落ちきった10カウントの砂時計。
そんな時間の砂を蹴散らす異次元スピードで、エイラはやってくる。
踏み切ったその足は既に俺との中間点に到達する。
早々に淘汰するか、やはりスピードに分があるのはエイラ。
(でもよ! 中長距離戦において、負けるわけにはいかねえんだわ!)
「押し返せ! 大地同調!」
負けじとシンクロを刹那で発動する。
足元領域に同調をかけ、会場を創り出している人工素材を変形、直径1メートル以上、長さは無限、円柱型の武骨なる鋼鉄棒。
まるで大樹の根を操るが如く、円柱状の鉄槌を無際限にエイラに放つ。
地中から生き物のように這い出て伸びていく、どれだけ粉砕されようとも、これは大地に立つ限り尽きることは無い。
「レネ! 武装変幻!」
「うむ! 今こそ天を穿とうぞ!」
「「神刀・銀!」」
エイラにぶつける鉄槌の嵐。
ただ同調で伝わる感触は、粉砕されているの一言。
しかしだ、数秒でも与えたならばレネを刀に変えるは容易だ。
「刻印も起動! 力貸してくれよ師匠の魔力! 」
右手に銀刀を、左手に紫の魔法陣を。
身体を彩るのは青の粒子。
漲る神力魔力、ランクという位を真向から喰らいつくす、空飛ぶつまりフライの感覚、最高の高潮感。
『ユウ、来るぞ!』
「そう簡単に近づけさせねえよ!」
最終的に殴り合いになるのは必須。
それまでに削って削って削って、出来ることならそのまま消し飛ばす。
「幾戦の槍!」
空に描かれる魔法陣。
魔力とテンペストが混合、天上より風槍の豪雨を降らせる。
エイラにめがけ殺す気で、地盤を揺るがし地を粉砕。
躊躇なしで息継ぎの暇も与えない。
お前から学んだ、圧倒的物量で勝利する脳筋プレーの1つ。
決して止まぬ風雨、決して止めぬ攻撃、決して俺は止まらない。
「神力一発撃つぞ!」
『溜めは十分じゃ』
エイラが聖剣で極太の光レーザーを放ったが似たようなこと。
俺の場合は銀に変換する前、単純な神力を弾丸として刀に内包。
右腕には竜巻状に銀粒子が、一気に解放、放つのは銀の衝撃波。
「————飛べや」
エイラが居るであろう、風槍が降り注ぐ中心点に神刀を。
槍を突き刺すが如く、刀は大気に風穴を開け世界を破壊する。
パワーオブパワー。
轟と音を立て直進、放った先に超爆発を巻き起こす。
たち込む爆風、塵となったコンクリが肌に飛んでくる。
若干目を細め、霧の中に真実を見出そうと————
「強化」
風を通じ俺の鼓膜にはアイツの声が届く。
そして同時に歩む音。
ゆっくり、ゆっくりだが、着実に強くなって近づいて————
「強化強化強化強化強化強化強化、強化だ!」
踏み鳴らす足音は金剛力士に匹敵。
敵なし、適材適所を超えた強制適応性、全てに耐えうるように自力で進化する。
俺みたいな神頼みとは違う。
神がかりと形容できる程の独り修羅道。
「開闢強化!!」
爆風を一声、一気に晴らす。
俺が先行していたはずの空気が一瞬で持ってかれる。
敵として味合う本気のオーラ、つい一歩後ずさる。
ただそこで踏みとどまる。
立ち向かうしかないのだ、負けるわけにはいかないのだ。
「全然効いてないじゃんかよ……」
「そうか? 少し掠り傷は出来たぞ?」
「それをダメージとは言わない」
「まあいい。次は私の番だな」
(あんだけ撃って掠り傷だけとは、予想はしてたけど、やっぱ心にくるもんがあるな)
『ユウ』
「戦闘は任せる」
『かっかっか! ようやっと我が全力で剣戟できるのう!』
「経験同調」
レネの経験を流入。
戦神たる技術が俺に宿る。
その技、我流にして隙は無し。
レネ曰く、レネだけが使える最強の武、極みまで辿り着いた絶対の領域。
「「勝負!」」
風に同調、エイラの神速に後れを取らないよう神力も回す。
すぐに衝突する。
どんなに距離が空いていようとも、身体も心もすぐ埋る。
互いが互いを熟知、剣戟と決めたなら即実行。
「破!」
エイラの聖剣はとてつもない大振り、しかしその動作のまあ早いこと。
気付いた時には頭上を通過していた。
俺の反応では間に合わない。
レネの経験がなければ今ので首が飛んでいた。
「まだまだ私は強くなる! 神だって越えていく!」
「っ大気同調!」
空を描く剣と刀、風圧だけで身体が持ってかれそう。
少しでも気を抜けば、死ぬ。
凝縮されたような時間の感覚、間髪入れずカウンターにカウンター。
紙一重なんて幅もなく薄皮1枚。
閃光し交差し意思を咬ませ合う。
聖剣を受けるごとにジリジリと腕に衝撃、まともに打ち合っていればこっちが潰れる。
「重力同調!」
「っむ!」
重力をピンポイントで同調。
意識を研ぎ澄まし、持ち得る最高の技術を。
エイラに加重をかけ、少しでも動きを鈍らせる。
「気合い強化!」
だがそんなことはくだらないとばかり、エイラは気合いだけで元通りの動きに。
むしろもっと加速しているような。
なんて不合理。
俺に神様がついていて、魔力があって、同調があって、それで反則?
いやいや、コイツの方が————
「チート過ぎだっつの!」
あらゆる経験を活かし、誰にも到達しえない極みを疑似再現。
躱した聖剣に肝を冷やしつつも、凍ることは決して無い。
目の前に対峙するエイラの眼は輝き始めたばかり。
その楽しそうな、嬉しそうな笑みを見ているとこっちも笑ってしまう。
笑い納めはまだまだ早い。
「私が最強だ!」
「じゃあ俺がその看板降ろさせてやるよ!」
狂喜乱舞。
頬を聖剣が掠り鮮血が舞う。
口の中にも塵やら血やらが唾液と混じる。
混じったところでなんのその。
ビリビリ回る脳の回転数、痛みは何処かへおいてきた。
「私の名は、エイラ・X・フォード!」
千剣千刀、加速していく削り合いの中でエイラは名乗る。
なんの真似か、そんな情報とうに知っている。
「私は名乗った! 次は、お前の番だ!」
思い出す、最初の出会いを。
不法侵入というだけで殺されそうになったあの時。
あの月夜もエイラは俺に尋ねた。
この問いかけに悩む暇はない、直感で感じる。
ずっと一緒に歩んだエイラ、俺に飛び越えるチャンスをくれたんだと思う。
原点回帰、今までの勝敗はチャラに、戦いは振り出し、もう先輩後輩隣人もあったもんじゃない。
「俺はユウ! ユウ・ヨンミチだ!」
俺の名乗りにエイラも笑みと剣で応える。
感謝する、ここまで連れてきてくれて。
ただ今度先に行くのは俺。
烈火の如きこの戦い、それはまだ始まったばかりだ。