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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
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 『これより午後の部、エキシビションマッチを行います!』


 時刻はとうに昼を過ぎ今日の一大イベントへ。

 内容はフォード先輩との特別マッチ。

 ここまで働きを精算、待ちわびていた瞬間。


 「にしてもユウのやつどこ行ったんだろうな」

 「もう試合始まるっすのにね」

 

 会場は超満員、この戦い見るため来た人も多いだろう。

 挑むのは1年生小隊ばかりのようだが。

 それでも、もしかしたらという一掴みの期待もある。

 なにせ相棒たるユウは参加しない。

 そもそも観戦にすら姿を現していない。

 仕事抜けてから何処かへ消えてしまった。

 

 (今年の1年の主席と次席はだいぶレベル高いみたいだし、それが同じ小隊として出るんだ、まだ希望はあるな)


 まあ確率的には宝くじの数百倍低いかもしれないが。

 それでも楽しみなものは楽しみだ。


 「トニーも出たら良かったんじゃないっすか?」

 「勘弁してくれや。一緒に参加してくれる奴もいないし」

 「1人でも参加できるっすよ」

 「それこそ自殺行為、んなバカいねーだろうよ」

 

 案の定参加者表を見る限り皆小隊で出場。

 相手はSSS級、流石にソロで出るアホな野郎はいない。

 

 「今回だったら、やっぱりガスマン小隊っすかねえ」

 「だろうな。てかまあ挑むだけ凄げえよ」


 別に恥を晒したくないとか、面倒だとか、そういうネガティブな思想は持っていない。

 第一に先行し、理解してるのは力という壁。

 フォード先輩の強さを知っている。

 自分が一生懸けてもそこに届かないと心底理解している。


 『まずはエイラ・X・フォードの登場です! 皆様拍手でお迎えください!』


 東西に分かれるゲートから主役にしてラスボスの登場。

 黄金の髪を靡かせる美しき人。

 ただ内包するのは力の塊、脳筋の体現者、俺たちの世代で最強。

 巻き起こるは溢れんばかりの拍手喝采。

 それに怯むことも、応えることも無く、ただ堂々と、鋭い目線を真っすぐ向けている。

 

 「やっぱフォード先輩は華があるよなあ」

 「なんだか孤高と呼ばれていた時期を思い出すっす」

 「普段はユウとセットなイメージだけど……」

 「今日ばかりはキレッキレっすね!」


 軟化役のユウがいない今、彼女はまさに孤高の聖剣使い。

 脳筋という言葉を冠し、全てを蹂躙する。

 普段の気の抜けた表情はしていない。

 ただひたすらに勝利を、甘さの無い純度100パーセントの風体。

 他を寄せ付けない圧倒的オーラがここに居て伝わってくる。


 『1回戦目を挑むのは、1年次席が率いるガスマン小隊! いざ登場です!』


 再びの拍手と喝采、真っ先に出てくるのは俺が一番期待するガスマン小隊。

 まさかの第1試合、フォード先輩の疲労が少しでも溜まる後半に出てほしかったんだが。

 小隊の構成としては珍しい次席のガスマンが隊長、それに主席たるアウラ・ルティーニが参戦。

 まさかの隊長ではなく隊員でだ。

 

 「初っ端から熱いっすね!」

 「ああ!」


 さてさてどこまで戦えるのか。

 フォード先輩のこと、手加減抜きのマジバトルを見せてくれるはず。

 

 『ではカウントを始めます!』


 10カウントを実況が開始、観客も共に叫ぶ。

 他人事ながら手に汗握る。

 刻々と過行く1桁数、瞬間の感覚でゼロに到達。

 戦いの火蓋は今切られた。


 『試合、開始です!!』


 紫電たるアウラ・ルティーニの電光石火。

 獣化のウーゴ・ガスマンが猪突猛進。

 後続の3人も中距離攻撃。

 その五者五様が始まろうとした瞬間だ。

 始まってすらいない、姿勢を軽く傾けただけ、視線を構え、思考を回そうとした、一瞬のタイミングに。


 「————薙ぎ払え、聖剣カリヴァーン


 轟と炸裂する聖剣の一撃。

 超極大の光のレーザー、突き出す聖剣、真っすぐに放たれる。 

 大気を蒸発させるかのような圧倒的エネルギー量が、まばたきをする間もなく現界。

 力が敵対者たちを飲み込む、才能も努力も、全てを上から捻じ伏せる。


 「おいおいおいおい! 冗談だろ!?」

 「まじっすか……!」


 宝くじの数百倍低い確率で勝てる?

 いやそんなものではない。

 数字という概念で縛れない、分類不可の超常現象。

 まだ強化能力も使ってない。

 軽く振った聖剣だけ、奔った光の残光が空を描く。

 砂塵と焦がした大気の蒸発気が立ち込める。

 その霧の中から姿を現すのは地に伏す5人の姿。


 『しょ、勝者! エイラ・X・フォード!』


 絶句。

 果てしなく、絶句。

 1秒たたず、コンマの世界、予定調和の如く現実に非現実が起こってしまった。

 光の速度で勝負は決してしまったのである。

 あまりに理不尽、あまりに不合理。


 「国際戦の時よりも……」

 「強く、なってるっす」

 

 相棒じゃない、第三者からでも分かる驚異的な成長スピード。

 エンターテイメント制を蹴り飛ばした生き死にの世界。

 それでもチャレンジャーを殺すわけはなく、おそらく一歩手前で。

 

 『で、では第2回戦を————』


 そこからの勝負内容はあえて語ることもあるまい。

 結果から言えばフォード先輩の圧勝で全勝。

 誰かに触れられることも無く瞬く間に、流れるように終わっていく試合、いや試合とは形容できまい。

 執り行われた十数の戦いは終了。

 中にはやらずに逃げた小隊も。

 

 (だが責めることなんかできねえ。フォード先輩がここまでガチでやるなんて、一体だれが予想したよ……)


 交流戦などと楽観視していたわけではないが、格の差をここまで見せつけるとは。

 普段と違う鉄仮面、天然要素なんて皆無。

 戦うことに真っすぐ、無表情ですべてを決す。


 「……改めて、恐ろしいっすね」

 「……まったくだ」


 開幕時の盛り上がりが嘘のようだ。

 その一方的な瞬殺劇に言葉を失う。

 バリア越し、無言の中には恐怖が周回する。

 人外、怪物、化物、フォード先輩が良い人だってのは知ってる、不器用な人だとも、しかし嫌でもそう思ってしまうのだ。


 (結局1年生じゃ、いや2年3年も同じか。例え学園の生徒全員で戦ったとしても勝てるかどうかって話だ)

 

 SSS級は1人で小国をも落とす。

 あやふやだった認識が深く刻み込まれる。


 『で、では、これで、エキシビションマッチを終了と————』


 言っちゃ悪いがなんとも後味が悪い。

 こんなん一方的な虐げと同じ。

 だが俺たちに止める術はないのだ。

 凡夫は凡夫、黙って目の前の光景を受け入れるしか————


 『待ちたまえ』

 『えっ?』

 

 静寂の中、たどたどしい実況を止めたのは生徒会長のベリーヌ先輩。

 唐突な出来事に周りも注目する。

 この白けた状況を打開しようとするのか。

 

 (でもどうしようもねえだろ、言葉で納得させようなんて無理な話だ)


 俺たちは力の権化に心撃ち抜かれたばかり。

 いくら会長がフォローしようとも、この空気は拭い去れないだろう。

 

 『実はだ。僕のミスで、参加者表に記載をし忘れた生徒がいる』

 『ま、まだ挑戦者がいると?』

 『そうだ』

 「「「「「……おお」」」」」

 

 どうやら生徒会のミスで参加者表にヌケがあった模様。

 最後の挑戦をする小隊はまだいる。

 つまりはエキシビションマッチはまだ終わってないわけだ。


 「よく棄権しないっすね」

 「俺だったら戦う前にギブだな。今日のフォード先輩はマジすぎる」

 「もうどんな小隊出ても勝てないっすよ」


 勝てるビジョンがまったく湧かない。

 儚い幻想でさえ描くことは出来ないのだ。

 観客もどうせ瞬殺されると理解、テンションは上がらない。

 ただこの状況でも逃げない小隊、せめてしっかり応援、最後まで見届けなければ。


 『ちなみに最後に挑戦するのは、小隊ではなく、1人(・・)でだ』

 「っな!」

 「まじっすか!?」


 どよめく観衆、そんなバカな奴がいんのかよ。

 ここでソロ?

 頭逝っちゃってるんじゃないか。

 むしろ生徒会は止めるべきだろ、それじゃただの見世物になっちまう。


 「無謀っすね……」

 「ああ。一体どんな大馬鹿野郎なんだか」

 「勇気は称賛するっすけど」

 「根性だけで勝てる相手じゃねえ。そもそもフォード先輩自体が気合の塊だし」


 彼女自身が莫大なガッツを内包。

 その上でパワー、テクニック、反射反応を兼ね備えている。

 そんな戦闘の究極体に勝つには、なにか他で上回るしかない。

 しかし上回ることは至難、レベルはカンスト前提、定義式ブッ飛ばす異常性が無ければ勝利は見えない。


 『————では、最後の挑戦者の登場だ』 


 果たしてどんな狂ったやつか。

 それは目の前の光景、その変化にまず現れた。


 「か、会場が……」

 「青く、染まっていく?」


 舞台も客席も、どこから生まれたか青い色が支配する。

 まるで星空、煌めきが辺りを覆う。

 そしてフォード先輩の反対側のゲート、その奥から今度は銀風が巻き起こる。

 生まれるは銀の一本道、フォード先輩にかけて白銀の道が伸びていく。

 そんな青い世界、銀の地獄道を歩くは1人の男。


 「————意外と早い出番だな」


 ゆっくりと登場する、黒い髪、背中には大企業エリクソン・グループのサファイヤ型エンブレム。

 こんな場面で笑みを浮かべてさえ。

 そういやいた、この学園に、脳筋エイラ・X・フォードと並ぶ唯一の可能性が。


 「最高じゃねえか……!」


 友人にして、世界で名を馳せる能力者。

 変幻自在にして神さえも味方につけるそいつ。


 (あんだけ出ねえって言ってたのによ! 結局やってくれんじゃんか!)


 もしかしたらフォード先輩はそれを察し、ここまで本気モードだったのかもしれない。

 確かに気になっていた、気になっていたとも。

 だがふざけ半分で言ったぐらいだった。

 しかし向かい合う2人を見る限り————


 「どっちも本気の眼っすよ!」

 「ガチで戦おうってのか……!」

 「夢の組み合わせっす!」

 「ああ! 気合入れなおして応援すんぞ!」

 「うっす!!」


 ルチアが許したのもこれを知っていたからか。

 フォード先輩に比べ、なんてエンターテイナーだよホント。

 俺に言ってくれても良かったのに。

 いやこのテンションの上昇、むしろ黙ってくれて正解か。

 周りのボルテージは急激上昇、心臓潰れるんじゃないかって声出し、鼓膜も脳も会場もグラグラ揺れる。


 『最後に挑戦するはSS級! 変幻の二つ名を持つ男!』


 会長の紹介文ももはや聞き取れない。

 はやく戦いが、この乾いた心に潤いを、刺激的で劇薬なそれを。

 血走る眼、未来を早く見せてくれ。


 『————真向単騎勝負! ユウ・ヨンミチの挑戦だ!』

 

 ここで熱狂嵐、漂う青が共鳴するかのように輝きを増す。

 銀を足に敷きその男、ユウが狼煙を上げる。


 「待たせたなエイラ」

 「……やはり参加したのだな」

 「ああ。今日は本気で行くぞ」

 「ふふ。それは私も同じこと」


 ここで初めてフォード先輩が笑う、そりゃもう嬉しそうに。

 そんな力の権化に相対するは変幻たるユウ。

 お互いの目線と目線に火花が散る。

 バッチバチだ、一歩も譲らない真剣試合。

 ランクで言えばフォード先輩は上、しかしSS級を超えた同士の戦いは予想不可。

 凡人たる俺たちの想像を軽々と超えていくのだ。


 「さあ、テッペン獲ろうか————」 



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