表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
119/188

95

 「かあ! 水が美味めえ!」

 「まさかこんなに混むとは……」


 話によれば例年以上に客は多いとのこと。

 世界を獲ったのがエイラと俺が火付け役に。

 実際に俺目当てに店に訪れた人も多い。


 (主役はメイドさんなんだけど……)


 イタリア中からバンバン人が来る、それに海外からお偉いさんも。

 つまるところ店はフル回転、今も働きに働いてようやくの休憩。

 ただ午後にはエキシビションがあるため、今度はそっちに人が流れていくはず。

 あと数時間の頑張りだ。


 「こんなに忙しいんじゃフォード先輩と遊ぶこともできないな」

 「今日ぐらいは働く。エイラも試合の準備で忙しいだろうし」

 「意外に余裕な反応じゃん。いやあれか、夜に舞踏会あるもんな」

 「……まあ」

 「いいよなあユウは、俺なんて誰とも躍る予定ないってのに……」 


 ホントはエイラと学園を周ってみたかったが、元々人数が少ないAクラス。

 まさか本番当日に俺だけ抜け出すわけにもいかない。

 準備はなんだかんだ皆に任せっぱなしだったし。

 

 (エイラとは午後に試合、夜にイベントも控えてるし、むしろ会わないくらいが丁度いい)


 銀の輪は脳裏にくっきり張り付いている。

 まるで天使の輪、天国へと旅立つかと高鳴る心臓。

 人生にとっての岐路、その最も大きなものが今日になるかもしれない。


 「さてと、そろそろ教室の方もどっか」

 「そうだな」

 

 休憩室となっている空き教室を出て廊下にライド。

 テーマパークにさえ思える人の量、もはや人間津波。

 軽く肩をぶつけつつ、再びの仕事場へ。

 

 「ねえあれって……」

 「ママ! ママ! 変幻がいる!」

 「実物かなりイケてない?」

 「うん! それそれ!」

 「ホントに眼だけ銀色なんだー」


 (マスコミで馴れたつもりだったんだけど、やっぱ息苦しいな)


 混んでいる道の中、俺を中心として無人の空間を展開。

 人は気づき、俺から2、3歩距離をとる。

 道中は楽になったが視線がキツイ。

 

 「人気者がいると道があくねえ」

 「言ってくれるな……」

 「老若男女から認知、今やイタリアの有名人だからな」

 

 そりゃこれでもイタリア代表として戦った。

 取ったものの殆どは日本ではなくこの国へ。

 もはや俺が日本人ということを忘れている人さえ。

 

 (国籍上はれっきとした日本人なんだけど)


 足早に進み目的地に。

 そこはメイドがいる至福の空間、らしい。

 客からすればそうだが、俺やトニーなんかはスカート眺める暇も無い。


 「あ、来たわね」

 「へいへい帰ってきましたー」

 「シャキッとしなさいトニー」

 「はいー」


 ルチアもつの、じゃなく矛を収め接客モード。

 なかなかメイド服も似合っている。

 紅の髪も白と黒に映え、可愛らしいと言える。

 ただ客層は男ばかりではなく、年配、子供、女性、なかなかバランスよく集客できている。


 『っむ!』

 

 その賑わう空間に突如レネの焦った声が。

 脳内フォルムチェンジ、神に意識を傾ける。


 (どうした?)

 『隠密をする者が近づいて来ておる』

 (敵か?)

 『分からぬ。ただ人間にしては凄まじい練度の隠密、ユウでは気付けまい程のな)

 

 どうやら俺では察知できないぐらいの隠れ身技。

 人ごみに紛れてか、姿を気配を消しここに接近しているらしい。


 「どうしたよユウ?」

 「なんだか顔が険しいわよ」

 「……不審者が近づいてきてる」

 「「は?」」

 

 言葉で語っている暇はない。

 レネの警告を受け入れ意識を切り替え。

 テロか、はたまた暗殺か、とりあえず相手がヤバい奴なのは間違いない。

 花畑だった感情を青で塗り上げバトルモード。 

 しかしこの人の数、まともにやり合えば死人が出る。


 (となると窓から突き落として、外での戦闘がベスト……!)


 シンクロを発動準備に、当たり一面に青き粒子を散らばせる。


 「ちょっと!」

 「おいおい!」

 「後で説明する! 今は……」

 『目前じゃ! 来るぞ!』


 既に相手は隠密を解いたか。

 シンクロは教室のほぼ目の前に来た特殊な人間を感知。

 人体に同調を及ばせなくても、それを取り巻く空気の異変さ。

 間違いなく高位能力者、それも俺なんかとも張り合えるほどの————


 「……ってあれ?」


 俺の能力発動に客も動揺する中、俺も同様に困惑。

 レネが察知し、そこに姿現したのは1人の少女。

 乱雑に切られた白い髪、中学生か小学生に間違われそうな小さい体躯、覆うは手抜きなファッション。

 そして真っすぐ構える真っ赤な双眸そうぼう

 敵ではないはず、なんせ俺はこの人を知っている。


 「ユリア・クライネ————」


 通称『赤眼の殺し屋』、ロシアのSS級の能力者。

 そして魔王連合戦で共に戦った人。

 再会するは最強の脳筋アルティメット・パワーズの一員だ。


 「……先輩、つけないの?」

 「あ! ゆ、ユリア先輩! お久しぶりです!」

 「……良し」

 

 確かに数か月前まではちゃんとユリア先輩(・・)と呼んでいた。

 子供扱いして殺されかけた日を思い出す。

 いやはや懐かしい、まさかこんなに早く再開することになるとは。


 「ユウ、この人って……」

 「ロシアのSS級、ユリア・クライネ大先輩だ」

 「……大先輩、だぞ」

 「んなこと知ってるわ! そうじゃなくてだ、お前が呼んだのか!?」

 「いやー……」

 

 そりゃ皆も知ってるか。

 彼女の登場に脳内にビックリマーク。

 むしろ知らないヤツはいないのだ。

 黄金の世代は知名度抜群、魔王連合討伐を合わせある種の伝説にまで。 

 ユリア先輩と言えば、その中でもトップの戦闘技術を持つ。

 カウンター能力も合わせエイラと並ぶ近接戦闘の権化として君臨。

 

 「凄まじい隠密だったんで、てっきり敵かと思いましたよ」

 「……周りうるさいから、隠れて来た」

 「なるほど、それで何でこんな所に?」

 「……仕事のついで、ちょっと話もしたかった」

 

 なにやら話があるそう。

 周りも騒めき、立ち話というのもなんだ。

 

 「移動した方がいいですか?」

 「……ここでいい」

 「分かりました。ルチア、隅の席借りていいか?」

 「え、ええ」


 平和なメイド喫茶に現れたのは最凶の殺し屋。

 愛らしい見た目にそぐわぬ暗器の達人だ。

 教室に丁度空いた角の席に移動。

 真正面から対面するのは何ヵ月ぶりだろうか。

 ここに世界で名を馳せるSS級の接触、騒めきながら周りも注目する。


 「……元気そうでなにより」

 「先輩も、確か今はフリーランスでしたっけ?」

 「……そう」


 先輩は高校を卒業し、仕事一本に。

 どこかスポンサーがついてるわけではないが、政府の依頼を優先的に受け世界を飛び回る。

 今日もその仕事のついでに会いに来てくれたそう。


 「……ユウ、年末暇?」

 「年末ですか、うーん、まだ分からないです」

 「……もう少し先、厄介な案件がある」

 「厄介・・ですか?」

 「……仲間募集中」


 なるほど、ユリア先輩はヘルプを探しに来たらしい。

 ただ彼女が『厄介』と言うからには、ただごとじゃない。

 おそらくかなり危険な仕事。


 「……これ」

 「写真?」

 「……北欧で撮られた」

 「随分ぼけてますけど、生き物ですかね」

 「……やばいやつ、らしい」

 「ははあ」


 見せられた写真に写るナニカ。

 俺が仕事も受けていなく、人がいるこの場で詳細は語れない。

 ただその口ぶりと表情から、だいたい察し。

 そもそも『ソロ』で有名なユリア先輩が、他人に頼む時点でただ事じゃない。


 「とりあえずまだ予定もわからないんで、近づいたら連絡します」

 「……連絡先交換する」

 「了解です。そういえば前回交換しなかったですもんね」

 「……いつもは仕事関連しか入れない。……ユウは後輩だから特別」

 

 なんでも連絡先には仕事のもの、つまりは企業や雇い主のものしかアドレス帳には入れないらしい。

 流石プロ、しかもその仕事終われば、雇った側の登録番号を消去。

 曰くアドレス帳は真っ白だそうで。

 先輩と先輩と慕うからか、『えっへん』という表情で登録してくれる。


 (仕草や口調なんかはやっぱ中学生、いや小学生なんだよなあ。口数が少なくてたまに怖いけど)

 

 「……また失礼なこと考えてる」

 「え」

 「……次、ないよ?」

 「は、はい」


 ユリア先輩の顔は2度まで。

 最終警告、気を付けるようにしなければ。


 (いざとなったら先輩最高ですアピールと、お菓子で釣れば生き抜けそうだけど……)


 いやいや煩悩、考えれば読まれる。

 そもそも削除、無ければ死なない。

 ユリア先輩はこんなかんじだけど、すごくいい人。

 だから仕事を手伝うのもやぶさかじゃない。


 「そんなに厄介なら案件なら、エイラも誘っときます?」

 「……脳筋は仕事が雑」

 「あ、ははは」

 「……火力より多様性」


 言葉で察するにどうやら完全なる力仕事ではなそう。

 エイラの仕事は大雑把。

 だからイタリア政府もエイラには力仕事しか頼まない。

 海で魔物討伐してこいとか、森で魔大樹刈ってこいとか、人の多いところ舞台での依頼はしないのだ。

 

 (つまり相手は人の多いところ、街中に潜む奴ってことだろうか)


 エルフの一件もある。

 もはや人外が人間の中に潜んでいても不思議ではない。

 

 「……じゃあ帰る」

 「もう行くんですか?」

 「……仕事」

 「なら仕方ないですね。頑張ってください」

 「……頑張る」


 イタリアを去って北欧方面に向かうもよう。

 あの写真について調査をしてくるらしい。

 そんな中わざわざ来てくれるとは。


 「……仕事の件、……考えておいて」

 「はい。予定確認して連絡します」

 「……うん」

 「無事を祈ってます」

 「……安全第一」


 と言ってユリア先輩はスッと消えていく。

 まるで溶けゆく氷、スルリと幽霊の如くこの場を去る。

 空間に滑り込むような一瞬の霧散。


 「か、かわいいいいい!」

 「ロリや! ロリロリや!」

 「でもSS級なんだよねえ」

 「周りと関係持たないことで有名だけど……」

 「やっぱ変幻ぐらいのレベルなら話すんじゃね?」


 主役を奪う赤眼が去り、辺りは一層の盛り上がり。

 滅多にお目にかかれない黄金世代の筆頭が1人、みな好き勝手に言葉を放つ。

 

 「おいおい一体どういうことだよユウ?」

 「なんか仕事のついでに来てみたらしい」

 「つまり暇つぶしってことか?」

 「まあ、そんなかんじ」

 「なんだよそれ、マジでビビったぜ……」

 「で、本音は?」

 「めちゃくちゃ可愛かった!」

 

 まあその意見は同意するとも。

 ユリア先輩との接触時間はだいぶ濃かった。

 時刻を確認するが微妙。

 エキシビションの準備もある程度の時間になったら始めなけれ————


 「ん、電話?」

 

 マナーモード、ポケットでブルブル震える携帯。

 番号を確認、これは————


 「もしもし」

 『やあ、久しぶりだね』

 「2ヵ月ぶりですか」


 電話の相手はチャールズ・エリクソン。

 エリクソングループのトップ、そしてニューヨークでお世話になった人。

 ただお世話はスポンサーということで延長。

 今回は何の用だろうか。

 

 『君がエキシビション? フォード卿と戦うと聞いてね。連絡した次第だよ』

 「なんで知ってるんですか……」

 『大企業の力さ』

 「そ、そうですか……」


 可笑しいな、生徒会長とルチアにしか言ってないんだが。

 どうして知ったのかは大企業の一言で片づけられる。

 もはやツッコミはしまい。

 この人の情報操作収集は異次元レベルなのだ。


 『試合時にうちのロゴを付けるという話を覚えてるかい?』

 「確か服自体も用意してくれるんでしたっけ」

 『最先端のやつをね。ということで送ったよ、人力で」

 「人力?」

 『配達もあったんだけどね。直接持っていって貰った』

 「誰かが持ってきてくれる、まさか————」


 残留する同調の外で思考は直感。

 ユリア先輩が去ったばかりの扉を注視。

 若干の緊張。

 俺の戦闘服届けてくれる、その人物とは————



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ