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「————これより、セント・テレーネ学園祭を始めます!」
遂に始まり、生徒会長の言葉でスタートをきる。
多忙は弾け祭りの到来。
歓喜渦巻き天高く歓声が響く。
グラグラ感性を揺らす群衆の熱、人の不可視なる熱気が人を飲み込んでいく。
「さてと、じゃあ教室に移動するか」
「ね、眠い……」
「俺もっす……」
既に集まった全生徒はそれぞれの居るべき場所、やるべき事へと。
勿論無いなら無いで他を巡る旅路に。
我がクラスやるのはメイド喫茶、女性が主役は当たり前、前評判もそこそこ。
こそこそしつつ、俺たち男勢は全力で裏方に回る。
そんな中、俺含め隣に居るトニーとザックも直ぐに仕事があるわけだが、こいつらにはどうにも元気がない。
「いいよなあユウは、あの後帰れてよ……」
「朝までずっと作業してっすから……」
「まあ、お疲れ」
レネのメイド姿を見た昨日、男子勢は魂を抜かれ仕事が手につかず。
それがルチアの逆鱗に触れ、怒りの大爆発。
文字通りの爆破で教室に被害が。
主犯格たるトニーを筆頭に朝まで居残りの修繕作業をさせられたそう。
(俺は今日エキシビションあるし、早く帰らせてもらったけど)
男子同罪という雰囲気の空気、ただ流石にエイラ戦は万全の状態で挑みたい。
ルチアには秘密と言ったが、結局は彼女にだけ特別打ち明けた。
驚かれはしたが了承。
無事に帰宅し、皆と違いぐっすりと眠らせてもらった。
(体力、神力、魔力、コンディションは完璧だ)
どれも質は良い。
といっても、神力の貯蓄タンクについては満タンとは言えない。
ニューヨーク戦からまだ1ヵ月も経ってないわけで、中規模魔槍なら兎も角、最終形態である巨大魔槍までは厳しい。
(まあ地上、学園の中で撃てる代物じゃないし。蓄えあったところで使えはしないから結果は一緒だ)
「あら、またやる気がないのかしら?」
「あ、ルチア」
「「っげ!」」
「早く準備しなさい。さもないと……」
「いやあ働きたくて仕方がねえな! 行くぞザック!」
「うっす!」
「「うおおおおおおおおおおお」」
俺の時とは段違い、今までが勘違いかって勢いで走っていく。
その速さは流星に匹敵、星となってこの場を去る。
サルベージは来ない、いま現れたのは燃える最凶の司令官殿だ。
「なかなかのお手並みで」
「まったく、手間がかかって仕方ないわよ」
「ははは……」
「それで、調子はどうなの?」
「そこそこ良い。これといった問題は無いかな」
能力的にも、身体的にも。
問題を考えてる思考は論外、本題は唯一つ。
立ちはだかるエイラという存在だけ。
運なんてものは力でねじ伏せられる、実力だけの一方展開世界。
そこをどうやって進むかが鍵、右手に銀を、左手に風を、導いてみせる正解。
解放するリミッター、ターボはフル回転、手抜きは無い。
「にしても驚いたわ。まさか貴方が参加するなんて」
「まあ……」
「それともこれはまだ序章、この後にまだナニカあるのかしら?」
「さて、どうかな……」
「眼が泳いでるわよ」
「……勘弁してくれ」
「ふふ。まあ詮索はしない。試合、楽しませてもらうわ」
随分と読みが鋭いようで、ただ核心までは迫ってこないよう。
ホント、初めて会ったときと別人。
感情の扱い、間合いの取り方が上手い。
操り人形とまで言わないが、どうも見透かされている気分。
「あといくら試合に出るからって、こっちも手伝ってもらうわよ」
「もちろん。精一杯やりますとも」
星の過ぎた道を後追い。
呼び掛けに追いかけ、盛り上げにダイブ。
ライフを謳歌、夢見る幻の世界前の現代ワーク。
一仕事をしにトニー達の元へ向かう。
このあと、それこそ死ぬほど働かされたのは言うまでもない。
精一杯などと言葉吐いたこの口を恨むは後の祭りであった。