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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
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 学園祭がいよいよ明日へと迫り、忙しく駆け回る廊下の迷路。

 皆何かに魅入られたように多忙を極める。

 ある所では追い込みのためか怒号まで、それだけ真剣なのだろう。

 我がクラスの司令官たるルチアも今まで以上に燃えている。


 「そんな中、俺はこうして学園をウロウロと……」


 サボり、ではない。

 ちゃんと目的あってのウロウロ。

 目的地を探すための探索だ。

 確かにそれが第一、だが名目とし時間を潰しているのも事実。


 (なんせ教室帰ったら仕事が山のように、ブラックすぎて行きたくない……)


 まあトニーやザックは働くの大好きだからな。

 ルチアの命令を嬉々として受け入れている、と思う。

 だから俺のいない数十分の代わりとしては十分。

 

 「お、あったあった」

 

 しかし長く席を空けてもいられない。

 急ぐわけでもないが、今日ぐらいは参加しなければ。

 広い校舎、まさしく迷路のような回路を抜け、ゴールへと辿り着く。

 教室、という割りには豪奢。

 重厚な扉を数回ノック、中からの応答を待つ。

 

 「どうぞー」

 

 返事はすぐに。

 握る取っ手、雑多の中からその中心へ。

 掲げるその部屋の名は生徒会室。

 いま学園を盛り上げ、最も多忙を極めている人たちのテリトリーに足を踏み入れる。


 「あれ、ヨンミチ君じゃないか」

 「どうも。予選以来ですかね」

 「いやあ、あの時はホントに死ぬかと思ったよ」

 「先輩方手強かったもので」

 

 新会長はベニート・ベリーヌ先輩。

 カルロ・ラングバードの小隊員であり、今は生徒会長として活躍している。

 こうして会うのは数か月ぶり。

 むしろ真面目に向き合ったのは初めてか。


 「お忙しいところすいません。ちょっとお願いがあって来ました」

 「お願い? 珍しいね」


 なんでも俺なら大抵のことは強引にやってしまう印象らしい。

 まあ今までの行いを鑑みれば分からないでもない。

 ただ今回の事に関しては生徒会にお願いするしかないのだ。


 「エイラと戦う、エキシビションマッチってのがあるじゃないですか」

 「今回の目玉だね。といっても参加者は1年生ばかりだけど……」


 やはり予想通りで参加者は1年生ばかりだそう。

 2、3年の奴等は大体エイラの恐ろしさを実感し、それに馴れたから。

 危険に挑む若きチャレンジ精神。

 勇猛果敢な新入生に参加者が偏るのは致し方ない。

 

 「もうエントリーは締め切ったと思うんですが、今更ながら、俺もそれに参加したいんです」

 「ほ、本当かい!?」

 「募集が終わったのは知っています。無理を承知で、お願いします」

 「あ、頭なんか下げなくていいよ! 君が参加してくれるなら盛り上がるってもんさ!」


 挑むか悩んだ、今がその時なのかと疑問を抱いた。

 ただ、勝負はここで。

 1年たちの模擬戦に付き合ってやって、燃え上がるその眼を見て。

 まだまだ時間はあり、頑張るための猶予は確かにある。

 ただそれは何時になるか。

 無理を、不合理を、劣勢を承知してなお、やるときにやる。

 挑んでなんぼ、ここで一発デカいの決めるつもり。


 「あえて聞いておくけど、小隊を組んで挑む? それとも……」

 「無論、1人です」

 「やっぱりそうだよね。いやあこれは燃える組み合わせだ!」


 俺のソロ参加に会長も喜んでらっしゃる。

 急展開に怒ることもなく、むしろ楽しんでいる節。

 

 「すぐにでも参加者表を修正……」

 「待ってください」

 

 なにも俺がこのタイミングで来たのは、悩んだということだけではない。

 エイラに挑む者は公に、トーナメント表というわけではないが、名簿的なのが公開される。

 既に募集は締め切り、誰がチャレンジャーかは一目瞭然の状態だ。


 「俺の名前は最後まで伏せておいてください」

 「つまりそれは、サプライズ、ということかい?」

 「ええ。エイラに予告なしで挑みたいんです」

 「ほほう面白い。エンターテイメントだねえ!」


 募集期間内に言えば話題になるは必須、だからこその後だし。

 会長には予告なしと言うが、ずっと連れ添ってきた俺とエイラの仲。

 野生動物以上の直感をもつアイツのこと、俺の思惑に勘づいているかもしれない。

 それでも形有ると無いでは心の持ちようが違う。

 サプライズと言うか、プレゼント前のプレゼント。

 指輪の一件もある、アイツに真正面から立ち向かって、それで勝利して、堂々と渡したい。


 「分かった。この件は秘密裏に進めよう」

 「忙しいのに申し訳ないです」

 「全然全然、この戦いが観れるなら努力は惜しまないよ」

 

 断られるかと若干の心配はあったが、快く引き受けてもらえた。

 出番的には最後の最後。

 俺以外のチャレンジャーが全員終わってからの出陣だ。

 

 「じゃあよろしくお願いします」

 「任せてくれ。それと……」

 「はい?」

 「期待してるよ」


 イタリア人ってのはやっぱ熱いな。

 新会長なら実力差や戦局が予想できてるだろうに。

 劣勢受け入れつつも、根拠のない自信で応える。

 

 「————任せてください」


 














 「ただいまー、って……」


 短い旅路を終え、ブラック教室へと帰還。

 そこで繰り広げられていたのは、追い込みという名の戦争だ。


 「やっと来たかユウ!」

 「遅いっすよ!」

 「喋ってないで手を動かしなさい!」

 「「……はい」」


 まさに火の車、滑車はガシャガシャと軋みながら回っている。

 歯車というより単発ロケット花火。

 もうすぐ消えるんじゃないかって勢い。

 

 「用事は終わったの?」

 「ああ。なんとか」

 「ちなみに内容を尋ねてもいいのかしら?」

 「秘密だ」

 「ふーん……」


 ルチアにはザックリとしか説明してない。

 ただ、大事な要件があると、それだけ。

 今この状況を考えれば根掘り葉掘り聞いてきそうなものだが————


 「まあいいわ。あと少し、死ぬ気で手伝ってもらうわ」

 「……イエッサー」

 

 何かを察してか、それとも偶然か話題を転換。

 有難い、残る仕事を最後まで。

 例年だとものすごい人の数だそうで、上手くいけば売上も相当。

 このクラスは何より女子のレベルが高い、なかなか期待が高まる。


 「そういやユウよ、エレネーガ様のメイドの件、結局どうだ?」


 忙しいってのに煩悩は健全、むしろ嬉々として。

 そういえばそんな話もあったと思い出す。

 トニーのこの言葉に、あれだけ動かしていた手を止め周りも注目。

 特に男子、固唾を飲んで答えを待つ。


 (だそうだが、どうする?)

 『うむ、やっても良いが、いや、直接出て話をしよう』

 (あんまり神力は使いたくないんだが……)

 『幽体化で軽いものにする。浪費は微々たるものじゃ』

 (まあそれなら……)


 どうやらトニーの言葉は神へと届いたらしい。

 レネもそこそこ興に乗っている。

 しかしタダでやるはずもなく、条件を提示するらしい。


 「戦を愛し、銀を愛し、王道を愛す」

 「おいユウ、急にどうし……」

 「顕現」

 

 神力の扱いは大分進歩、レネと巫女姫に教えを受けた賜物。

 最低限の最低限で形作る。

 まるで写し絵、水面に描く波紋の薄さ。

 能力は排除、形だけ(・・・)を世界に定着させる。


 「————我に願う者がいるようじゃな」


 眩い光がこの場を支配、天上より神が降誕。

 俺と同じ銀眼、淀み無き白銀の髪。

 中学生と間違うくらいの身長ながら漂うのは圧倒的な美。

 美しさの権化、ブラックだった空間に女神のような戦神が現れる。


 「え、エレネーガ様!?」

 「なんか直接話した方がはや……」

 「「「「「お待ちしておりました!」」」」」


 急に土下座する男子群。

 それ日本の文化のはずだが、馴れた動きで全員一斉に。

 もはや打ち合わせしてただろそれ。

 しかし女子たちの目線が痛い、お前らにはプライドが無いのか。


 「私はトニー・モーガスと申します! 銀神様に出会えて感無量でエロチック!」

 「なんか後半言ってること可笑しいような……」

 「良い良い。さて本題じゃ」

 「め、メイド服を、メイド服を着てください!」

 「「「「「お願いします!」」」」」


 これ以上の下は無いと言うくらい頭を下げる。

 今更ながらこいつらが友達だとは。

 俺も変わり者と呼ばれるが、トニー達、このクラスの男子も相当だ。


 「メイド服なるものを着るのは良い。ただ奉仕はせんぞ?」

 「構いません! その姿だけ見れれば!」

 「あとは結構な店が出るそう、美味そうなモノを買ってきてく……」

 「「「「「なんでも買ってきます!」」」」」

 「お、おう。なら良い」


 余りの勢いに若干レネも引いている。

 ただよくもまあここまで持って来た。

 普通の神様だったら、いやレネは普通の神様じゃないか。

 他の神に会ったことは無いが、なんだかそんな気がする。


 「————盛り上がるとこ悪いんだけど、エレネーガ様に見合うメイド服はないわよ?」


 ここで言葉を挟んだのはルチア。

 レネの体格は小さい、サイズはかなり小さいものとなり、仕入れたメイド服に該当のものは無いそう。


 「な、なんだと……!?」

 「しまったっす! 話ばかり盛り上がってメイド服用意してないじゃないっすか!」

 「っぐ……!」

 「どうするんすかトニー!」

 「人生最大の不覚、俺のエロリズムが先走りすぎたせいで……」


 いやエロリズムってなんだよ。

 よくわからないが、話ばかり進んで、肝心のレネのメイド服を用意できていないそう。

 あれだけ語っておいて酷い失敗だ。

 そしてなんとまあ悲しい男たちの姿よ。

 必死の土下座から一変、悲壮感の軍団に。


 「何を嘆いておるかしらんが、衣くらいなら神力でちょちょいぞ?」

 「え?」

 「そのメイド服とやら、見本となるものがあれば複製でき……」

 「「「「「よっしゃあああああああ!」」」」」


 悲壮感から急上昇のハイテンション。

 ショックはとっくに越え嬉しさへと。

 この言葉に何人か泣いてるし、どんだけ楽しみなんだよ。


 「ルチア! お前のメイド服を貸してくれ!」

 「……え、私?」

 「頼む! なんでもする! なんでもするからああああああああ!」

 「わ、分かった! 分かったから近づかないで!」

 

 烈火の鬼司令官も煩悩の権化となったトニーには敗北。

 ゴソゴソと袋をあさり、明日使うであろうメイド服を取り出す。

 白と黒のコントラスト、一般的なメイド服だ。


 「ささあエレネーガ様!」

 「い、今か?」

 「今です!」

 「……う、うむ」


 もうここまで来たのなら止まらない。

 行くとこまで行く。

 トニーたちが今は放つその気はまさに強者のもの。

 ブレることのない信念から生み出される。


 (その信念はエロによって形作られているんだけど……)


 「まあ着るだけ着てやろう。神力変化————」


 銀式の和服は分解され形を変える。

 神の言葉は力を持つ、つまりは言霊。

 放った音は銀風を舞わせレネの身体を覆う。

 小さな竜巻が教室で巻き起こる。

 そして銀塵を発生させつつ、神は改め顕現する。


 「おお……」


 俺もつい言葉が出てしまう。

 それは周りも一緒、女子もその美しさと愛らしさに感嘆の声。

 男連中は息を飲み、いや呼吸を忘れている。

 

 「こんなものかのう」


 白と黒の生地は身体の大部分を隠しつつも、下はミニスカ気味。

 普段あまり見ることが出来ない真白の肢体が露わに。

 人間と感じさせない神々しさ、本当の神だからこそ成せる完成度。

 いや完成度ではなく完成体。

 ここまで完璧で完成された美しさと可愛さの両立は見たことがない。


 「さて、満足したか?」

 「もう死んでいい……」

 「俺もっす……」


 なんだろう、完成され過ぎていて驚きを超えて無反応。

 コメントできないくらいに浸る。

 あのトニーが卑猥なことを言えないくらい、これは相当なこと。

 

 「ねえねえルチア、明日さ、エレネーガ様に手伝ってもらうのってどう?」

 「ほ、本気で言ってるの?」

 「だってこんなに可愛いんだよ!? 客も来るし、お金もガッポガッポ……」

 「我やらんぞ」

 「え……」

 「あくまで着るだけじゃ、群衆の前に立つは好かん」

 「残念、そういうことよ」

 「っ金が……!」


 男子も相当だが、こういうところで女子の本性も垣間見る。

 人間ってのは怖い怖い。

 いやうちのクラスは特に、同じAクラスでも1年は真っすぐだった。


 「さて我は帰るとしようか。明日の供物、楽しみにしておるぞ」


 そう言って俺の瞳へと帰還。

 まるで瞬間の奇跡、何事もない空間が再び訪れる。


 「「「「「…………」」」」」


 あれだけ騒いでいた教室が静寂に飲まれる。

 美貌の暴虐、圧倒され言葉は失った。

 ここに居るのは開かずの口を持つ男たち。


 「男ども、余興は済んだでしょ! 続きをやるわよ!」

 「「「「「エレネーガ様……」」」」」

 「トニー! 貴方さっきなんでもやるって言ったわよね!?」

 「俺は、もうダメだ」

 「ナメたこと言うわねえ……!」


 この後ルチアが怒りで大爆発。

 これまで作った幾つもが焼け被害甚大。

 男子たちは喪失感に襲われつつも、朝まで居残りする羽目になってしまったとさ。

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