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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
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92.5 with Practice after school

 「よーし補講をやるぞー」


 1年A組は真面目だ。

 実技の授業があれば、今日みたいに必ず補講をしてもらう。

 ただそれは自分たちにとって当たり前のこと。

 エイガー先生も進んでやってくれる。

 私も主席だが受け身にはならない、常に捨て身で上を目指す。

 周りも同じ、学園祭の準備をしつつも手は抜かない。


 「内容は今日授業でやった集団でのカウンターだ」

 「「「「「はい!」」」」」


 集団でのカウンター。

 読んで字のごとく、そのままの意味。

 敵に責められた時に小隊単位でどう対処するのか。

 敵が単体だろうと複数だろうと、それを5人ではじき返す。

 連携動作、隊員配置、感情の操作、ここ最近行ってきた基礎の上に成立。

 

 (この内容は特に苦手、私に比べ周りの動きが遅すぎる)


 能力で加速できることもあり、スピードは中でもハイグレード。

 ついてこれるのは3人程。

 その数少ない人間が一応の小隊に1人。

 次席のガスマンだ。


 「んだよ?」

 「別に」


 ガンを飛ばしてくるが軽くいなす。

 無駄な言い争いは精神的に疲れるだけ。

 それに前回の対決でやり過ぎたせいで、先生に長説教されたし。

 向こうもそれを意識、口論は減った気がする。

 体面的にはマシになったと思う。


 「まずは、A小隊から————」


 ランダム振り分け小隊が選出。

 アルファベットが進め始める補講の時間。

 授業と同じく相手はAI、もしくは小隊同士か。

 

 「そういやお前らの中には、エキシビション挑むやつが何人かいるんだったな?」

 

 エキシビションマッチ、それはエイラ・X・フォードへの挑戦。

 私も参加を決めているが独りで挑むか、それとも小隊を組むかは未定。

 セレナを誘いたいが、果たして受けてくれるだろうか。

 そもそも彼女以外頼れる人はいないし。

 

 (となれば、やっぱり独りで挑むしかない)


 むしろ下手な隊員はいらない。

 私についてくれるくらいのポテンシャルが必要。

 パワー、スピード、テクニック、何かしらに突出してなければ脳筋には勝てぬまい。

 強いてものハンデで変幻は不参加だそう。

 それが戦いにどれほど影響を与えるかは分からないが、居ると居ないではかなり違う。


 「お前ら結構ガチなんでな。フォード戦に向けて良い先輩を呼んでおいたぞ」

 「「「「「良い先輩?」」」」

 

 AIは使わないということだろか。

 しかし先輩と言えど、AI並みに連携力を持つかは怪しい。

 せめて上位陣で構成された小隊でなければ————


 「————あんまりハードル上げないでくださいよ」

 

 小隊でなければ。

 いや、そもそもこの訓練のテーマは強大な敵に小隊で挑むことにある。

 相手が複数、ましてや人間だとは限らない。


 「へ、変幻……」


 気怠そうに現れるは、黒い髪と銀眼を持つ男。

 ランクはSS、世界でトップクラスの支配系能力者、そして脳筋の相棒。

 今年の国際戦で世界を勝ち取った、怪物。


 「フォード戦に向けてもある、良い練習相手だろう?」

 「そのお陰でクラスの手伝い出来ないんですけどね」

 「バレンデッリも承諾している、問題ない」

 「でも周り、特にトニーにサボりって文句言われるんです」

 「気にするな。アイツがお前の分をなんとかする」

 「ま、それもそうですね」


 もともと引き締めていた心に更に緊張感。

 感覚が研ぎ澄まされる。

 得る物はきっと多いはず。

 なにせ脳筋に並ぶとされる強者、万能という言葉の体現者。

 

 「そういえば……」

 「どうかしたか?」

 「アウラ・ルティーニって()は……」

 「わ、私です!」

 

 つい緊張で声が上のめりに。

 周りの視線が変幻から私へスライドダウン。

 一点集中、注意がこちらに。


 「なんか教室に訪ねて来たそうで、席外してて悪かったな」

 「い、いえ」

 「それで、何か用があったんだろ?」


 ここでか、このタイミングでか。

 上がりそうな心臓を強制冷却、なんとかのクールダウン。

 ただ『どうしたら貴方に勝てますか?』などとこの場面で聞くのはキツイ。

 叶うものなら、単騎対面で尋ねたいものだ。

 とりあえずこの場は適当に誤魔化すしかない。


 「……もう解決したので、大丈夫です」

 「あ、そう。ならいいか」

 「はい。お手数おかけしました」

 

 有耶無耶に終わるシーンと言葉のセンテンス。

 センスは天性、そんなこの人に聞くことは、まずは訓練を通してから。

 直で再び味合う。

 あの時は一瞬のことで気を取られてしまった。

 

 (ただ体内に紫電走らせることは同調(シンクロ)でも止められない。スピード勝負なら少しは————)


 「まずはA小隊、早速始めるぞ」


 誰もが羨み恐れる第一陣はA小隊が。

 意識が高いなりに、思考も気概も上々。

 ジョイント4つ、情熱は蒸発しない、炎は天上へとひたすらに燃えている。


 「————さあて1年の実力、しっかり見せてもらおうか」


















 「よし、じゃあ最後の小隊出てきてくれ」


 最後の小隊、未戦の隊とは私たちのこと。

 流れるように終わっていった訓練、いや訓練と表記していいかどうか。

 変幻はあまりに強く、一方的な展開。

 エイラ・X・フォードが見せた圧倒的一撃は無いにしても、1つ1つの完成度の高さ。

 近、中、遠、オールマイティーに高水準で立ち回る。

 今までの隊は訓練で学んだカウンターなんて出す間もなく、無残に散った。


 「おいおいヨンミチ、少しは手加減してくれ」

 「皆はそれを望んでなさそうですけど」

 「……実際そうなんだよなあ。この意識の高さ、お前らにも学んで欲しいよ」

 「うちのクラスはちょっと特殊ですし、この1年生たちは真っすぐでいいですね」


 そうだ、手抜きなど求めてはいない。

 先の世界を体感、幸先よく決まるなて思うわけない。

 神頼みなんてしない。

 

 (むしろ変幻に神様(エレネーガ)が憑いているくらいだし、本当にどうしようもない)


 「ボヤボヤしてんな。行くぞルティーニ」

 「分かってる」

  

 ガスマンには理解の言葉を伝えるが、具体的な打開策は思いつかない。

 そもそも独りでどこまで戦えるか。

 外へ放つ能力は全て止められる。

 となれば同調を搔い潜り、真に戦えるのはこの小隊で私と獣化のガスマンだけ。

 

 「……おい」

 「なに?」

 

 立ち上がり立ち向かうまでの短い間。

 珍しくガスマンが話しかけてくるのが多い今日。

 進む足の最中、またも声を掛けてくる。


 「勝算、あるか?」

 「……スピード勝負」

 「俺とお前以外の能力は同調で消されちまう、一発目の速さを止められたら終わりだ」

 「なら、どうしたいの?」

 「スピード勝負については賛成。問題はその後だ————」


 曰く私とガスマンが開始と同時に仕掛ける、全力フルマックスでだ。

 変幻が相手、殺す気で挑んで当然。

 そこでどうにか揺さぶり、同調を乱す。

 乱れたならば残る3人が能力を発動、一気に畳みかける。

 土壇場の考えながら、小隊戦においてはこれしかあるまい。


 「これで最後か」

 「前みたいにいかねえ……!」

 「ええ」


 結局ガスマンの案に乗ってしまった。

 口挟まずにいたのはあの説教があったから。

 確かにそれもある、しかし理にかなっている戦略。

 乗ってやるのもやぶさかじゃない。


 「じゃあカウント始めるぞ、気張れよ1年」

 「「「「「はい!」」」」」


 身体に巡らす血流を感覚確認、心臓の動き間隔を把握。

 電流もすぐに流せるよう待機。

 手にかけるライデンの柄、抜刀の前傾姿勢。

 吸った息を静かに吐きだす。

 脳筋と戦う前試合、腹もちここに座る。


 「試合、始め!」


 エイガー先生のカウントが終了。

 姿勢更に前のめり、地に這う蛇が如く一気に駆け抜ける。


 「全雷化フル・ブースト

 「化変獣・轟(ビースト・ライド)!!」


 間髪入れずに発射、弾丸のように突き進む。

 踏切破壊、描く一本線、躍動する両脚、手にした柄に力を一層。

 瞬間と瞬間の接触。

 セッションする一時的場面、先方務めるは、私だ。


 「勝負————!」

 「真正面からか! いいねえ!」


 後方3人も能力を発動しようとするが、途端に青い粒子が場を支配。

 場面は一色、やはり能力は発動出来ない。

 これを打開するのは先陣たる私、旋風と戦塵せんじんを巻き起こす。


 「抜刀、ライキリ」

 「レネの言ってた刀か!」

 「巡れ紫電(ライトニング)


 刃に通す紫の電流、大気を焼く一迅の一刀。

 動作を倍速、ヒートアップして回る脳が最速を叩き出す。


 「大気同調アトモス・シンクロ

 

 ただ振りかぶった刀は突如として止まる。

 振り上げた状態でだ。

 まるで空間に白刃取りされてかのよう、もしくは空間ごと凍った感覚。

 ビクともしない、刀を振り下ろせない、なら————


 「っお!」

 「……倍速、雷化ブースト

 「刀を捨てて殴り合いとは、すげえな」


 なにも培ってきたのは剣術だけではない。

 格闘術をもこの身に刻んできた、武器がダメなら残るは身体だけ。

 身体一面に電撃を宿す、突き出す拳、まさしくカウンターのタイミングで放つ。


 「たまにはアリだな」

 「っ!」

 

 大気でこの身を阻むか、風で追い返すか、答えはどれでもない。

 相手も同様、その身で語りに来る。

 正直能力が強すぎるだけあって、格闘における技術は大したことないと思っていたが————


 (普通にかわされる……! というよりも普通にレベルが高い……!)


 変幻自在というのは何も能力だけでないと今に実感。

 この男は格闘も出来るのだ、それがなんの武術か軍用技かは不明。

 ただ凄まじいほどの練度、一朝一夕で身につくものではなく、努力を垣間見る。

 気を抜いていないのに、ほんの一瞬の隙を突いてカウンターが捩じり込まれる。

 顔面だろうとお構いなし、猛打が開始される、いや開始されようとした時。


 「化変獣、完了! 俺登場!」

 

 間合いに急登場で急展開。

 私が一気に持ってかれる、その絶妙な場面でガスマンの蹴りが炸裂。

 変幻の頭部に獣の轟脚がヒットした。


 「いや! 当たってねえ!」


 途端に足元が爆発。

 風爆弾、派手な音をたて吹き飛ばされる。

 受け身を取りつつ、視線は急上昇。

 

 「危ない危ない」

 「何で今のが防げんだよ……!」

 「そりゃ、経験?」

 

 魔王を倒しに行けば出来るようになるというのか。

 さっきの動きはもう人間じゃなかった。

 人外の領域、足を踏み入れるその一歩手前で殴り飛ばされた。

 

 「流石に主席と次席、良い能力だ。でもな————」


 グラグラと揺れる会場。

 地震、そう錯覚するほど。

 能力の強い影響力が世界を震撼させるのだ。


 「まだまだ俺は、上に行く」


 辺り一帯の空気が変幻の元へと集まっていく。

 その姿はブラックホールのよう。

 スーパーノヴァ起こす見たいに美しく、そして超上のものだと嫌でも理解。

 集約した黒き点から放たれるのは、どんな攻撃なのか。

 それは分からないが、生まれて初めて『死』を体感。

 これが、死ぬということの世界観。


 「吹き荒れろ、テンペ————」

 「試合終了! そこまでだ!」

 

 意識の世界から現実に巻き戻り。

 裁定者の言葉が戦いを終わらせる。


 「やりすぎだぞヨンミチ」

 「……すんません、ちょっと面白くなってきたんでつい」

 「後輩を殺す気かお前は」

 

 危なかった、冷や汗が止まらない。

 それは隣にいるガスマンも一緒、むしろこの光景を見ていた誰もが感じている。

 絶対的な壁、垣間見た一片の本気。

 それがもし現実に形成していたのら、今頃私は————


 「2人とも良い動きだった」

 「は、はい」

 「お、おうっす」

 

 一応褒められて、いる?

 ただ身体と同じく思考も硬直しているため、スンナリ受け入れられない。

 更に変幻の言葉は続く。


 「ちなみにエイラにあのスピードじゃ厳しい。確か獣化の、ガスマンだったか?」

 「は、はいっす」

 「見た目に似合わずよく考えて戦うタイプ、ただもうちょい踏み切っていいと思う。最初があと数秒早く来れてればまだチャンスはあったぞ」 

 「分かった。いえ、分かりました」


 前も、その前の試合もそうだが、意外とアドバイスをくれる。

 脳筋が一度力を見せてくれた時は、サービス無しの退場で、変幻もそうかと思った。

 エイガー先生の言った通り、この人は良い先輩なのかもしれない。


 「そしてルティーニ」

 「はい」

 「もっと感覚に委ねろ。お前に思考は要らないぞ」

 「要らない、ですか?」

 「ああ。定まった型がお前のスピードを鈍らせてる。もっと直感で戦え」

 「直感……」 

 「まああれだな、脳筋の才能があるよ」

 「……」


 まさか求めたいた答えをここで言われるとは。

 しかし抽象的、型というのは剣術とか戦法ということだろうか。

 にしても脳筋の才能、それは喜んでいいものだろうか。

 

 「さて、じゃあ俺はここらへんで」

 「ありがとなヨンミチ」

 「いえいえ、エイガー先生のお願いとあれば喜んでやりますとも」

 「その姿勢は嬉しいが、単位はやらんぞ?」

 「……分かってまーす」


 若干残念そうな顔をしていたのは何となく察し。

 そうこうしながら変幻はここを去っていく。

 颯の如く、まるで突風のような人だ。

 しかし背中を向けながら最後に一言。

 

 「————まだまだ時間はある、頑張れよ」

 

 誰に言ってか、誰に向けてか。

 ただ脳筋に挑む者も挑まない者も、普段の戦闘水準の考え方は一段階上へ。

 思い返せば、しないと言いつつ手加減はあったのだろう。

 上の世界をなるべく身近に感じさせるために。

 それは死の感覚をもって心底理解、まったくなんて先輩だ。


 「「「「「頑張ります!」」」」」


 感謝の意にも背中向け軽く右手を上げるのみ。

 なるほど、これがエイラ・X・フォードが認めた男。

 おそろしく強いが、なんとも粋な人。

 良い先輩だということに間違いはなさそうだ。

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