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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
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 「美味い!」

 「程々にしとけよ」

 「じゃないとユウの財布が死ぬものな!」

 「分かってるなら自重してくれ」


 ニューヨークでの仕事報酬を考えればたいした出費ではない。

 破産は無いと分かった上での軽い掛け合い。

 俺たちはセント・テレーネ学園を飛び出し街中へ。

 ルチアに言われた物はすぐ手に入るものばかり、時間つぶしにも改めてローマに浸かる。

 

 (ただエイラが案内してくれるの食べ物関係ばっかりなんだよなあ……)


 イタリアの学園に半年通っていてなんだが、俺は地理に詳しくない。

 観光地についても然り。

 折角なのでとエイラに尋ねてみたら、返ってきたのはグルメツアーの案内状だった。


 「む! クリ発見!」

 「……おお焼き栗か。イタリアにもあるんだな」

 「この時期には屋台が出るのだ! さあ買っていこう!」

 「はいはい」


 日本は年中売っているイメージだが、イタリアは秋の時期だけ焼き栗を屋台で売るらしい。

 周りを見れば道行く人もちょこちょこ買っている。

 

 「いらっしゃ……、って脳筋姫じゃねえか」

 「脳筋姫? 私はエイラ・X・フォードだが」

 「はっはっは! 知ってるって! いっちょ前に彼氏連れかい」

 

 なかなか粋なおじさんだ。

 まあエイラにジョーク飛ばしても理解されないだろうけど。 

 ただ『脳筋姫』ってのは最近じゃよく言われる、そりゃ見た目は美少女、頭脳は筋肉だから。

 はたやヴァチカンの聖剣使いという呼称はどこにいったのか。

 

 「大盛り、いやマシマシで!」

 「エイラ、ここはラーメン屋じゃないぞ」

 「あいよ!」

 「って通じるんかい……」

 「脳筋姫は可愛いからオマケだ!」


 イタリア人は女性に寛容、まあトニーみたいな奴もいるが。

 値段変わらないが、おじさんの計らいでなかなか盛ってくれる。

 

 「食べよう!」

 「おう、ってもう殻割れてるんだ」

 「日本のクリは割れてないのか?」

 「いや、そんな食ったことないから曖昧だけど、食うのが大変だった記憶がある」


 名前は天津甘栗だったろうか?

 よく横浜とかで売られているやつ。

 あれは殻に割れ目なんてなく、剥くのが大変なイメージ。

 今買ったのは、ご丁寧にも桃太郎の桃みたいに真ん中パカリ、非常に食べやすい。


 「殻ごと食うなよ」

 「わ、私だってそんなバカではない!」

 「冗談冗談」

 「まったく見くびられたも……」


 エイラの言葉の続きは小さな破砕音にせき止め。

 まるで何か固い殻を歯で粉砕したかのような音だ。

 途端にエイラは苦々しい顔をする。

 

 「……」

 「聞かなかったことにする」

 「ま、まあ不注意は誰にでもある!」

 「そんな経験無いっての、あと飲み込むなよ?」

 「流石にしない、マズいのでな」

 「美味かったら食うんかい……」


 エイラの思考を一応了承しつつ、行先もなく右往左往。 

 知名度的にやはり視線は向くが一度きり、みな一瞥して視線を外す。

 日本は粘り強い印象、そういうところ、なんだかんだイタリアは住みやすい。

 馴れもあるだろうが、なんだかイタリアに永住しても良い気がする。


 (ご飯は美味しいし、人も街もいい、それにエイラもいるし————)


 「ユウ」

 「なん……!」


 呼ばれたと思ったら急接近。

 エイラの顔がすぐ目の前まで、鼻の先と鼻の先のつく位置まで。

 タッチとコンタクト、唐突な出来事に四肢は動きを停止、何故か思考も。

 飛びあがりの心臓、時間の感覚を一気に遅くする。


 「な、なんだよ」

 「髪の毛にテープっぽいのついてるぞ。取るから動くな」

 「じ、自分で……」

 「鏡も無しに取れるはずないだろう。任せてくれ」


 急接近から少し後退。

 正確な付着場所を確認したか、はたまた俺がビビッて退いたからか。

 どちらにせよ焦ったこと間違いなし。

 白い手が触れるこの髪、さっきまで無かった鼻孔につく甘い香り。

 視線下にエイラの上目線を、こいつは取ることに集中しているが、俺の眼はエイラだけを捉える。

 綺麗だ、この状況この場面この時をもってして改め再確認してしまう。


 「ほら取れたぞ」

 「……ラミネート作りのやつだったか。それとあれだな、ありがと」

 「ふっふっふ! 気にするな!」

 

 なんでもないように瞬間で終わる出来事。

 縮まった距離は逆戻り、視点間隔はホールドから隣に並ぶぐらいに。

 ゴーストに攫われたような心臓、正常な脈を取り戻す。


 「じゃ、行くか」

 「……あ、ああ」

 

 ぎこちなくも俺はエイラの手を取る。

 エイラも手を受け取り握り返す。

 能力で気温を操作するのとは全然違う。

 身体には脳信号を伝えるため電気が走っている。

 それが手から手つなぎネットワーク、もっと突き詰めて磁石のようにくっつく。

 俺の感情は確かにエイラという温もりを捉えている。














 「————だいぶ日が暮れてきたなあ」

 

 腹にイタリア秋の味覚を堪能しながらウロウロと。

 ただ時間はモーメント、普段の倍以上の速さで経過してしまう。

 穏やかなオレンジ色、エイラと俺のレンジはゼロ、ただそろそろタイムリミット。


 「トニーから連絡来てるし、今日はもう解散だと」

 「……結局私は何も手伝えなかったな」

 「い、いや、エイラは何もしなくていい。その、まあマスコットみたいなもんだし」

 「マスコットとな?」

 「居るだけでパワーが漲るというか、パワースポットというか、モアイ像的な……?」

 「よく分からんが、つまりは何をするでもなく、ただ立っていればいいと」

 「そうそう。それだけで元気になれる」

 

 繋いだ手を大きく振る。

 それに伴ったような支離滅裂な会話、援護しているかも不明なたとえ話。

 なんだよパワースポットとかモアイ像とか、自分で言っといて意味不明だ。

 それでも納得しているエイラは、もっとわけわからないけど。


 「なら私たちも家に帰るか」

 「だな。そういえばエイラの家は近いのか?」

 

 なんだかんだとエイラの家は行ったことがない。

 一緒にいる時間長いだけあって家族の話は結構聞いてる。

 曰く普通の父、普通の母、普通の妹、そして自分という4人構成とのこと。

 この普通という冠はエイラが言っていたんだが————


 (エイラの家族が普通・・のわけないんだよなあ……)


 彼女なんと言おうとも、エイラ・X・フォードと共に暮らす人間。

 これが常人だとは到底信じられない。


 「今度来てくれ。ユウを紹介したい」

 「まあ顔ぐらいは合わせておきたいな」

 「きっと皆喜ぶ、(かあ)様は特に会いたいと前々から言っていたし」

 「え、エイラの母親か……」

 「普通の人だから安心してくれ」

 

 (普通とか普通じゃないとかじゃなくて、会うこと自体に緊張するんだよ……)


 凄い怖いお父さん出てきたらどうしよう。

 まあ最悪エイラに庇ってもらうしか、物理的にも精神的にも。

 

 「そういやエキシビションマッチ聞いたぞ」

 「ああ、あれか」

 「良く引き受けたじゃんか」

 「最初は面倒だと思ったんだがな、文化祭の出店でみせで使える商品券をくれると言うのでな」

 「結局食い物かい……」

 「む! バカにするなよ! 毎年レベル高い品が多いんだぞ!」


 生徒会の餌はまさしその名の通り。

 見事に食でエイラをステージに上がらせたわけだ。

 

 「初めはユウも誘うつもりだったんだがな……」

 「それじゃあ勝負にならないと」

 「うむ。そう言われた」


 俺とエイラが組めば敵なし、形無(かたな)しの小隊制、エイラだけならミクロの単位で一応勝率は増加する。

 参加者に『もしかしたら』という希望を持たせられる。

 まあ学園祭の催し、見世物の試合だし、そんなガチガチではないわけだ。


 「こう言ってはなんだが、負ける気はしないな」

 「そりゃお前SSS級だぞ? 同世代で勝てたら世界ニュースになる」

 「少しでも張り合える奴が出てくれば嬉しいんだが……」


 エイラはおそらく1年生たちのことを知らない。

 俺も詳しく知るわけではないが、主席と次席の力量は初見で大体把握した。

 まあエイラに勝てる実力とは到底言えない。

 エイラだけじゃなく、国際戦でも通用しないレベル。

 分かりきっていたことだが、参加者の中にエイラの期待に応える能力者は1人としていないだろう。


 (ただここでネタ晴らししちゃ1年に悪いし、大人しく黙っとくか)


 1年に敗北の色濃いのは明確。

 明快で単純、疑問を抱かない実力差。

 エイラに伝えたところで結果は変わらないが、少しでものマナープレーと優しさだ。


 (エイラのためにも、少し前向きな質問しとくか)


 「じゃあ仮にだ、仮にエイラが負けたらどうする?」

 「私は負けん!」

 「いやだから仮にだよ仮に」

 「もしの話はあんまりだが、そうだな……」

 

 もともと負けることは想定外、考えてすらいない。

 そりゃ俺もエイラが勝つビジョンしか見えないとも。

 ただそういう仮にの思考が少しでもエイラを楽しめさせたら。

 戦いは孤独、見世物とは言え今回なんか特に。

 相手は小隊5人で挑んで来る、少しでも刺激を与え、ホントに少しだとしてもやる気を維持してやりたい。

 

 「もし私に勝ったら、なんでも願いを聞いてやろう!」

 「つまりは言うこと聞くと」

 「うむ! ただ私が嫌だと思ったことはやらん!」

 「ってなんだそりゃ……」


 なんて自分勝手な考え方、ただ出来る範囲ならやってくれるそう。

 魔物退治なり、ボランティアなり、クッキングなり。

 その願いの質がどうあれ、やれるなら必ずやるらしい。


 「じゃあもし俺が参加して、仮に勝ったとする」

 

 未来を創造、仮想のシチュエーションを思い浮かべる。

 構図は俺が勝利したとき。

 ただ俺が抱いたのは願いじゃない、『疑問』だ。


 「俺がエイラに勝った時、その時お前は笑ってくれるか?」


 別にお願いでもなんでもない。

 むしろ笑ってくれとお願いしても意味は無い。

 そこに真の感情は存在しなく、偽りの笑みのみ。

 心孤独の戦いに俺という孤独が打ち勝ったのなら、お前は心の底から笑うことができるのか?

 初めて出会った時以上の、その何倍も何倍も腹を抱えることができるか?


 「ユウは可笑しなことを言うなあ」

 「そうか?」

 「ただ私に勝てたら、それはもう笑うしかあるまい、もう嬉しくてな」

 「なるほど。それは良い」


 理想点は夢に浮かぶ。

 想起できるくらいに鮮明に。

 

 「ふっふっふっふ……」

 「なに笑ってんだよ」

 「ユウこそニヤついてるぞ」

 「もともとこういう顔だ」

 「そうか、ならそういうことにしよう」

 「そうだ、そういうことだよ」


 全ての道はローマに通ず。

 全ての思いはここに来て集約。

 繋いだ手、分かれ道、お互い一時の帰路別れ。


 「私はこっちなのでな」

 「なら今日はここまでか」

 「ああ。また明日だ」

 「おう。また明日な」


 しっかり、根を這う大樹のように絡んだ思いを瞬間だけ離す。

 再会の言葉と共に進路を転換。

 寮へと、懐かしきあの心情領域へと。

 振り返らず目線外れ、進むのみとなった時、エイラから付け加える最後の一言。


 「学園祭、楽しみにしている」

 

 風に言霊揺れた時、歩みは実行。

 そして案外見世物も悪くないと今更ながら。

 一周回ってチャレンジにチャレンジ。


 「なら忘れられないくらい楽しませてやるよ————」

 

 俺の言霊届いたかは知らず。

 ただ流れは止まらず。

 言葉は風に乗り、エイラ進んだ分かれた道へと流れていった。


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