90
「じゃあ主席ちゃんとは知り合いでもなんでもないと?」
「一言二言会話しただけだな」
「なら一体何の用だったんだろうなあ」
「俺が聞きたいよ」
12時を振り切り午後へシフト。
ふと思い出したと、トニーがアウラ・ルティーニ訪問のことを話す。
何やら俺に会いに来たらしいが、あいにく席外し。
内容は検討つかない、アポ無しだし。
顔出しの帰国初日に、刀を見せてとお願いしたくらいの仲。
冗談でも友達、何か話するような後輩と言える存在ではない。
「にしてもアウラちゃん可愛かったなあ」
「まーたその話っすか」
「ザック、何言ってもコイツの思考は変わんないぞ」
「知ってるっすよ。でも呆れるもんは呆れるっす」
何時まで経っても煩悩まみれ、ケジメを忘れ抑制を取っ払い、すぐ言葉に変える。
そんなんだから女子から変態扱いされるんだ。
「若干冷たく気怠そうな瞳! それでいて淡泊な会話! そこに顔のコントラスト! 最高に良い!」
「はいはい」
「わかったっすよ」
「……お前ら枯れてんなあ」
「トニーは元気すぎっす。それと順番きたっぽいすね」
今行っているのは短距離走。
いわゆる体育の授業、能力を使うわけでもなく単純に走る。
一定間隔を空け順番待ちの状態、昼食後というのもあってペースはノロノロと。
軽く駄弁りながらカリキュラムをこなしていく。
「ユウから見て今年の主席、そのルティーニさんとやらはどうすか?」
「どうって言われてもなあ」
「ほら能力的にとか、技術的にとかっす」
「身のこなしは良さそうだった、あとは能力だけど、まあそこそこ良いと思う」
「適当な物言いっすねえ」
「いやホントホント、1年生にしては強いと思うよ」
電撃系と刀使うもんだから、周りからは『雷侍』なんて呼ばれているらしい。
ただ外発系は全て同調で防げる。
体内臓器の強化出来るらしいが、エイラに比べりゃお遊戯と同義。
刀の扱いも国際戦であった奴等に比べりゃ甘いはず。
後れを取るなんてことはない、と思う。
(けど次席も含め、パッと見だが今年の1年生は有望な奴が多そうだ)
「というかよ、ユウに勝てるのなんてフォード先輩ぐらいだろ」
ペースは循環、会話にトニーも参加。
辛口で適当らしい俺の評価にツッコミを入れてくる。
「分かんないっすよ! ユウっち正直、今だったらフォード先輩に勝てる見込みあるんじゃないっすか?」
「難しいところだな。絶対に勝てないとは言わないけど……」
「なんだ下剋上か!?」
「いや厳しい、相性的にもスタイル的にもな————」
約半年前は否応なく半殺しにされた。
ただその時とは違い、俺にはレネと、刻印の風がある。
しかしそれを加味してもだ。
1対1で戦って勝てる可能性は低いように思われる。
「フォード先輩を同調してさ、動きを止めたら勝てるんじゃね?」
「いや無理だな。あれはお互いの感情を合わせないと出来ない、拒否られれば不発に終わる」
確かにエイラ自身と同調はできる。
ただそれにはお互いの心を通わす必要がある。
心は露わにするだろうが、タイマンとなればガッチリガード。
壁があるなら身体に同調は行えない。
「じゃあっすよ。銀神様の力とか、魔槍の方はどうなすか?」
「そっちもなあ————」
外発能力を封じる銀世界も、エイラの強化には意味をなさない。
むしろシンクロや魔槍を封じる結果となり、逆に俺を不利にさせてしまう。
ならば銀刀で聖剣を銀にし効力を失わせる、それも厳しい。
レネぐらいの神力量だったら聖剣を銀に変えられるだろうが、俺如きの神力量では不可能だ。
(戦闘においても、レネの経験を同調してやっと戦えるレベル。それにしたって神力量の消費が激しすぎる)
巨大主砲たる刻印魔槍もあるが、これには莫大な神力を使う。
ただでさえ燃費悪いと言われているのにだ。
もし撃てたとしても、エイラの本気の強化は、月との激突を可能にしてしまうレベル。
そこにお得意の脳筋魂、気合の力が混ざれば、まさかアイツがワンパンで倒れるわけもない。
「つまりは決定打がないと」
「ないってわけでもないんだが……」
「え!? あるんなら使えばいいじゃないっすか」
「レネを召喚してレネに戦ってもらう、をか?」
「確かに、タイマンでそれは情けねえなあ」
「だろ? 銀の力を使うはともかく、まさか代わりに戦ってもらうってのも————」
生命の危機ならまだしも、エイラとの戦いで使うべきではない。
隣に立つという目標がある。
あくまでレネは俺の一歩後ろで、主役は俺だ。
「となると長期戦は必須っすね」
「ああ。それが厄介なんだ」
先手で決まれば良し。
ただ決めきれなければ、ドロドロの泥沼戦。
状況的には俺の不利は明らか、神力も魔力もゴリゴリ削られるし、その中でエイラの剣戟は止まらない。
同調する力も周りに無いことだし、超短期戦でしか勝機は見いだせない。
「何時かはユウに勝って欲しいもんだ」
「そっすねえ」
言われて思う、それは何時だろうか。
漠然としている、果てなき砂漠が続く、何処に埋っているのかダイヤモンド。
明日今度、そうやって追いかけた先に宝石は存在しているのか。
俺はずっと探している、あるはずなんだ。
(もし仮に無かったとしても、その時は————)
「死ぬ気でやって、無理やりにでも結果を創り出すよ」
かつてのフランスの英雄は言った『余の辞書に不可能の文字は無い』と。
まさしくその通り、思考の無駄遣い、今は必死に走るのみだろう。
「あ、順番きたっすね」
「面倒くせえ」
「止まってる暇ないぞ」
「分かってるよー」
感情だけじゃなく、足も動かす。
単位だって落とすわけにはいかないのだ。
「……トニー、ザック、勝負をしよう。負けたやつはジュース奢りで」
「へえユウが吹っ掛けるなんて珍しい」
「いっすよ! 能力ないなら勝てる見込みあるっすから!」
勝負してなんぼの世界。
挑まなきゃ勝利は絶対に訪れない。
いや、訪れるなんて生易しくもなく、この手で掴み取らねばいけない。
トニー達にエイラと戦って勝つのは厳しいと言った。
その通り、言葉に嘘はない。
だがもし次に戦う時があるのなら、俺は全力で、今までの全てをぶつけて勝利を取りに行く。