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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 7 -School Festival and Ring 《幻の思い現実に》-
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 約1ヵ月半ぶりのイタリア。

 帰ってきて早々学園へと向かう。

 見慣れた道を歩き、見慣れた門を潜り抜ける。

 抜けた先には広大な敷地、巨大な校舎。

 若干の懐かしさを感じつつも、グラウンドでは1年生だろうか、ギコチナイ動きで練習をしている。

 なかなか微笑ましい光景、と思っていたが、急に雲行きが怪しくなる。

 何故か1対1の決闘が始まり、挙句一線を越えた技を使おうとしている。

 

 (ありゃ危ねえし止めるか)


 あれ以上続けさせたらどっちか危険、最悪死ぬかもしれない

 決めたら実行、視界にいれる決闘人に的を絞る。

 女の方は雷、男の方は自己強化系、意識を一瞬強め空間を支配。


 「————同調シンクロ

 

 少し暴れている雷を打ち消す、男の方は自己強化だから消すこと叶わず、仕方ないから大気を固めて動けなくさせる。

 雪崩の如く同調の光は進撃、上から捻じ伏せる。

 圧倒、圧迫、圧縮、アッと言わせる暇なく場を制覇する。

 止めたは止めたし一応現場へと向かう、ついでに何処のバカ教師が担当か見といてやる。


 「一体どこの教師がって、あれ、エイガー先生じゃん」

 「お前、ヨンミチ……」

 「ちょっと危なそうだったんで止めましたよ」

 「あ、ああ、助かった……」


 誰が面倒見てると思いきや、なんと見ていたのは我が担任エイガー先生。

 おいおい大丈夫かよと思うと同時、留年宣告されたのを思い出す。

 いやいや、ニューヨークでしっかり勉強をしてきたし、これからは心を入れ替え勉強する気。

 卑下するのは止めよう、堂々と行こう。


 「改めてですけど、2年A組ユウ・ヨンミチ。ただいま戻りました」

 

 してやったみたいに思わずニヤついてしまう。

 そりゃそう、まさかの留年から奇跡の復活、土産話も背負って帰ってこれた。

 更には教師の判断として危うい現場も見てしまったし。

 

 「ふっふっふ、はっはっはっはっは」


 ただエイガー先生は珍しく大きな笑いで返してくる。

 てっきり淡泊な応答だと思っていたが意外や意外。

 むしろこっちが困惑してしまう。


 「ど、どうしたんです?」

 「今回も来たかと思うとな、笑ってしまった」 

 「……今回も?」

 「なに気にするな。とりあえず留学ご苦労、楽しめたか?」

 「はあ、留学については楽しみすぎたぐらいです」

 「そうかそうか」

 

 労いの精神あるかは兎も角、無事に帰還。

 留学という期間を経て再びここに。


 『ユウ』

 「ん?」

 『あのおなごの持つ刀が気になる。ちと貸してもらえ』

 「……はいはい」


 先生に土産話をするでもなく、レネが興味深そうに別のものに意識を向ける。

 それは決闘にて俺が止めた雷の使い手、金髪に黒眼という珍しい組み合わせの少女持つ刀へと。

 

 (確かにイタリア人が刀を使うってのも不思議な話だな)


 近づくごとに一歩下がる暫定1年生たち。

 さっきまで色々言っていたようだが、迫れば反転黙ってしまう。

 おそらくファーストコンタクトのはずだが、なんだか怖がられている?

 特に何をしたってわけでもないんだが。


 「なあ君」

 「な、なんですか?」

 

 とりあえずレネがご所望の刀たる担い手へと。

 先生もツッコミ入れてこないし、一連の行動が終わるまで見逃してくれる様子。

 周りの視線は一点集中、そんなに見つめられても何も出ないぞ。


 「ちょっとその刀を見せてくれないか?」

 「……嫌です」

 「えっ」


 (まさかの断られたんだが……)


 流れで調べさせてくれると思ったんだが。

 眼を見てわかる、きっと大事な物なのだろう。

 ブレない信念、なかなか将来有望な後輩ではないだろうか。


 『強情な女のう、仕方あるまい、出るぞ』

 「まじで? そんな気になるのか?」

 『うむ。それにじかで触らねば最奥までは視えぬ』

 

 どうやらレネは刀が気になって仕方ない模様。

 俺の眼を通してだけではわからない、最低でも触れればいいのだが、この娘は拒否。

 正直俺は興味無し、無理強いする気はない。

 

 「ちょっとだけだぞ」

 「はい?」

 「悪いな、どうしても気になるみたいなんだ」

 「一体どういう? そもそもこれを見せる気はないと……」


 銀眼は輝く、神力を最低限ラインの最小量で回す。

 銀風は形を成す、髪を靡かせ、白き肉体を晒し、その美しき神体を現世へ顕す。


 「ぎ、銀神……!」

 「その刀ちと寄こせ」

 「あっ」

 「なに壊しはせんよ」

 

 また強引な、女生徒の拒否反応も無視してレネは掻っ攫う。

 ただ相手があの銀神ともなると対抗はキツイ。

 というか硬直、見れば秋だってのに額には汗がダラダラと。

 ビビってしまうのは仕方ない、なんせ相手神様、しかも暴れん坊で有名な戦神だし。

 

 「ふむふむ。ほうほうほう。なるほどなるほど」

 「それで、どうなんだよ?」

 「面白い武具じゃ。おいおなご、これを何処で手に入れた?」

 「……祖父からです」

 「つまりは先代か」

 「先代……?」

 「知らされておらんのか。なら我が言うのも無粋か、ほれ刀は返そう」

 

 レネは勝手に疑問視で勝手に自己解決。

 どうやら興味は失ったようだ。

 手に取っていた刀も持ち主へと返す。


 「我帰る」

 「……はいはい」

 

 駄々っ子かよ、そんなツッコミしたら怒られるか。

 とりあえずやりたいことを終え、肉体は消滅、粒子となったレネは俺へと消えていく。

 戻る脳内、俺の中でべたーっと前へ伏す。

 横暴したってのに、気にも留めず一発でこのだらけ方、さすが神様メンタル。


 「おいおいヨンミチ、後輩イジメは勘弁してくれ」

 「いや俺じゃなくてレネに言ってくださいよ」

 「神様に説教できるわけないだろう。俺は死にたくない」

 「そっすか……」


 冗談交じりながらも、やはり神には中々物申せないらしい。

 俺は慣れているが、まあそれが常識だ。

 そして薄々気付いては居たが、周りが一歩二歩と俺から遠ざかっていく。

 神様いりゃそうなる、それともシンクロも関係するのか、どちらにせよ避けられてるな。

 

 (ニューヨークの時とは真逆の反応だな)


 シャーロットたちはグイグイきすぎたぐらい、だが正直居心地は良かった。

 はたや悪い前評判があるのだろうか。

 なんせこの学園には、俺を俺たらしめる存在が俺以外に1人いる。

 そいつが暴れりゃ一緒にビビられるわな。


 『む、噂をすればじゃ』

 「ああ、今気づいた」


 風が捉えるは神速の存在の接近。

 とんでも無い速さで大地を駆けている、もはや人間と思えないスピードでだ。

 踏んで地響き、共鳴し心臓も高鳴る。

 来るべくして来る、接触までたった数秒、こんな超常的な速さもつのは、この学園で唯1人。

 評判を共に担ぐたった1人の相棒————


 「ユウ!」


 階段を一歩で全飛び、煌めく金の髪揺らし、曇りのない眼、美少女らしからぬ張り上げ声、そこには見覚えのある聖剣も。

 飛び越えて勢いそのまま、俺へ飛翔して直行。

 空を舞いまるで黄金のロケットが向かってくるよう、ただ避けるわけにもいくまい。


 「っうお!」

 

 避けたりなんかしない、全身使って受け止める。

 ただ飛んで来た人間を真向から受け止めれば、やはり変な声も出る。

 というかどんだけダッシュしてきたんだ、一瞬クラッとする衝撃だったぞ。

 

 「ユウ! ユウ!」

 「勢い強すぎだぞエイラ」

 「気を感じてな! それで直ぐに走って来たからな!」

 「そうかそうかって、抱き着き過ぎだ……」

  

 受け止めてそれから、一向に離してくれる様子がない。

 しょうがないと俺も軽く腕を回す、見た目通りの細い身体、触れた距離から甘い香りも。

 ただ感情に浸る前に、異変が起き始める。

 異変とは、俺の上半身に回ったエイラの腕の力が段々と強く————


 「エイラ! おい強化が! 腕に強化がかかってるぞ!」

 「本当に長かった……」

 「聞けって! 死ぬ! 死ぬぞこれ! 早く強化解いてくれないとホントに————」

 「ん……」

 「いててててててて!」

  

 もうダメだ、このまじゃ抱擁で脊髄が粉砕される。

 シンクロは効かないのでレネに助けを求める。

 神力を回しなんとか這い出る。


 「なんで逃げるんだユウ!」

 「お前が強化使うからだろ!」

 「強化? 私は使った覚えがないぞ」

 「無意識だろ。あやうく背骨が折れるところだったわ」


 危なかった、最後らへんちょっとミシミシいってたし。

 ただそれを聞いてエイラは若干しょんぼり気味に。

 

 「すまない。つい舞い上がってしまった」

 「ま、まあ、別に、気にするな」

 「ユウ!」

 「だからすぐ抱き着くなって!」

 「今度はちゃんと意識して強化するぞ」

 「いや待て待て! 意識するとかじゃなくて、強化をしたらダメなん———」


 これが脳筋の抱擁か、たださっきに比べればだいぶ楽か。

 意識することによって和らいだものへと。


 (それでもかなり力強いけど……)


 このホールドを外すのは不可能、おそらくプロレスラーだろうと再起不能のレベル。

 ただこれもエイラなりの感情、受けるのもまあ、やぶさかじゃない。


 「フォード先輩が笑ってる……」

 「普段めっちゃ怖いのにな」

 「……笑顔が眩しい」

 「完璧美少女だ、ヨンミチ先輩が羨ましい」 

 「無理無理。フォード先輩の相棒はあの人だけだ」


 1年生たちの声が聞こえる限りじゃ、エイラは怖い印象らしい。

 こんなバカで一直線な奴なのに、良くも悪くも素直の塊だぞ。


 「ヨンミチ、一応授業中なんでな、イチャイチャは別の所でやってくれ」

 「イチャイチャって……」

 

 エイガー先生まで冷やかしか、まあ正論っちゃ正論だけど。

 確かにこのままエイラと抱き合い続けては迷惑だ。

 

 「エイラ」

 「なんだ?」

 「飯、食いに行こうか」

 「ああ!」


 途端にバッと抱き着き、もとい腕力拘束が解かれる。

 やっぱ飯の話には相変わらず。

 真面目に授業を受けようと決めていたが、今日だけ、今日だけはサボってしまおうか。

 

 (今日は帰国日だしセーフなはず、もしダメだったらエイガー先生のさっきの監督不行き届きを脅して……)


 良からぬ考えも浮かぶが、それはそれ、これはこれ。

 市街の方へ出るとしよう。

 抱擁は終わったが、まあ————


 「エイラ、手」

 「手?」

 「繋ぐ、か?」

 「……うむ!」

 「あ、強化はするなよ。握り潰されるから」

 「分かっているとも!」


 差し出した左手をエイラの右手が固く結ぶ。

 もう、エイラに迫られてばかりではいられない。

 そろそろ俺からも、目指すあの時に向けて前進しなければ。

 

 「今回は給料入ったから、好きなもの奢ってやるよ」

 「本当か!?」

 「ああ、だけど食べ過ぎ……」

 「行くぞおおお!」


 忠告は聞かず、この手を強引に引っ張っていく。

 ただ置いてかれはしない、されるつもりもない。

 何時もより更に一歩踏み出して、もっとエイラに近づく。

 帰って来たと実感。

 俺はエイラの隣が、やっぱり大好きだ。

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