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「まじで疲れた……」
「お疲れお疲れ」
時刻は夕方。
俺はベットに飛び込む。
ここはどこか?
ここはセント・テレーネ学園の男子寮である。
さすがにイタリアに家はないので今日からここでお世話になるのだ。
ちなみにこの寮は2人1室制。
誰かと一緒に生活を送っていくわけなんだけど、同居人は——
「まさかここでもトニーなんてな」
「ホントだよな。運命ってやつか?」
「気色悪いこと言うなよ……」
「すまんすまん。ユウの運命の相手はフォード先輩だったな」
「……そろそろ一発殴っとくか」
1日はあっという間だった。
緊張の自己紹介から始まり、クラスメイトと模擬戦をし、エイラが乱入、そして流れに流れアイツと小隊結成。
その後の授業もなんかおかしな雰囲気だったし。
怒涛の1日であったのは間違いない。
「ストレスか? みんなから質問責めだったから仕方ないかー」
「……ああ」
エイラとのくだりも大変だったが、もっと大変だったのがその後。
エイラが去ってからというもの、クラスメイト達から、どこで知り合ったから始まり、付き合ってるのかとか、小隊戦の目標はとか、俺の能力に関することも数えられないくらい聞かれた。
噂を聞きつけ他クラスとか学年が違う人まで見に来る始末。
質問は皆一斉に言ってくるし、俺は聖徳太子じゃないっての。
でも今回でクラスにも馴染めた気がする。
模擬戦をしたザックとかアリエル、 見た目小学生のアリーナとも仲良くなれた。
あの一方的な試合内容だけだとボッチの可能性は高かった、 けどある意味エイラの登場がうまく作用した。
そこに関しては素直に感謝しておこう。
「それと今日の模擬戦でルチアの奴も頭が冷えただろうし、いい気味だぜ」
「喜ぶことか?」
「ああ、AAランクだからってちょっとヤリ過ぎなとこあったからな」
「そっか」
「お前にはあの後かなり怖い顔してたけど」
「……」
確かに模擬戦の後のルチアの顔といえば般若そのもの。
その後の授業もチラチラと睨んでくるし。
プライドを傷つけたとか?
なんか考えれば考えるほどメンドいぞ。
「ただ模擬戦中、フォード先輩が突然現れたときはほんとビビったよなー」
「それには激しく同意だな」
「しかもユウはあのフォード先輩を、『エイラ』なんて呼び捨てするしよ」
「確かによくよく考えれば年上だなアイツ」
「その態度できるのがすげーよな。やっぱS級はちげーわ」
「エイラはバカだから、そういうの気にしないと思うぞ」
今思えばエイラは俺より1つ年上だ。
学年も違う。
それであの思考回路なんだから、中学、いや小学校からやり直した方がいいと思う。
それと海外じゃ名前を呼び捨てにするのがデフォだと思ってたが、エイラに対しては例外でおいそれと呼べないようだ。
「にしても2人組の小隊、いや小隊と呼べる人数じゃないか」
「自分でもそう思うよ」
「これで予選も面白くなるぜ」
「恥ずかしいことにならないよう頑張るよ」
模擬戦後にエイラと組むと決めたわけだが、それからといえばすぐに申請書を事務課に出しに行った。
エイラ曰く、決めたら即行動だそうだ。
ここら辺は見習ってもいいかもしれない。
「これでやっと会長に対抗馬が生まれたわけだ」
「会長?」
「生徒会長カルロ・ラングバードが率いるチームさ」
「旗の先導者だったか」
カルロ・ラングバード、ランクはAAA。
3年生にして生徒会長も務める、生徒の模範のような人らしい。
「会長以外も全員AAだし、去年もいいとこまで行ったんだけどな」
「確か国際大会で5位だったっけ?」
「ああ、でも結構頑張った方だぜ」
「5位なのにか?」
「そうは言うけど4位以上はどこもS級が1人はいたからな」
Sランクか。
そりゃAAA級までしかいないなら苦戦はするだろう。
それにここ最近の若手は『黄金の世代』って言われるくらい人材豊富だ。
去年優勝したアメリカは、 メンバーの半分がSランクという豪華ぶりだったし。
「そんな奴らに2人で挑む俺たちってマジでバカなんじゃ……」
「いや勝ち目はある!」
「そうか?」
「お前はSランクだし、しかもだ! 相方はあのフォード先輩!」
「脳筋だぞ」
「でもまあ聖剣も付いてくるし」
「……聖剣はオマケかなんかか?」
頭はアレだがエイラの実力は本物だ。
近接超特化のアイツと、全範囲系の俺の能力、相性は悪くない、むしろ客観的に見ればかなり相性はいい。
「もう小隊結成の申請をしたんだよな?」
「一緒に予選参加の申請もしてきたさ」
「行動がお早いことで」
「エイラが即決なんだよ」
ちなみに小隊名、チーム名は各自で自由につけることができる。
リーダーの名前をそのまま付けてもいいし、ひと昔前の中学生が考えそうな名前でもオッケーだ。
俺の場合エイラがとんでもないのを付けようとしたから、そのままアイツの名前、エイラ・X・フォードで申請した。
つまりは苗字を取ってチーム『フォード』というわけ。
「はあ、もう遠くない内に予選だぜ。そろそろ仕上げに行かねーと」
「もう予選まで2か月か」
「ユウたちは急がねーとな」
「そうだなー……」
予選まで2か月もない。
時間は少ない。
どこまで仕上げられるか、 といっても本能で動くアイツに作戦も何もないだろうけど。
やれることをやる。
(てことは日本にいるアイツらもそろそろ予選ってことか……)
思い出されるのはかつての仲間、ガキの頃からの幼馴染たちと一緒に組んだ小隊だ。
高校生相手によく戦いを挑んでたのが懐かしい。
(俺も意外とホームシックってことか……)
「どうしたボーっとして」
「いや、腹減ってきてな」
「もうこんな時間か!」
「ああ」
「よっしゃ案内するぜ!」
「頼むよ」
やれることをやる。
このコンセプトは変わらない。
可能性は低いが、もし予選を勝ち抜いて国際大会に出れるもんなら、日本にいるアイツらと戦ってみたい。
もしくは、とてつもなく強いヤツらと戦いたい。
こんな思考してんじゃ俺も脳筋か。
「ユウぼけっとしてんなよー」
「ああ今行くよ」
トニーが急かすように言う。
まずは飯だろう。
考えるのはそれからでも、遅くはない。