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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 6 -Disturbance of New York 《突風のアルマゲドン》-
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 エルフが統一王を王たらしめる絶対の能力。

 彼が死んでなお残不可視なる遺産。

 名を原初兵器アトランティス

 それは赤、緑、青、三原色を混ぜた先にある漆黒の兵器だ。

 神をも薙ぎ払う伝説の砲台である。


 「ついに! ついに! ついに召喚したぞ!」


 全身から血を流しつつも、歓喜の咆哮、。

 召喚した者は赤の、いや、赤と緑の王たるグレン。

 数的有利か、それとも方法を知ってか、どんな理由にせよ奴はその手に黒を得てしまった。

 初めて露わになるその姿は————


 「なんだありゃ……」

 『数十年前、一度見て以来じゃのう』


 それを一言で表すのなら『島』

 真っ黒い島だ、大部分は黒岩石で構築、その上には奇妙にも黒い自然が垣間見える。

 前もって聞いた話じゃ砲台ってことだが、砲身は見当たらず、風に鉄の匂いも感じられない。


 「————シンクロ!」


 青い粒子を大気に走らせ、島にアクセス。

 対象が能力によるものなら、理論上は同調可能、あわよくば乗っ取る。

 そういうつもりもあったんだが————


 「っ!」

 『まあ無理じゃろうな』

 「1ミリも受け付けてくれなかったよ……」

 

 プロテクトがあるとか無いとか、そんな陳腐な話ではない。

 そもそも青い光、同調が避けて通ってしまう。

 N極がN極に行くみたいに、たとえ押し付けたとしても余りの強大さ故、俺の手に負いきれない。

 未確認生物より存在不明で問題滑り。

 まったく分からない、どうしようない、まさか本当に顕れるなんて思っていない。

 

 「レネ、あれを銀化させれるか?」

 『我の全盛期なら可能じゃ』

 「つまりは俺じゃ出来ないと……」

 『左様。そもそも神であろうとも、主神級でなければ話になるまいよ』


 手に握った銀刀様の答えはノー。

 曰くレネが本気を出して銀化させられるレベル、そんなもん人間の俺には不可能だ。

 つまりはインポッシブル、どんなスパイでも潜入敵わない難攻不落の要塞である。

 

 「我はやっと手にしたのだ! もうこれで敵はいない!」


 雄たけびは俺にとっての敗北の歌か。

 いいや、まだ希望はある。

 そもそも大前提として、発射には3つの色が必要なはず。

 奴が手にしているのは未だ赤と緑のみ、残る青色はシャーロットが宿している。


 「肝心のシャーロットがこっちに居る以上、原初兵器アトランティスは使えないんだろ!?」

 「いいやそれは間違いだぞ変幻」

 「間違い?」

 「確かに完全なる真実を撃つためには青の血も必要、しかし————」

 

 漆黒の島にある種の神々しさが生まれ始める。

 それはマグマのように燃える赤、全てを包む抱擁の緑。

 2つの色が黒に重なる。

 島を囲むは無限の式、不可思議な文字が羅列し円周を描く。

 色の式がこの視界を埋め尽くす。


 「撃つだけならば、最低2色(・・・・)あればいいのだ!」


 式は陣へと変化、眼を眩ませるほどの強烈な光。

 ビカリと輝き、気付いた時には準完成体だ。


 「死ね変幻!」

 

 後ずさった心臓と脳、気付いた時にはレーザー照射。

 出遅れた、コンマの秒単位でも表現不可、いくらなんでも発射までの速度が早すぎる。

 レネの忠告もおそらく間に合わず、シンクロによる察知にも引っかからず。

 直感、これは殺られる。

 強いてもの救いは俺が島より若干上に居たこと、この一発に限っては街へ被弾することはなさ————


 「ってあれ?」


 直感は通り抜け、むしろわけの分からぬ方向へ。

 歓喜の咆哮が今度は悲しき絶叫へと。

 島回る2色式から放たれる黒いレーザー、それは俺ではなく、召喚したはずのグレンへと襲い掛かった。


 「な、なぜだあああああああああああああああ」


 叫びは最期まで続くことなく何処かへ消える。

 残った色線が海へと伸びる。

 水素爆弾を軽々超える大爆発、エクスプロージョンという名前ですらも相応しくないくらいの攻撃力。

 海という存在を根底から焼き尽くす。 

 思考が停滞気味な中、赤緑の王グレンが死んだという結果だけが確かに残る。


 「あ、あれ? なんで俺じゃなくて王様の方に?」


 なんかギャグマンガみたいな展開だぞこれ。

 上から『ふっはっは』と笑ってたやつが、自分の武器で自爆した。

 ただその威力はネタでもなんでもなく、笑うことのできない代物だったが。


 「えっと、これで終わり?」

 『そうじゃな。敵の生命反応は確認できぬ、死んだぞ』

 「ええ!? なんだよこのオチ!? というか————」


 漫才かと疑うが、理由はその兵器が教えてくれる。

 先ほどまで大人しかったはずが、まるで悲鳴のような声が聞こえはじめる。

 発声元は黒き島から、式の羅列もグチャグチャに、明らかに様子がおかしい。


 『暴走じゃな』

 「まじで言ってんの?」

 『荒ぶっておるからこそ、召喚主を殺したのじゃろう。3色無いのに扱おうというのが無茶な話じゃ』

 「いやでも、あいつは2つの色だけでも発射可能だって……」

 『電池3つ必要なリモコンが2つで動くか?』

 「また現代風の分かりやすい例を、なるほどごもっともです」


 神様が例えるにしては随分身近な例を、しかし分かりやすい。

 確かにそりゃ動かんわ。

 動かせたとしても相当の無理、フランケン並みの違法改造、回路も滅茶苦茶、電圧もうやむや。

 そんな作りなら結果はショート、絵に描いたような爆発オチというわけだ。


 (いくら重症だったとしても、この終わり方には同情する……)


 流石に王様の死がこれでは拍子抜けもいいところ。

 決めるなら決めるでしっかり首を獲ってやればよかった。


 「それで、暴走を止めるにはどうしたらいい?」


 こうしている間にも島なる砲台は電磁波を纏いオーバーヒート。

 余りに強い影響力が空間を歪ませる。

 疑似ブラックホール、ここまで散散ネタっぽいと失笑したが、もう笑ってもいられない。

 放っておけば、この街、いやアメリカという国すら滅ぼしかけない。


 『アレには能力も科学とやらも通じんぞ』

 「科学兵器はダメと……」

 『止めるには足す(・・)しかあるまい』

 「足す?」

 『うむ。既に赤と緑は注ぎ込まれた。あとは青だけじゃ』

 「つまりは————」

 

 視線を久しぶりに女王いる城へと移す。

 幾多も張られた透明なプロテクトの中にシャーロットを確認する。

 原初兵器アトランティスには未だ赤と緑が、むしろ勢いを増して猛狂う。

 アンバランスさ、燃料配合が微妙だと言うのなら、足りないもの、青の色式を混ぜるしかない。


 「シャーロット」

 『もしもしユウ? 赤の王が撃たれたけどこれは……』

 「見てわかるだろうが原初兵器は暴走してる、赤の王が死んだのもアイツがポカしたからだ」

 『なんだか喜劇みたいな終わりかたね』

 「だがアレを置きっぱで死んだ。レネ曰く、止めるには青が必要だそうだ」

 『なるほどね。大体わかったわ』

 「迎えに行く、バリアを解除してもらってくれ」

 

 回線を終了。

 かなりザックリな説明だが、流石どこぞの脳筋と違って優秀、大筋は理解したようだ。

 しかし二つ返事だったが、彼女は分かっているのだろうか。

 こんだけ事象がデカい兵器、俺がレネと契約したと同じ、これには相当のリスクが科せられる。

 間違って失敗でもしようものなら、シャーロットは死ぬ。


 「ユウ!」

 「風で送るより抱えた方が早いんでな、失礼するぞ」

 

 時間はあまり残っていない、瞬間で移動して女王のもとへ。

 大気同調よりも俊敏に、やはり物理、抱きかかえ再び黒へと向かう。

 

 『やり方は単純、王として色式を流せ』


 レネによると話はシンプル、テンプレみたいな王道。

 王の道、見せつければ従えさせられる。

 

 「————ってことだそうだ」

 「つまりは気合でぶち込めってことね!」

 「ま、まあそうなるな」

 「戦えなくてウズウズしてたのよ! やっと来たわね私の出番が!」


 (なんかシャーロット無駄にハイテンションというか、脳筋発言が……)


 箱入り娘がどうしてこうなった。

 いやどうもこうも無い。

 いいじゃないか真っすぐで、いいじゃないか正直で、俺はそういう奴が好きだ。

 こういう王様だったら付いていってもいい、力を惜しみなく貸してもいい。

 ただ相棒がいるんで、家来になることは出来ないが。


 『高いオーラが集中しておる! 数発来るぞ!』

 「まじかよ……!」

 『被害を抑えたいのならもっと上を飛べい! そして神力を形創れ!』

 「上を飛ぶと、てか形創れってまさか……」

 『我が出る!』


 襲ってくるのは赤の王を一瞬で消した超威力砲。

 いくら俺でも全てを全て防ぐのは不可能。

 ここは神頼み、それは実体のない神籤みくじなんかよりずっと信頼できるもの。 

 銀神に残っている神力をありったけ注ぐ。

 銀光が倍増、薄れながらもレネを顕現させる。

 

 「え、エレネーガ様!?」

 「小娘! 道は我とユウが拓いてやろう! 汝は青を全力でぶつけよ!」

 「は、はい!」

 「ということじゃユウ、後れを取るでないぞ」

 「了解了解。死ぬ気でやりますとも」


 飛行するレネと俺、そしてシャーロット。

 ただし加速装置はここまで、あとは防御に完全移行する。


 「シャーロット」

 「なにかしら?」

 「頼んだぞ」

 「ええ! 任せて!」


 抱えたシャーロットを宙で離す。

 話すこともこれ以上は猶予無し、空に放った彼女を後は風で原初兵器アトランティスへと送る。

 俺とレネは彼女を葬らんとする砲撃を防ぐのみ。

 

 「さあ、最後の仕事だ————!」


 まさに飛来するアルマゲドン。

 それを叩き落とすのは突風の如く飛ぶ俺たち。

 守護者たる最後の瞬間が始まった。

















 「っ!」


 ユウの手から離れ空を飛ぶ。

 不思議な体験と体感。

 風のスカーフで巻かれているみたい。

 

 「あれね!」


 原初兵器アトランティスはもう目の前。

 ここまで凄まじいレーザー? が飛来したがユウとエレネーガ様が守ってくれている。

 託されたのは一番重要な、最も私が必要とされる場面。

 

 「すごい……」


 上から見下ろす原初兵器は本当に島という表現が相応しい。

 そこそこの面積ながら、上には自然、黒い木々が生い茂っている。

 囲むのは見たことないはずなのに、どこか懐かしい半透明な文字列。

 大気を漂う羅列に感じ入る。


 「私は————」


 感じ入る、廻り廻って思い出す。

 母親がいないことの消失感と謎の焦燥感、それで理不尽にお父様にあたった過去。

 ランクも曖昧なこの能力に嫌気が指した日もあった。

 でもユウと出会って、全てではないけど、真実を知れた。

 両親のこと、世界の広さ、そして自分に素直に生きる日々はこんなにも素晴らしいと。


 「私を生んでくれた両親、私と笑ってくれた友達、私に鍵をくれたユウ、ここまで育ててくれた全てに感謝を————」

 

 私がここまで来れたのは皆のお陰。

 特に会ったばかりだっていうのに、ユウには脳筋スピリットを刻み込まれた。

 クヨクヨ悩むなんてバカらしい。

 笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣く。

 無くすものもあるけれど、受けたものは全力で抱きかかえ続ける。

 

 「目標も見つかった————」

 

 私の目指すべき人はユウ。

 能力という面でも、人としてという意味でも。

 彼は自分を冷たい人間だとたまに言うけれど、あんなにお節介な人もそうそういない。

 ただマルパクリする気はない。

 あくまで私は私の王道で、高みを目指す。


 「滑稽に思われても構わない! 王らしくなくても構わない! 私は————!」


 今まで感じたことのないくらい溢れ出る青い粒子。

 この1つ1つが自身の気持ち。

 原初兵器がなんだという、結局は祖父の遺品ではないか。

 孫が終止符添えてやる。

 全て乗っけて叩んでやる。

 全身全霊、これが私の全力。


 「皆と共に私は生きる! 大海青流星ブルー・マーズ・インフィニティ!」


 拳に乗せる熱い思い。

 魂を込めたこの右手を、心の闇を具現化したかのような漆黒へとぶつけた。

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