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「————大気同調」
両脚に溜める大気爆弾、疑似的な爆裂ブースト装置。
感覚が押す発射ボタン、勢いあまり擦過五感、この身を大空へと飛び立たせる。
標的は真っ赤で分かりやすい、どんな能無しの鷹でも間違うことない絶対性。
『思い返せば空中戦は初じゃのう』
「そういやそうだな」
『我が採点してやろう。一層気張れい』
「どうせ激辛だろ? まあ100点取れるよう頑張るけど————」
考えてみれば真剣な空中戦は生まれて初?
なんだかんだ毎回この足は地上に立っている、飛んでもそんな長い時間というわけでもなし。
向こうさんがどれくらい空で戦えるかは知らないが、経験という面では不利かも。
しかしだ、俺の能力的には障害ない大空は最高のステージ。
それに向こうが幾ら空中戦に長けていても、最悪レネの経験を同調したら十分黙らせられる。
「赤隕石!」
接近に伴い奴は能力で複数の隕石を生み出す。
1つ1つのサイズはそこまで大きくないが、規模はそこそこ。
躱すのもいいが、いかせん下に街があるからな。
まだ余裕があって気が配れる範囲、ここは最初と同じくシンクロで支配して海行き————
(いや待て。てっきり自然物だと思ってたが、どうやら隕石ごと能力によって創造されているってことだし……)
初めは何処からか引っ張って来たと考えていた、しかし最初のシンクロ、そして相手の召喚光景を見て、それが能力物だと完全確定。
確信が真実へと変わる。
ならばそんな面倒なプロセスは不必要、核心を穿つ。
「能力同調!」
表面ではなく中心を、奥の奥の奥、深層領域まで手を伸ばす。
青空とは違う、もっと煌びやかな青が大気を流れる。
人為なる天の川、出会うのは力と力、加速しだす隕石の形した色式をロック。
相手が神でもない限り、この世に干渉する外発的能力、全てを俺は支配する。
「能力解除! さあ消えろ!」
操縦席に上からダイブ、前居た運転手は下へ蹴落とす。
俺がドライブ、それでサバイブ、活きる一手。
ハンドルは破壊、隕石は赤い粒子と変え大気へと霧散させる。
数十とあった色は青が塗りつぶす。
「バカな!? 破壊でもなく消滅させただと!?」
「まだまだこっからだ!」
驚くのは早い、こんなのまだ序章の序章。
いやプロローグの冒頭に差し掛かったってレベルだ。
冒険心がくすぶる、ボンクラじゃないこと証明、こんなもんじゃない。
お前は強いはず、それで俺はもっと強いはず、不明確を明確に顕すのはこの身1つ。
ペンは剣より強し、ただ赤いペンで幾ら書こうとも、燃やせばすべて灰となる。
火を点ける、ライターを握るのはやはり肉体なのだ。
「幾戦の槍」
新人戦でも使った疑似的な槍のオンパレード。
ここは空、ついに次元は越える、4つ目の領域、2メートル超の槍を無限召喚。
いま立った位置での槍は放つ武器、銃弾と同じ、使い捨ての鉛と同義である。
「一斉掃射」
相手は中距離をとっているが、それで一番有利なのは俺である。
そもそも支配系の能力者に距離取るのがバカな話。
ただ据え膳食わぬわけも無し、固定していた風槍を一気に放つ。
しかしそれは尽きぬことない無限連鎖、空気はここにあり、風はひたすら流れる。
どれだけ防ごうと、どれだけ逃げようと、槍は絶対に尽きない。
「っ赤羽!」
案の定の回避色式、身体を加速させ槍に対する回避行動をとってくる。
しかしだ、そんな予想できる、凡人やるような戦い方は見たくない。
普段エイラにおいしいとこ全部持ってかれるから、こうしてソロでやり合えるのは滅多にないのだ。
スピリットに見合う実力を示してもらわなければつまらない。
「ナメるな! 赤隕石……」
「だからそれ意味ないって。一回で気づけよ」
「っ!」
性懲りも無く槍避けつつ、なんとか隕石を生み出す。
でも一度解析終わればスムーズに、もうその手は俺に通じない。
姿を現した瞬間にシンクロで掻き消した。
「……ならば、赤権化!」
「っお」
『やっと少しは面白くなりそうじゃな』
不思議な光景だ。
赤はまるで液体のように、ある意味不気味な動きで王へと纏わる。
濃く濃く、純度を高めるように色を強める。
例えなら赤甲冑、武将を連想させるような出立へと。
「あるなら最初っから使えよ」
「黙れ。そもそも人間に見せるような代物ではないのでな」
「あっそ————」
そう言って使ってんじゃん、などと無粋なことを言うつもりはない。
なにせ空気を読める人間なんで。
攻撃に特化した種族だ、その武装で攻撃力が上がるのは重々承知している。
キーポイントとなるのは、その力に何が足されるか。
スピードか、テクニカルか、スタミナか、はたまたマインドか。
「————行くぞ変幻」
大気に走る戦闘の稲妻。
ひたすらの道に区切りを付ける。
先ほどまでとは全然違う深い殺気、黒に近づく赤の色クリムゾン。
フィクションではなくリアルな光景、マグマの滾り、燃える塊がそこに居た。
(手抜きしたらヤバいやつだこれ)
むろん最初から本気でやっている。
ただ使っていなかったのを使うだけ。
リミッターを振り切ってレッドゾーン、いやシルバーゾーンが正しいか。
「戦を愛し、銀を愛し、王道を愛す」
『我は最強。我は不倶戴天の大神である』
「「武装変幻、神刀『銀』!」」
両眼に集中する神力の流れ。
この身を吹き抜ける風は銀風と変わり、空中には銀粉が舞い散る。
ファーストプロセスはレネの召喚。
「銀神……!」
「今回貴様の相手をするのはユウなのでな。我とはまた今度じゃ」
セカンドは変幻の工程。
現界せしレネは一層銀光を放ち姿を変える。
不倶戴天は俺に乗り移る。
及第点なんてつかない100を超えた先の世界。
右手に握るは美しき銀の刀、レネ形変え愛そこに。
「触れたら最期、全てを銀に変える神の剣か……」
「よくご存じで」
「嫌でも知っている。だが野望のためには平伏させるのみ」
俺が着る服にまで銀は届く。
散った粒子が銀套を構成、銀の使徒、死と躍る戦脳。
握ったものの丁度よさ、道なき道、風のハイウェイ。
乗るのはもちろん俺、対抗者は赤い道を走ってる。
60のバニシング並みにハイスピード、刹那の戦いはレッドゾーンを突っ切った。