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「しっかし本当に単騎でくるのか?」
『赤の気質上そうじゃろうな。それに科学とやらもそう捉えておるのだ』
「まあ信じとくしかないんだけども」
『仮に集団で来ようなら羅刹の槍を放てばよいだけの話よ』
10月初旬から中旬の微妙な狭間。
もとは大事な案件と呼ばれていた今日、それは王様到来の日。
シェルター起動、政府の避難誘導は急ピッチ。
エリクソングループが仕入れたであろう迎撃兵器も発射体制へ。
『ヨンミチ様、赤の王を確認しました』
「到着時刻は?」
『あと150秒後です。上空より巨大な熱源を伴って来る模様、警戒してください』
「了解」
俺が居るのはエリクソングループの本社、その屋上だ。
身体に吹き付ける風もヒンヤリと、乾いた大気が唇を掠める。
斜上に向ける視線、天気は青空に多少の白雲。
無線で入った内容じゃ、ついに赤の王を確認、またそれ以外にもナニカでかい反応を得たそう。
ただ生物ってスケールじゃないらしく、おそらく奴の能力によって生み出されたものだろう。
「————いよいよね」
此処に佇むのは俺だけじゃない。
ここを城と構える主、そして今回彼女を守る新たな守護者複数。
ニューヨークを見渡せる頂上の位置。
「結局私の色式は何も起こせなかったけど……」
「気にすんなって。元々シャーロットに戦わせるつもりは無いし」
原初兵器召喚に至る糸口は見つからず。
むしろ糸の細さどころか、穴があるかも怪しい。
穴無しシワ無しの黒い紙、包装された中身を取り出すことは叶わなかった。
ただその事象は俺自身に何も関与せず。
相手に開けられない限りは、まったくもって問題無い。
「気になるのは赤の王の強さだな」
『そればかりは、我も会ったことないから分からんのう』
「エルフ最強とされた統一王の息子、ちょっと楽しみだな」
『かっかっか、期待しすぎてガッカリするかもしれんぞ?』
レネ曰く期待しすぎだとのこと。
でも滅多に見ないエルフの王様だ、弱いはずがない、少なくとも俺はそう思ってる。
赤は力の象徴らしいが、果たして俺の相棒よりも重い一撃を持っているのだろうか。
身体はスタンバイフェイズ、フェイクの仮面は取り外す。
同調、刻印、銀神、全てのリミッターを解除。
『来たようじゃ』
「みたいだな」
風が、レネが、赤い色を空に捉える。
ここで巨大な熱源の正体が判明、なんとそれは————
「い、隕石!?」
「なかなか洒落たことするなあ」
『そうじゃのう。色式特有の違和感、十中八九能力によるものじゃろう』
なんと赤の王様は飛行機ではなく隕石に乗ってきた様子。
メテオアタック、ゲートブレイク、男は真正面から門を飛び越えてきた。
「ユウ! どうするのよ!」
「慌てるなって、女王様は堂々と見てろ————」
力づくで粉砕しようものなら、砕けた破片が街を潰すことに。
これで事前に用意していた科学兵器は使えそうにない。
破壊がだめなら次の手を、シャーロットの瞳、その青さは大海を知らせる。
「そろそろシンクロ圏内か」
『我も手伝おう、流石に重かろうしな』
「助かるよ」
顔も知らぬ王乗せたメテオが刻々と迫る。
てかよくよく考えたら赤の王様は隕石をニューヨークに突っ込ませる気ってことだろ。
許すまじ精神、与えるは鉄拳制裁、果てなき暴力と才能の塊だ。
「————命名、隕石同調」
突き出す両手、視界の中、段々と大きくなる岩に青き粒子を放つ。
なかなか濃い赤がかかっちゃいるが、構うことはない。
ナメたやり方には、目を覚ます強烈な一発を。
「同調完了、完全掌握」
『かますぞユウ!』
全身漲るパワー、ぶっ飛ぶ狂気の頭、進化するこの身体。
神様働く永久機関を乗せた心臓がシンクロをさらに高める。
隕石の解析は済み、加速するそれは既に俺の手中。
「メラメラ赤く燃えてるしな! まずは海にでも入って来い!」
アルゼンチンバックブリーカー並みの担ぎあげ。
進行方向、進行速度が乱れ始める、そのまま場外へ。
俺の背中の先、バミューダ諸島臨む大西洋へと叩きつける。
バックブリッジ、神力も相成ってパワー勝ち。
加速度とか慣性とか摩擦とか、物理理論を拳でたたき割る。
「————酷い出迎えだな」
だがメテオの持ち主は海水浴へは向かわず。
赤い色を纏い空中へと留まる。
(なるほど、軽い飛行ぐらいは出来るってかんじか)
「お初にお目にかかる。真紅族が王、グレン・アクスキアである」
でっかい声、こんなに距離があるってのに、一体どういう声帯してんだか。
見た目は20代後半の印象、名乗った通り髪も眼も真紅に染まっている。
ここで俺が名乗り返してもいいが、やっぱここは大将からが常。
流石にシャーロットの声だけでは届くまい、シンクロの風を使い人為的に声量を増加させる。
「私はシャーロット、シャーロット・エリクソンよ!」
「一目で分かった。その青眼、ラフィールの娘に違いあるまい」
家系図的には叔父と姪の構図、しかしそんな生温い常識は此処で通じるか。
そんなことあるわけもない。
なんせ初見で隕石をニューヨークに落とそうとするイカレタ男。
何が人前に出ない種族だよ、こんなに出しゃばる奴もそうそういないぞ。
「単刀直入に言うわ。大人しく退きなさい」
「たかが小娘が、生意気な口を叩くものだな」
「何時までも年齢に囚われてる方がバカらしいと思うけれど? それとも穴グラに居すぎて脳みそ小さくなってるのかしら?」
「っな……!」
「世界に出られないお山の大将。赤の王、その器じゃコーラのSも入らないわね」
「貴様! こちらが————」
シャーロット節が炸裂、爆裂はグレンに触れんとする。
実際接触した、導火線には火がついた。
挑発に乗ったどこぞの大将さん、その手に赤い粒子が集まる。
ただ蓄積も束の間、思いのほか早い速度で弾丸が放たれる。
「能力同調」
大気に泳いだ弾丸を捕まえる。
まさに真っ赤な金目鯛を釣り上げる、新世界に魅せられる。
赤の王、その色式を体験しつつ反射、持ち主へとお返しする。
「変幻……!」
「嬉しいねえ。俺のこと知ってもらえてるとは」
「貴様が居なければ楽に済んだんだがな!」
「そりゃ申し訳ない。なら頑張ってくれ、俺は負ける気全然ないからさ」
リミッターは全て外した。
相手は人外にして障害、つまりは殺す気しかない。
全身全霊で全力全開、全部が全部全力投球。
俺の投げる球、1球1球に魂の塊が籠ってる。
「ソロ戦は久しぶりだ。見せてくれよお前の実力を」
既にシャーロットの声を拡散する風は解いた。
いくら説いたところで話は通じるわけもない、殴って分からせるが最善手。
脳みそグチャグチャになるくらい溢れる狂気のパワーマインド。
そんなに赤が好きなら真っ赤に染めてやる。
一生起き上がれないよう血の海に沈めてやる。
滾った滾った、それこそ煮えたつくらいに。
「この前の秘密男の借り、ここで返させてもらうぜ————」