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聖剣使う美少女(脳筋)が相棒です  作者: 東雲 立風
Chapter 6 -Disturbance of New York 《突風のアルマゲドン》-
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 「————開帳、赤の秘密(レッド・シークレット)


 解き放たれる赤いブラックホール。

 紅の流星が会場中をバクッと胃の中に。

 世界をパクられる、赤道に南京錠、鍵かけ惑星。

 目前で行われるのは未知との遭遇である。


 「風よ!」

 「っきゃ!」

 

 展開を悠長に待つほど余裕はないと直感。

 空いた距離、シャーロット隊に同調した大気をぶつける。

 なに攻撃ではなく、その風圧と風運びで俺とレネのすぐ後ろまで引き寄せたのだ。

 これで何が放たれようとも、最重要人物については俺が盾になれる位置に固定。


 「エルフは真紅族がガルファード、推して参る」


 今になって真明を明らかに、だが理由はなんとなくわかる。

 その男のルビー・アイズには覚悟が、メラメラと燃える気持ちのともしびが。

 つまりは命の灯りを消す覚悟、彼に退路は無く、何が何でもやり遂げる。

 死を恐れぬ強者の姿だ。


 「相手が相手じゃ。少々派手にやらせてもらうぞ」

 「了解。後ろは任せろ」


 先ほどまでレネが戦っていた首無し(ノー・ヘッド)とは格が違うそう。

 そして気付いていたが、炎煙は首無しを連れて何処かへと去った。

 おそろしく手際が良かったが、同調は感知、しかし外敵レベルからして退路を塞げるほどの余裕は俺に今は無い。

 賞金も付いているんだろうが、今回は目の前の男の行動に注意を払わなくてはいけないのだ。


 (どうやら逃げた炎煙もボスがエルフと知って驚いていたし、そもそもお雇い能力者の時点で詳しい内部情報は明かされていなかったのかもしれない)


 ただ俺が最初に頭潰した10人は確かに人間だったはず。

 少なくともこの男の時のような異質な空気は感じなかった。

 しかし人間が構成する凶悪組織のボスが人間でないなんて、こんな可笑しい話もそうあるまい。

 まずは目の前のことを片付ける。

 シャーロットを守ってから、初めて解読はスタートするのだ。


 「勝負じゃ!」


 跳躍、それは跳ねて躍るなんて陽気なもんじゃない。

 レネの身体は消える、湯煙のようにという言葉もあるが、一片たりとて残像は残さず。

 タイムスキップしたかのように、切符は不要、1つ(まばた)きの間に終点へ。


 「秘密の鏡(シークレット・ミラー)!」

 

 だがエルフ、ガルファードと名乗った男の反応も凄まじい。

 レネが瞬間移動に近しい行動をとると見込み、コンマ数秒前に能力を発動。

 いや能力という呼称は正しくない。

 エルフが使いし異能は、人呼んで『色法カラー』、3原色に基づく彼ら独自の力だ。


 (エルフの使う赤は『攻撃』の色! 目にするのは初めてだ……!)


 教科書が正しいのなら、エルフの使う力、色式カラーには大きく分けて3通りのものがある。

 1つは目の前ガルファード使う『赤色』、これは攻撃に特化。

 2つ目は『緑色』、これは回復といった支援系に特化。

 最後に『青色』、これは防御に特化、更には赤や緑と違い応用性が高いらしい。

 らしいと仮定するのも当然、人類はその力を真向から観測したのは今日までほとんどない。

 歴史に語られし半信半疑が現実を舞台に現在進行形で証明される。


 「秘密の人シークレット・バトラー

 

 レネの攻撃そして飛んでくる赤をなんとか空へと流す。

 拮抗とまでは言えないが、十分すぎるほどレネと渡り合っている。

 開帳する幾多の力、その1つ、秘密の人と唱えた途端、ヤツの背後に現る赤く半透明な物質。

 人型を形成しながらも、特長的パーツは一切なく、薄赤一色、後ろの背景が透けるくらいだ。

 構図は2対1、数的にレネが不利に立たされる。


 「銀が及ばぬ異形イレギュラーか! 面白い! ユウ、ぬしも加われい!」

 

 ようはドッペルゲンガー、アイツが操るマリオネット。

 しかもどうやら特別性な模様、一体どういう原理なのか、ただインファイト推奨。

 片を付けたいと俺自身が一番思ってる。

 頭の中にぶち込む燃料物質、血管を導火線に、手のひら握れば着火する。

 四肢を駆け巡るマグマ級の熱い赤血球、急展開で急発進で急上昇。


 「っ変幻まで来たか……!」 

 「よろしくなあエルフのお兄さん!」

 

 高ぶらないわけがない、俺とて脳筋の端くれ、もしくは初心者。

 登竜門を肉体言語片手に入場する。

 考える葦をバキっと折りながらも、俺は自称だが冷静な脳筋。

 メインディッシュにナイフを通したいところが、ブレない主軸、まずはレネに頼まれたマリオネットの方を相手にする。


 「重力同調グラビティ・シンクロ!」

 

 あえて足本の重力を急激反転、反射する常識が俺を天へ飛ばす。

 奴等の天上から降下、斜めに落下、鋭利なスピードは待機を切り裂き、デコイへ一直線。

 

 「刻印ルーン! 風の槍をこの手に!」


 半身を紫に輝かせ風で槍を形成。 

 実体のない疑似テンペスト、獲物はとりあえずこれでいい、むしろぶっ叩けて、ぶっ刺されば武器なんてどうでも良いのだ。


 「……ひ、ひみ、つ」

 「人形のくせに色式を使えるのか!」

 「……はい、じょする」

 「しかもなんか喋ってるし! エルフってのは面白い力を持ってるなあ!」

 

 槍は本来突き刺す動作、穿つために使うが普通だが、常識などお構いなし。

 疑似テンペストを斧を使うかって勢いで叩きつける。

 沈下する地面、衝撃で砂塵が散る、分身は言葉と相反してロボットの如き正確アクション。

 すかさずカウンターも入れてくるが、負けるわけにはいかない。


 「能力アビリティ・シンクロ!」

 「き、かな、い」

 「やっぱ弾かれるか。なら————」


 ならどうする、同調が干渉できないからなんだ。

 刻印を更に起動、魔力を集め炎煙のように360度で風槍を万単位で作成する。

 ゴリ押しでゴリ押し、俺はインファイト大好きなエイラの相棒、言わずもがな、これは力にものを言わせた単純なる物量勝負である。


 「操り主ごとブッ飛ばすか!」

 

 俺たちを囲むように展開した槍数万本。

 ただシャーロットはもちろん観客も配慮した配置、例え槍をナニカで弾かれようと風は風。

 観客席に弾かれたとしても俺が一瞬で消してやる。


 「幾戦の槍(ロット・テンペスト)! 発射ファイヤ!」


 一斉総射、全長2メートル超の弾丸が直線を描いて向かってくる。

 この規模上、射程範囲の中に俺やレネも当然ながら入ってしまうが、レネや俺がこの程度で後れはとらない。

 まあ創り出された人形の方は分からないが。 

 とりあえずは暴力という暴力をまずはぶつけてみる。


 「化物が……!」

 「かっかっか! 愉快ぞユウ!」

 

 巻き添え狙ったがやはりガルファードには一本も当たらず、槍の雨降り注ぐ中でレネの攻撃をなんとか防いでさえいる。

 しかし元々狙っていた方はと言うと————


 「流石にそこまでの性能は無かったみたいだな!」

 「……が、がが」

 「壊れた人形には引導を渡す!」

 

 然り、ガラクタは火を点けダストボックス、つまりは燃やす。

 ここまで戦ってきて俺は常にこの会場に同調をかけていた。

 進化ない者に未来無し、解析おおかた完了。

 ガルフォードは兎も角、異能・・によって生み出されたコイツぐらいなら、半ば強引に喰える。

 

 「不可能を越えろ! 能力同調アビリティ・シンクロ!」


 片言人形に再び稲妻の如く走らせる青い粒子。

 ここまで何度か仕掛け何故か失敗、理由は幾つもあるだろうが、要因の1つとして『差異』

 同調の光は何度だってこいつを駆け巡った、解析は進み、だいぶ馴れた。


 「……か、から、だ、が」

 「ライターは持ってないんでな、その赤を借りるぞ」

 「……ば、ばか、な」

 「確かこう言うんだろ? 役目は終わりだ、秘密の人シークレット・バトラー!」

 

 召喚から去り際まで、その者を表す秘密の言葉。

 穴だらけになった会場に片言の人形の燃える十字架を打ち立てる。


 「バカな、神性を持つこの力を奪っただと!?」

 「なるほどのう神性か! 道理で銀が効きにくいわけよのう! 貴様神の血を持っておるのだな!」

 「っく……」

 「一体どこのバカ神じゃ?」

 「……御身に教えることはありません」

 「そうかそうか。なら潔く死ねい」

 

 このエルフにはどうやら神がついているらしい。

 しかし口は割らず、ならばとレネも本気モードへ移行。

 持った銀刀が一層強い輝きを生む、俺がまだ至ることのない領域、主たる神のみが出せる刃の本領。

 

 「最期に聞こう。これは貴様ら赤の王の差し金か?」

 「……」

 「喋らぬか、まあいいこれで————」


 やはり開かずの口には刃を添える。

 しかしだ、ここにきてガルフォードは静かに口を動かし始めたのだ。

 

 「御身も、気づいておられるでしょう? あの戦いが近づいております」

 「む……」

 「邪神の計画も頓挫した今、真に打開できる見込みがあるのはあれしかない」

 「まさか、原初の兵器のことを言うておるのか……?」

 「この口からは肯定も否定も出来かねます、ただ鍵が必要とだけ」

 「……つまりは3色の王の血が必要と。なるほどのう、ようやく話が見えてきたわ」

 

 (原初の兵器? 3色の王の血? レネはどこか納得した様子だけど……)


 俺からしたらまったく理解できない。

 なんやかんやと最後まで席にいることになった観衆、何とか血の気を取り戻しつつ彼ら。

 この会話の声はエルフとレネと俺、そしてシャーロットにギリギリ届くかって声量。

 派手な戦いと打って変わった神妙な空気なまた不安の色を醸し出している。


 「……シャーロット・エリクソン」

 「な、なによ」

 「君を攫いに来てこんなことになるとは思っていなかった。初めに失敗したのも、やはり青という運

命が拒んだからかもしれん」

 「だからその青とか血とかって……」

 「君の父親、チャールズ・エリクソンが全てを知っている。会って真実を知り給え」

 

 謎だらけに更に謎、確かにこれだけの実力あって1回目の襲撃が失敗したというのも可笑しい。

 それを彼は青の運命などと仄めかすが、真相は語らず。

 いまだ深層の奥深くに眠っている。


 「なかなか面白かったぞ赤エルフ」

 「……銀神に褒められるとは最高の誉れ、死を覚悟した意味をあるというもの」


 ガルフォードの顔は妙に清々しい、ただ矛盾して陰りも感じる。

 ただ男はそれ以上語らないし、俺も教えてくれとは言わない。

 なんせその赤眼に眠る秘密には鍵穴がないのだから。

 

 「さらばじゃ」

 「ええ、赤き民に祝福あれ————」


 一刀両断、銀刀がガルファードに縦に一線を。

 その赤が迸っていた全身を銀へと変える。

 謎を残した戦士は今銀の彫像と成った。


 「ユウ」

 「ああ」

 「私、どうしようもなく行きたいところ、会いたい人がいるわ」

 「俺もだよ」

 

 ロジックとミステリーのルービックキューブ。

 ある意味色は揃い始め、ある意味何も分からず進めていた。

 しかし糸口はすぐ傍に、鍵への地図はそこにある。

 進路は変更、向かう先はチャールズ・エリクソンその人にところである。

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