6話 ざっとコンなモンよ
――土塊の下
「チッ……」
ぬかったゼ。こう来るとはな。万一隠し部屋の入り口がツブれても、お宝は後で掘り出しゃいいって算段かヨ。
オレサマは思わず歯噛みした。
だがこの程度でツブれるオレサマじゃねぇ。四肢で踏ん張り、背中で土塊を受けてフェルズをかばう。しかし、毒矢や魔法が次々に打ち込まれてるんで、身動きが取れん。毒矢をまた一本喰らった上に、あっちこっちに傷を負っちまったしな。それに、倒れた時の衝撃かわからんが、歯が一本折れちまった。オマケに口ン中が血だらけだ。この代償、高くツクぜェ。
「うぅ……」
オレサマの下で、フェルズがかすかに呻いた。
血の気がなく、呼吸も荒い。
矢を受けた傷口からの出血がヒドい。それに、何発か石の直撃を受けてしまった様だ。生命力が失われつつあるのがわかる。
ちとマズいな。……だが、手はある。
口中にある折れた歯に魔力を集中させたのち、ペッと吐き出す。
と、ソレは土槍の隙間から外にこぼれ落ちた。
そして視線をフェルズに向ける。
ヤツは力なく俺を見た。
「口を開け。薬を飲ませてやる」
「ン……」
だが、ヤツはわずかに口を開いただけだ。力が残って無ェのか。
仕方ねェ。肘で上体を支えつつ、その後頭部に右手をあてがってフェルズの頭を持ち上げると、左手で口を大きく開かせる。
そしてそこにオレサマの口をあてがい、口中の血を流し込んだ。
「ムグ〜⁉︎」
目を白黒させ、なけなしの力で抵抗するフェルズ。さすがにドラゴンの血を飲み込むのはキツいか。
だが俺の血は万能の治癒薬だ。その程度の傷なら、十分治せる。
「言ったろ? 薬だ。飲み込め」
「う……ぐ……」
言い聞かせてやると、フェルズはそれを涙目になりながら飲み込んだ。
しばらくヤツは呆然としていたが、次第に顔色が良くなっていく。これでダイジョウブだな。
にしても、ナンだこりゃ? 血と引き換えに、フェルズから膨大な魔力が流れ込んできやがった。
ヘッ……よくワカラねぇが、これで魔力切れの心配は無くなったナ。
なら……次だ。
オレサマは先刻の歯に“念”を込める。
と、その歯はムクムクと巨大化、変形していく。そして高さ半レン(約2m)弱の、ヒト型の姿となった。
それは、剣と盾を手に、そしてその身に鎧をまとった姿の彫像。
おお、うまくいったな。
「な、何だ⁉︎」
ヤツらが動揺する声。
へへっ、コイツは竜牙兵ってヤツだ。オレサマの忠実なシモベだぜ。ドラゴンの歯を素材にした、一種のゴーレムだな。
今の俺の魔力ではヒト族を模した象牙色の像でしかないが、ドラゴン本来の力ならば、ヒト族そのものの姿に変化する。
ちなみにニンゲンども程度の魔力でも、ドラゴンの牙さえありゃあコイツを創り出すことも可能だ。しかし、ヤツらの力じゃ骨格だけのスケルトンもどきにしかなんねェ。その能力も、お察しレベルだしな。
さて、“ホンモノ”の竜牙兵の力、味わってもらうゼ。
「行け。……ヤツらを皆殺しにしな」
『御意』
竜牙兵は一つ頷くと、剣を構え、地を蹴った。そして剣を振りかざしてゴロツキどもの中へと突貫していく。
ヤツが剣を振うたびに死の旋風が巻き起こった。そして響き渡る、断末魔の声。
おお、やってるやってる。あの程度の敵相手なら、そうカンタンにゃやられはせんだろう。その間に脱出だ。
まずは回復魔法でオレサマ自身の傷を癒す。まぁ放かっときゃあ勝手に治るが、今回は戦い優先だ。ついでに体内の毒素も消しておいた。
おっと、折れた歯も生え変わったな。さっきよりも少し尖った、ドラゴンに近い歯だ。それに、傷口は新たな皮膚で覆われたが、コイツはヒト族のよりも強靭そうだな。
よし。
「ぬぉおおぉ……ゴァア!」
土塊をはねのけ、立ち上がる。そしてついでに側面の土槍を拳で破壊だ。
「な……何だと⁉︎」
ヤツらの声は、最早悲鳴に近い。
ダカら言ったんだヨ。
オレサマを相手にするんなら覚悟決めて来いよってナ!
あ、言ってなかったっけか? まッ、どっちでもいい。
「コイツを頼む。後はオレサマがやる」
フェルズを土槍の影に隠すと、竜牙兵を呼び戻した。そしてフェルズの守護を命じて、オレサマが前に出る。
さぁ……これからがホンバンだ。
って、かなり数が減ってるがな。部屋の中には十数個の屍が転がってやがる。一方のゴロツキどもは、洞窟の外まで撤退していた。竜牙兵め、チト殺しすぎだぜ。まぁいいか。
「さぁ……行くぜェ!」
オレサマは地を蹴った。
そこに飛来する矢。そして火球。
だがオレサマにゃ通用しねぇ。
息を吸い込み、そして……
「ゴアッ!」
一気に吐き出す。
竜の咆哮。
それは、凄まじい衝撃波となって敵を薙ぎ払う。
たとえニンゲンの姿にされようと、その能力は失われちゃいなかったな。
その衝撃波をまとも受けて、矢はあらぬ方へと飛び去り、火球はかき消された。その余波は熱風となってゴロツキどもを襲い、翻弄する。
「次弾だ! 早くしろ!」
リーダー格のゴロツキがアセってやがる。だが、その時間は与えねェ。
ホンモノの炎魔法ってヤツを見せてやんよ。喰らいな……
「“大炎”!」
デカい炎の弾丸をヤツらのド真ん中に叩き込んでやる。
爆発。そして絶叫。
火だるまになったゴロツキが逃げ惑う、阿鼻叫喚。もはや第二射どころの騒ぎじゃねェ。
コレで射撃の心配は無くなったな。
今度は指先に魔力を集中し……
「ぬぅ……」
指先の平爪が、鋭い鈎爪へと変化した。
ヨシ。行くゼ。
その爪を振りかざし、ゴロツキどもの中へと突っ込んだ。
「ツァア!」
右手の爪を一振り。
絶叫が上がり、弩ごと腕が宙に舞う。
更に左腕を振るうと、今度は首が宙に舞った。
そうして戦うコト数分。
気がつけば周囲に動くものはほとんどいなくなっていた。
屍と化したか、それとも逃げたか。
例外が、俺の前に一人。
ゴロツキどものリーダー格だ。
逃げ遅れたのか、それとも指揮官としての意地か。
「さぁ……アトはテメェ一人だぜ? どうする?」
ニヤリと笑い、ヤツを指差す。
「クッ……」
ヤツは周囲に視線を走らせ……
黒コゲとバラバラの死体の山を眺めると、やがて諦めた様に一つ息を吐く。そして剣を腰に収めると、何も持たぬ両手を掲げた。
アレは敵意がないコトを示す仕草だったな。
「降参だぜ。アンタにゃ叶わねぇよ。あそこのお宝は好きにしな」
「モチロンそうさせてもらうゼ。あと、フェルズってヤツもな。で、アンタはどうするツモリだ?」
「俺か? まぁ、アジトもこんな有様だし、部下もほぼ全滅だ。もうアンタにゃ関わるつもりはねぇよ」
「そうか。オレサマも無抵抗なヤツをいたぶる趣味はねェ。とっととどっかに消えちまいな」
オレサマはそれだけ言うと、踵を返した。
が、一応ヤツの動きは横目で見ておく。
案の定、というべきか、ヤツの右手に一本のナイフが現れる。やはり手首のところに隠し持ってやがったか。
「チッ……」
ナケナシの慈悲の心を見せてやったのに、バカなヤロウだ。
気付いているとも知らず、ヤツはオレサマに向かって右手のナイフを投げつける。
ナイフは宙を切り裂き、オレサマに迫った。
しかしそれだけじゃねぇ。ヤツの左手に、いつの間にか各3本のナイフが現れていた。と、思うや否や、その手からオレサマに向かって放たれる。おおっ、速ェ、速ェ。大したモンだ。右手も身体の影へと移動してるところを見ると、こっちもナイフを抜いて投げるつもりなんだろう。
へぇ、見事な早業だ。見世物小屋にでも行きゃあ、きっと人気者になるに違いねぇ。
「フン」
ケド、遅ェんだよ。オレサマにとっちゃ、な。
まずは最初の一本は、振り向きざまに胸の前で右手の人差し指と中指で先端を軽くつまんで止めた。そして次の三本は左手でまとめて掴んだ。そして、ヤツが右手でまた三本のナイフを取り出して投げる動作に入った直後、オレサマは右手のナイフを投げ返してやる。
それは過たず、ヤツの胸の中央に突き立った。そしてヤツの右手から放たれた三本のナイフは、先刻左手でキャッチしたナイフを投げて迎撃する。
「あ……」
ヤツは自分の胸から生えたモノと、空中衝突してあらぬ方向へと飛び去る六本のナイフを見て、愕然とする。
「ざっとこんなモンよ。ニンゲン風情にしちゃナカナカやるが、オレサマとやりあうにゃ千年早ェ」
……と口では言ったが、実際は少々冷や冷やモンだったゼ。
とはいえ、身体を動かしてるうちに、少しずつドラゴン時代の能力が戻りつつあるようだナ。こうしてりゃ、いつかドラゴンに戻れる日も来るのかねぇ?
「バカ……な。ナニモンだよ、アンタ……」
ヤツは胸を押さえて崩折れた。出血多量だ。助かるまい。
「ケッ、知らねぇのかよ。レスィードって言やあ、泣く子も黙る魔竜王サマしかいねぇだろうが」
「な……ナンでそんなのがここにいるんだよ」
どうやら思い出したらしい。呆然とつぶやくとヤツは地に伏し、事切れた。
……『知らん』とか言われたら、どうしようかと思ったゼ。
まっ、とりあえず片付いたか。
周囲の気配を確認し、オレサマは今度こそ洞窟に足を向けた。
登場人物・用語など
・竜牙兵
ドラゴンの歯を基にして作られる魔法生物。その姿、能力は術者の力に依存する。波の魔導師では鎧をまとった骸骨兵であるが、より高位の術者の場合、人間そっくりの姿となる。最上位の術者が使用した場合、人間そのものとなるとも言われる。




