16話 トモダチがいないってワケじゃねェよ⁉︎
――ギルド内
ゴツイ門をくぐると、石畳の道をしばし歩く。
そしてその先にあるのが、石造りの建物。ココは魔王軍占領時には兵士の宿舎やらになってたナ。
そして石畳の先にある石段を数歩上がり、玄関にたどりついた。
目の前には、重厚な扉。
オレサマはその扉を開け、中に入る。その先は、ちょっとしたホールになっていた。確か朝礼みてェなコトしてたっけか。当然オレサマは一度も出なかったケドよ。ヴォルザニエスのヤロウはマジメ過ぎるンだよナ〜。やってもやらんでもそー変わらンだローし。
で、ホール内だ。そこは何やら雑然とした雰囲気だった。
数人のイカツイヤロウどもが、何やら切羽詰まったよーなカオで右往左往してやがる。
……どーいうこった?
「何かあったのかな? ちょっと聞いてくるよ。あ、レスィードさんはそこで待ってて。イオレーアは監視をお願い」
「御意」
「えっ……」
ちょっ、それどーいうイミだ?
そしてフェルズはオレサマを意に介さず奥へと進んで行きやがる。
「えっと……オイ。ちょっと待t……ン?」
「駄目です」
慌てて後を追おうとするオレサマを、イオレーアが拘束しやがった。いやお前、オレサマの下僕だろうが! オレサマの指示ni……つか、腕を捻りあげられて……って、ア゛アイイ゛デテテッ! コイツ、ガチで関節を極めt……ああ゛ッ、参った! 参ったから! だから離せッ、離せっte……イテデテ!
そして抵抗も虚しく、オレはその場に拘束されてしまった。
ああ……魔竜王としての……竜種の王としての沽券がぁa……。
――しばしのち
人混みをかき分け、フェルズが戻ってきた。
「お帰りなさいませ」
「オウ……何があったんだ?」
ようやく拘束を解かれたオレサマは、まだ痛む腕をさすりつつ問う。
「詳しくは教えてくれなかったけどさ。この近くにある廃城近辺で、どうやら山賊か何か出たみたいなんだ。それで人を集めてるっぽいんだよね。それでこんなに人がいるっぽい」
フ〜ム、なるほどねェ。これはチャンスかもしれんナ。
「なら、オレサマの出番だな。存分に腕を振るってやるゼ」
そうと決まりゃあ……
「あー、そうだ。一応面接というか、相談には乗ってくれるみたいだよ」
「……ンん゛ッ?」
チッ、即採用じゃねーのかヨ。
いやまー、ココの連中はオレサマの実力を知らんからな。仕方ねェ。
「そーだな。そろそろオレサマの実力ってモンを天下に示してやらねェとナ……」
「えっと……」
「はい……」
待てや。二人共、何故オレサマを冷めた目で見るのか……
「じゃあ、こっちへ」
「オウ……」
ナンだ、この空気。
――受付
「……では、紹介状はありますか?」
「……は?」
……などと受付のオッサンが無愛想に言いよった件。
「えっと、しょ……紹介状って……ナニ?」
「えっ……」
「あっ……」
「…………」
何故可哀想なモノを見る目をするのかこのオッサンは。それにフェルズもだ。イオレーア、お前もか……
いつぞやのトラウマが、な……。ナンっツーの? 腹、というか胃のあたりが締め付けられるッツーかサぁ。
「えっと……やっぱりそういうの、必要なんですね。では、出直します」
と、フェルズが言いよる。
ちょっと待てや。まだオレサマの実力が……
「ええ。またのお越しをお待ちしております」
そしてオッサンの事務的な回答。
いやそもそも絶対待ってねェだろテメェはよォ⁉︎ だ、だからヨ、オレサマの実力を存分に見せてやればなァ⁉︎ だ、誰でもいーから手合わせさせろや。そうすりゃ嫌でも……
……って、
「はい、帰るよ」
「えっ……ちょっ、待っ……」
「はいはい、待たない。イオレーアも手伝って」
「御意」
女どもがオレサマを引きずりはじめた。
「ぬア゛ッ、そんな〜〜。つか、また腕極めんナ! あア゛痛テデテテte……」
ムチャクチャ痛ェ。誰から学んだんだこんな技……つか、あア゛、いいから離してくれ〜〜!
「すいません。お邪魔しました〜」
そうしてオレサマは傭兵ギルドから引っ張り出されてしまった。
周囲の目がイタい。
ヌググ、……何でだよチクショウ。ちょっと泣きたい。
――宿
黒羊亭に帰ったオレサマは、不貞腐れてベッドに寝転がる。
「あ゛〜〜〜〜〜どうすりゃ良いんだよォ……」
ボヤキが思わず口から漏れた。
あア゛……カッコ悪ィ。
このままお宝を食いつぶしてくしかねェのか? 銅貨ならまだしも銀貨や金貨が対価として消えてく光景にはオレサマは耐えられねェ。いや、それよりも……もし金塊やら宝石やらを“現金化”するとなれば……。そうなれば、いやマジでオレは……オレサマは、不倶戴天の敵と生きるか死ぬかの境地に立たねばならねェ。
いやまー、その“敵”とやらは誰だってハナシだがナ。あー、クソ造物主とやらがいたか? ソイツはドコにいるかは知らねーケドさ。
「あのさ……」
頭を抱えて呻いていると、フェルズが口を開いた。
「とりあえず、人脈を作るのも手だよ」
「人……脈?」
何ソレ美味いんか?
「食べ物じゃないって。要は、人と人とのつながりだよ。知り合いのつてを辿っていけば紹介状を書いてくれる人のところに行き着くかもしれないでしょ? この街に駐屯してたんなら、知り合いの一人や二人、普通にいるんじゃない?」
「……オウ」
グ……ム。そうは言われてもな。
オレサマはずっと前線に張り付いていたんだze。敵以外のニンゲンどもに知り合いなんて……
「えっと……」
困惑した顔のフェルズ。その目は……
い……いやッ、別にオレサマにはトモダチがいないってワケじゃねェよ⁉︎ たッ、たまたま、たまたまニンゲンどもに知り合いがねェないだけだッ!
……いや、マジで。……多分。
…………。
グ、グム〜〜、あっ……あア、ヤツがいたか。ミティスンのヤロウ。織物問屋の旦那に拾われたとか言ってやがったな。ヤツに頼めば何とかなりそーか?
……まぁ、あんまり頼りに出来そーじゃねェケド、一度聞いて見っか?
まー、その辺は明日だ。
……ヤツのコトだから。あんまり期待出来んかもナ。
まぁ最悪のバアイ、何とかして予定を聞き出して飛び入り参加してもいーだろうナ。そこで武功を見せつけりゃ誰も何も言えねーだろうしヨ。
そーと決まりゃあ、な。
オレサマは身を起こし……
「あー、広場の露店はもう店じまいしてるよ。何にせよ、明日だね」
「オウ……」
またしても出鼻を挫かれ、オレサマは頽れた。
まー、いいか。
それなら明日だ。とりあえず今日は飯を食って……ヘヘッ。