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14話 ソレはオレサマのお宝!

――黒羊亭

「いらっしゃい〜」


 宿に入ると割腹のいい女――ニンゲンではそこそこの年か? ……が出迎えた。

 おそらく……オレサマに敵対しそうな感はねェ。う〜む。これなら問題は無さそうだナ。

 しかし、だ。この宿屋。この様子だとそれなりに繁盛しているようだナ。内装もなかなか悪かねェ。フェルズによれば、ここの羊肉料理はなかなか美味いらしい。これは楽しみだゼ。

 ……まずは、だ。フェルズを示しつつ……


「オウ。ついさっき、先刻コイツが部屋を取りに行かせたんだけどサ……」

「はい、受けたまっております。お連れさまですね。……部屋はこちらです。では、どうぞ」

「……オウ」


 そうしてオレサマたちは部屋へと通された。



――部屋

「お客様、こちらです」


 二階に上がり、廊下を少しばかり歩いた先。そこが俺たちの部屋だ。

 そこは、ベッドが四つある大部屋だった。なかなか良さげな部屋だ。


「えっと、ここでいいンかい?」

「はい。どうぞ、ごゆっくり」

「オウ。ありがとさん」


 そうして宿の女――女将っていうのか?――は去っていった。

 早速オレサマは中を見回す。

 天井はそこそこ高く、圧迫感はねェ。窓は大きく、部屋も明るいナ。壁もそれなりに厚いだろう。

 ……ウム。


「ナカナカいー部屋じゃねーか」


 しばらくココを常宿にしてもいーかもナ。まぁ、しばらくは目的っつーかそんなモンないしナ。


「そうだね。空き部屋があって良かったよ」


 そして早速ベッドに寝っ転がってやがるフェルズ。

 ウム。オレサマもその一つに腰掛ける。

 ほほう、なかなか良さげだナ。盗賊のアジトなんぞよりもフカフカだ。まぁ、あんなムサい連中だから仕方ねェ、か。

 にしても、だ。夜までまだ時間があるんだよナ〜。

 ……そうだ、な。


「オウ。一休みしたら街ン中行ってみるか?」


 そう提案してみる。

 と、……


「いいね! 賛成〜」

「御意」


 両者の答え。

 意義なし、か。オシ。決まりだな。



――街中

 オレサマたちはこの街を南北に貫く大通りをぶらぶらと歩いている。

 黒羊亭から少し先には、ナンタラとかいう劇場。

 まー、オレサマはそんなんにキョーミないんでスルー。

 魔王軍制圧時は特に何も……あぁ、そーいや魔王軍制圧下の際はちょっとした式典とかやってたっけか。

 当然オレサマはサボってたがヨ〜。あんな眠くなるヨーなの長時間やってられるかってンだ。

 ……後でヴォルザニエスのヤロウにキレられたがナ。


「勇者と魔王の戦いだってさ。レスィードさんも出てるんじゃないの?」


 看板を見ながらフェルズが言う。

 いやそりゃオレサマも参戦してたけどサ……


「ケッ……ハハッ、大活躍したからナ! 当たり前だろ!」


 ……最初のほーはナ。その後は聞くな。


「そういえばこの劇、アルタワール攻防戦もあるみたいだよ。確かレスィードさんもいたんでしょ?」

「……オウ」


 う……む。出来る限りカッコよく活躍させてもらいたいんだが……ムリか。

 やらかさなきゃ良かったんだ。やらかさなきゃな。

 でもよー、オレサマの性分じゃガマンするのはムリだしな〜。

 まっ、過ぎちまったモンは仕方がねェ。一々後悔してられるかってんだ。

 それよりも、これからどうすっかだよナ〜。平々凡々に生きてくなんて真っ平御免だしな。

 さて……

 ……ン? 今すれ違ったヤツ、雰囲気や魔力からして魔族っぽかったナ。知った顔じゃねぇケドな。

 ヒトに近い姿の連中なら、このまま地上に潜伏して暮らしてるのいるのかもナ。

 もしかしてオレサマの知り合いもいるかもしれねェ。

 ココはオレサマたち先遣部隊の最大の駐屯地だったワケだがらな。

 ……俺が知る限りでは、だけどヨ。

 ふ〜む。そいつらに接触できれば良いがナ……。

 ……などと考えてる間に、オレサマたちは街の中心部にたどり着いた。



――市場

 リシュートを貫く東西南北の大通りが交わるこの場所は、大きな広場になっていた。

 ここには多数の屋台や露店が並んでいる。

 まー、魔王軍占領時は観兵式なんかやってたナ。

 これもオレサマはサボってたが。

 ……流石にそんトキはヴォルザニエスにブン殴られたがナ……。アレはムチャクチャ痛かったゼ。数日は腫れが引かんかったナ。

 にしてもよ〜。ちょっとぐらいいーじゃねーかヨ。実戦じゃ活躍してるんだからヨ。

 ……とはいえモンク言う相手ももーいねーか。ちと寂しいナ。

 まッ、それはともかくとして、だ。

 ナンっつーか、確かにこの辺りで魔族っぽい気配が微かにするんだがヨ。方角は……こっちか。


「あれ? どうしたのさ」

「いや、ちょっとな……」


 当惑した様なフェルズの声。

 おっといけねェ。コイツらもいるんだったな。


「ああ、ちょっとな。もしかしたら知り合いがいるかもしれねェ」

「知り合い? もしかして……」


 フェルズは察したらしく、声を潜めた。


「ああ。いるかも、だけどナ」


 ふ〜む。

 気配を探りながら露店の間を歩く。

 ……ン?

 目の前の男が妙にオレサマに近づき……


「!」


 目があった瞬間離れていきやがった。


「あ〜、スリだね。あの人」

「オウ……」


 スリに狙われるなんざ魔竜王サマも落ちたモンだゼ。

 とはいえ……命拾いしたな。オレサマから財宝を奪おうとするヤツはタダじゃすまねェ。牙と爪、炎のフルコースをくれてやるゼ。

 などと考えていると……


「ン?」


 一人の男が目にとまった。おそらくは、気配の主。露店で何やら布切れを売っている男だ。歳はワカランが、まぁ……オッサンか?

 ふ……む? あの顔と気配、覚えがあるな。アレは……ミティスンか?

 魔王軍じゃ斥候とかやってたヤツだ。耳や肌の色なんかを変えてはいるが、間違いなくヤツだな。

 オレサマはその屋台へと歩み寄る。


「いらっしゃいませー」

「オウ、ミティスンじゃねーか。こんなトコでナニやってんだ?」

「へ? どちらさんで?」


 当惑した様にヤツはオレサマを見やがる。

 あー、そうか。今はニンゲンの姿だもんな。


「オレサマだよ。魔王軍先遣部隊。その魔竜王といやあ……」


 そこまで言やあ分かるだろ。どんなマヌケでもナ。

 そして、


「ゲェーッ! レスィー……ムグッ!」

「バカヤロウ! デカい声出すんじゃねェ!」


 慌ててオレサマはヤツの口を抑えた。


「あぁ、スイマセン! まさかこんな場所でダンナに出会うとは思いませんでしたよ。にしても……どうしたんです、レスィードのダンナ。アルタワールの攻城戦でやらかしたせいで封印されてたと聞いたんですが……」

「ううううるせーヨ!」


 痛いところを突きやがる。どーしてくれようか……。


「その人は?」


 そこにフェルズが口を挟む。

 おっと、まだ紹介してなかったナ。


「ああ、コイツはミティスン。まぁ……昔の知り合いだ」

「知り合い……ってコトはまさか!」

「オット、そこまでだ。まー、コイツとは古い付き合いでな」

「まぁ、腐れ縁ってヤツです」

「……腐れ縁言うなや」


 まぁ……そーかもしれんが。


「ところで、そちらのお連れさんは?」

「ああ、コイツは元、オレサマの牙で造った竜牙兵のイオレーア。で、こっちが拾い物のフェルズだ」

「“拾い物”は酷くない?」


 フェルズが口を尖らかしよる。


「ン? 実際拾い物だろ?」

「……アッハイ」


 拾った以上はオレサマのモンだゼ?

 ……それよりも、だ。


「で、何やってンだ? お前はヨ」

「見ての通り、露天商ですよ。この街の織物問屋の旦那に拾われましてね。こうして市場で売ってる訳です。……ここで会ったのも何かの縁です。そちらのお嬢様方に、何か買ってあげてはいかがでしょう?」


 フム。なるほどナ〜。


「オイ。欲しいのはあるか?」


 とりあえず女どもに聞いてみる。


「あ〜、このスカーフ綺麗! これがいい」

「え? オウ」


 オレサマにゃよくワカランが。


「イオレーアにはこれが似合うかな? どう?」

「御意」


 フェルズが差し出したスカーフを手にし、少し嬉しそうなイオレーア。

 ……ふむ。


「なら、その二つをもらおうか」

「へい! 毎度あり!」


 よしよし。


「それじゃあ、またな!」

「えっ」

「あの、お代……」


 ミティスンが何やら言ってやがる。フェルズも何やら驚いている様だ。


「どーした?」

「いやあの、代金払わないと」

「代金? 何だそれ」


 そんなモンいるんか?


「あ〜、もう!」


 そう言うとフェルズはオレサマの懐に手を突っ込んだ。そして小さな袋を引っ張り出す。

 え? どういう……って、ソレはオレサマのお宝!


「ここでモメ事起こすわけにはいかないでしょ? えっと……」


 そこでフェルズはミティスンに向き直る。


「幾らです?」

「二つで1400ルピスです」


 ルピス……?


「お金の単位だよ。えっと……あった。はい、お代」

「へい、確かに!」

「あ……ああ」


 フェルズからミティスンに渡される硬貨。

 あ……あぁ……オレのお宝が目減りしてしまう……。


「なにボーっとしてんのさ。次行こうよ、次!」

「お……おう」


 そうしてオレはフェルズに引きずられる様に歩き出した。

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