13話 ふ〜む、黒羊亭?
――そして歩くことしばし
オレサマたちはリシュートの城門前にたどり着いた。
う〜む。流石にチト疲れた。
荷車を引くこと自体は問題ねーんだが、長時間となるとな……。腕と腰が痛い。筋肉痛ってヤツか? まー、ずっと封印されてたモンな。身体もナマルるってワケだ。
そうだな。いずれ馬とかを調達する必要があるかも知れん。オレサマの威をもってすりゃあワイバーン程度なら軽く使役できるんだが、それじゃ目立ちすぎるしナ。……というか、そもそも当のワイバーンどもを見つけなければならねェ。
本来の姿であるドラゴンなら一声吠えりゃあ遠くからでも呼び寄せられたんだがな……。まぁ、今それ言っても仕方がねェ。
そのへんは置いといて、だ。
門の前には通過待ちの列があった。5、6人ほどだ。
で、オレサマたちは大人しく列に並んだ。
無論、アルタワールでの教訓からナ……。あの過ちは繰り返さねェ。
この天下無敵の魔竜王レスィード様がアッ! ……と思うが自重。
ココで騒ぎを起こしたらどーなるかぐらい分かってるゼ……。それに、無駄に敵作っても何の足しにもならん。
悔しいが、今はニンゲン同然の姿だしナ。
で、リシュートの城壁だ。
見る限り、やはり外壁は倍近くまで高くなってんナ。そして、かなり分厚い。
そこから突き出た物見櫓の数も増えてら。さらには弩砲やら投石機も相当数増設してあるナ。
更には結界だ。おそらく街の上方全面を覆うレベルの強い結界が張ってある。
ふ〜む……。オレサマ全盛期のフルパワーブレスなら連打で突破は出来そーか? まぁ、今は試せねェし、試せても実際やるわけにはいかねェがナ……。
……などと考えていると、オレサマたちの番がきた。
「通行証はあるか?」
「オウよ、コレだ。三人分ある。モンクはねェだろ?」
懐から取り出した通行証三枚を衛兵のうち一人に突き出す。
「……ふむ。そうか」
衛兵はそれらに目を通すと顔を上げた。
「行商人、とのことだが……積荷は何か?」
へ? ンなトコロまでチェックするんか? しもた、そこまで考えて……
「雑貨などです。生憎、アルタワールでほとんど荷を捌いてしまったので、ガラクタ同然のモノしかありませんけど……」
と、フェルズ。
オウ、上手いことフォローしてくれるナ。ありがてェ。
そして、
「これを」
イオレーアが長櫃の上に掛けられた覆いをめくり、その一つを開いて中を見せる。
その中にあるのは、雑貨の類……に見せかけた幻影。
手を触れられるのはチとマズいかも知れんが……
「……なるほど。特に問題はなさそうだ」
だが幸い、一つうなずくとヤツは離れた。
「ああ、そうだ。最近、この辺りで人身売買組織が跋扈しているからな。気をつけてくれ」
「……!」
「……ン?」
フェルズがあからさまに動揺した。それを見とがめる衛兵。
チッ、マズいだろがッ! どう切り抜けっか?
「申し訳ありません。この子も一度拐われかけてますので、十分気をつけます。有り難うございます」
「ああ、そうなのか。すまなかったな」
イオレーアのフォロー。
ウ、う〜む。流石はオレサマの被造物。ナカナカに優秀だ。
「時間を取らせてすまなかったな。よし。通れ」
「オウ。すまんね。アリガトよ」
通過OKか。
やれやれ。一安心、だナ。
……いや、安心しすぎるのもマズい。平常心、平常心。
俺たちは荷車を引き、門の中へと入って行った。
――リシュート市街
オレサマたちは城門から続く大通りを歩いていく。
街の風景自体は魔王軍占拠時とそれほど大きな変化はねェ。強いて言えば、民家の上に見える高い城壁ぐらいかねェ? 景観の変化では。
先遣部隊大本営が置かれた領主館あたりはどーなってンのかはワカランけド……
おっと、それよりも……だ。
「どーするヨ? とりあえず宿を探さにゃならねェが……どっかいートコ知ってっか?」
「う〜ん、そうだね。できれば荷車を置ける所が良いけど……」
オレサマの問いに思案げな顔をするフェルズ。
「とりあえず、オレたちが使ったことあるのは黒羊亭くらいかな? 空いてれば良いけど」
ふ〜む、黒羊亭? そこは知らんナ。ケド、フェルズが言うのなら泊まってみても良いかもしれん。
「じゃー、まずはそこだな。……いや待て」
いやちょっとばかしマズいかもしれん。……思い過ごしであればいーんだけどナ。
「どうしたの?」
「そこっってヨ、フェルズの“兄貴”どもと懇意だったんか? だとすれば、オレサマたちが泊まるのは少々マズくね?」
あの連中まとめてぶっ殺しちまったしナ。こちらでは“商売”していなかったとしても、もし仲間だったらヤバい。
「あー、それは大丈夫だよ」
と、フェルズ。
「“兄貴”たちの“商売”とは無関係さ。そもそもこれまで数回ぐらいしか使ったコトないしね。当然オレの顔なんかは覚えられてはいないよ。街に行く時は髪も染めさせられてたしさ」
オウ、そうか……。それならば問題ないか。
「ああ、そうだ。レスィードさんの場合、宿帳に記入する名前は変えた方が良いと思うけど。あと、イオレーアは本名の方でいいと思う」
「なるほどな……」
「御意」
万一ハビンの顔を覚えられてる可能性もあるしな。本名は……もっとマズい。
「そーだナ、とりあえずココじゃオルヴァレスとでも名乗っとくか」
「ふ〜ん? で、由来は?」
「それha……」
「お父上の名ですね」
「へー、そーなんだ」
「」
ヲイ、イオレーア。勝手にバラすんじゃねーヨ。一体ダレに似たんだか……って造ったのはオレサマか。
……つかフェルズよ、特に反応はねェのか。とッ、とにかく、だ。
「んじゃ行くぞ。案内頼むゼ」
「分かったよ」
――そうして歩くことしばし。
「ここだよ」
「あー、ナルホド。ココだったか」
そこは、大通りに面したずいぶんと大きく立派な宿だった。かなり年季も入っている。
何となく見覚えはあるんだよナ。何度か前通っただけだケドさ。
「空いてりゃいーケドな」
「じゃあ、ちょっと聞いてくる」
フェルズはそう言って宿屋の中へと入っていった。
そしてしばらくすると、彼女は戻って来る。
「ちょうど空き部屋があったみたいだからそこにしよう」
「おう。荷車の置き場は?」
「あっちの空き地らしいよ」
「ほう」
宿の隣には厩。そしてちょっとした広場がある。
馬車とか置く場所だナ。
とりあえずソコにコイツを置かせてもらうか。
オレサマたちは荷車を引いて広場に向かう。そして、その片隅に荷車を置く。
そーだ。コイツにゃ財宝が積んであるんだモンな。
とりあえず、
「……“静止”!」
コレでコイツはこの場所から動かすコトは出来ねェ。
そしてオレサマたちは宿の中に向かった。