12話 一安心、だナ
――しばしのち
フェルズの作業が終わり、オレサマたちがまた歩き出そうと……。
しかしそんな頃合いで、例の騎馬が接近してきやがった。
このまま通り過ぎてくれれば重畳。もし絡まれたとしても、オレの実力なら何とかなるだろうze……
って、気弱になりすぎてんナ。そう、オレサマは魔竜王レスィードッ! いついかなる場所でも、な! 例えニンゲンの姿であろうが、だッt!
……とかやってる間にもうヤツは目の前だ。
とりあえず、オレサマたちは気にせず歩き続ける。そしてすれ違いのため道の左側に寄り……
いッ、いやtt……ベツにビビったワケじゃねーヨ? フェルズが言う旅人の風習にしたがってだ、な……、
……って、マテや。ヤツはオレサマたちの目前で止まりやがった。
ヲイ、ナンで? いやまさかオレがレスィードだと知ってのコトかァ? ……だとすれば仕方ねェ。オレサマもココで一戦交えるのも吝かじゃねぇんだゼ? そんナら、ヤるかヨ? オレサマはいつでもダイジョーブだゼe? あア゛⁉︎
そしてわずかに腰を落とし、すぐさま戦闘モードへ移行できるよー準備。さァ、来る? 来るかヨ⁉︎ いつでも…………ン?
と、馬上の騎兵が面頬を挙げた。
……ナンで? お? いやマテ。その顔はイルムザールじゃねェのか。造作からしておそらくその息子でもなさげだ。なら、一安心……
い……ッいやいや、魔竜王ともあろうモノがナサケネェ。たとえ相手がダレであろうが斬り捨ててやらァ! そう、魔王サマでもなアッ!
……とッ、ともかくとして、だ。アイツはずいぶん若い感じだな。おそらくフェルズよりはかなり年上なんだろうが……。
……などとオレサマが考えている間にヤツは素早く馬を降り、目の前にやってきた。
一体どーいうツモリだ?
「旅の途中、突然のことで申し訳ありません。人を探しています。ガレムレンという男ですが……最近アルタワールにいると聞きました。その男について、何かご存知ないですか?」
「ガレム……レン? いや、ワカラン」
聞いたコトあるよーな、無いよーな? つかニンゲンの名前なんぞいちいち覚えてねーヨ。
とりあえず、フェルズだ。
「オイ。なあ、そのガレ……ナントカってヤツ、知ってっか?」
「……いや、知らな……知り、ません」
なにやらぎこちない答え。
ヲイ……ダイジョーブか?話を振ったのはマズかったかも知れん。
「残念ながら存じません。お役に立てず、申し訳ありません」
と、イオレーア。
当然コイツは知る由もねェ。たとえ嘘検知の魔法を使われても真っ白だゼ。
ヤツは眉根を寄せ……しかしすぐに真顔になる。
「そう、ですか……。有り難うございます」
そう言って、ヤツは再び馬上の人となった。
「では、旅のご無事を!」
そしてそう言い残し、去っていく。
「お……おう。アンタもな」
ナンだったんだ、一体……?
「あの、ガレムレン……」
フェルズが呟く。
「オイ、知ってンのか?」
「ああ。確か、リシュートの前領主の一族で、本名はエルマン。魔王戦役の際に魔王軍に内通してこの街の弱点を伝えたんだ。そして、リシュートが魔王軍に占拠されたのちに領主となったんだけど……」
「……へ?」
エルマン? ンなヤツいたっけか?
「だから、レスィードさんは知ってるんじゃないの?」
「」
い……いやまぁ、実務はヴォルザニエスに任せてたしナ……。カオ見たら思い出すかもしんねーケド。
「そして……大兄さんたちの取引相手だった」
「……そーナン?」
あー、それで……
「魔王戦役終結後、エルマンはいち早くリシュートを抜け出し、身を潜めたんだ。そしてガレムレンと名乗り、魔王軍残党や“裏切りの民”たちと組んで、人身売買組織を作り上げたって話なんだよ。で、先日アルタワールに現れて兄さんたちと取引してたらしいんだ。それを聞きつけてあの騎士はアルタワールへと向かっているんじゃないかな?」
「ふ〜む」
ナルホド〜。裏切りの民、ねェ。
聞いたことがある。確か……前々回、つまり二千年ほど前の魔王戦役の時のハナシだ。無論、伝聞にすぎねェがナ。千年前、当時の上官から聞かされたっけか。
当時、魔王軍が地上に侵攻した際にニンゲンどもは同盟を組み、対抗した。しかしある場所での会戦で、ソレは起きた。同盟軍を裏切り、背後から襲って壊滅させたアホな国王がいたらしい。ヤツは自国を守るためにそーしたよーだが……
しかしソイツの国は真っ先に魔王軍に破壊、蹂躙された。
何故かって? そりゃー自分たちだけ助かるために仲間を売るよーなクソタワケ、信用出来るワケねーだろ? ヤツらは魔王軍に入りたかったよーだが、そんなの自軍に置いとくワケにはいかねェ。コッチが不利になったら真っ先に裏切るだろーからナ。
で、魔王戦役終結後。
魔王による完全な管理社会の中……あの連中は「誰でもない何か」という扱いを受けたそうな。つまり、「そこに存在していないモノ」ってワケだ。
そっから連中は、ダレにも受け入れられるコトはない根無草となって各地を放浪するハメになったってワケだ。
まぁ、マトモなヤツらはナンとか街や村に受け入れてもらったよーだがナ。しかしアレな連中は……。
その後、そこにあぶれ者なんかも加わって、更に凶悪化してやがった。千年後の戦役でも乱暴狼藉やらヒドいアリサマだったしナ。
そして今回の戦役では更に輪をかけてヒデぇ。戦乱にかこつけて、ニンゲン側魔族側構わず略奪暴行やりたい放題……。マジでアタマにきたんで連中をまとめて灰にしてやったコトもあったナ。神聖な戦場を汚ェ足で汚すんじゃねェよ、クソが……。
……まー、それはともかく。
この地上にゃ戦乱の影響も残ってるだろーナ。だからフェルズの兄どもみてェな連中が跋扈してるってワケか。ガレムレンとやらがヤツらと組んだのは類友ってトコなんかねェ?
そしてそれを追うのはあんな若い騎士、と。
……まだまだ混乱は続くだろーナ。
とはいえそのおかげでオレサマみてェな魔王軍残党は動き易いのも確かだ。今のうちにドラゴンに戻る方法なり魔界への帰還方法なりを探すか。
まずはリシュートの街で仲間を見つけ……
……いや待て。そーいやこの通行証、大丈夫なんか?
「そういえばコレ、お前の兄貴たちの実名か?」
通行証を取り出し、フェルズに示す。
「ああ、その辺は大丈夫。兄貴たちはアルタワールでしか“商売”をしていなかったみたいだしさ。今までもそれで通過しても問題なかったよ」
ふ〜む、なるほど。なら、無事通過出来そーだナ。
そして、オレサマたちは再び歩き出した。