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11話 幾らかの情はあるんか?

――しばしのち

 あー、食った、食った。まぁ、毒腺のある尻尾はまだ珍味みてェなカンジで吸っていたりはするがナ〜。

 とはいえ今のオレサマの体格はヒト族同然だ。あんまり沢山吸うわけにはいかねェ。流石にドラゴンの頃とは全体的な解毒能力が違いすぎる。

 まぁ、現状でもヒト族以上には高い解毒能力を持つワケだが……それでも流石に量が、な。

 ともあれ、だ。


「どーよ、初めてのメシは」


 毒腺から口を離し、問う。


「美味しかったです。有り難うございます」

「確かに美味かったケドさ……初めて食べたのがオオサソリってどーなんだろうね」


 隣で余計なコトを言いやがるフェルズ。

 そりゃオレサマだってちゃんとしたメシを食わせてやりたいゼ? でも手に入ったのがアレだから仕方がねーだろがヨ。


「まっ、夜はリシュートでちゃんとしたモン食わせてやんよ。それでモンクねーだろ?」

「そりゃ勿論!」


 フェルズが速攻反応しよった。

 いやマテ。別にお前に言ったワケじゃねーんだが……まぁ、いいか。お前さんにもガッツり食わせてやんヨ。大事なお宝だしな。


「じゃあ、そろそろ行くぞ」

「おう!」

「御意」


 敷物と机、食い残しのオオサソリを長櫃に放り込むと、またオレサマたちは歩き出した。



――更に半刻(約一時間)後

 赤茶けた空気を通し、鮮やかな緑の帯が見えてきた。オアシス都市だけあってあのあたりは比較的水が豊富で、ちょっとした森ができている。

 そしてその前方にそびえる、巨大な城壁。

 あれが砂漠の中にあるオアシス都市、リシュートだ。

 ふむ。やはり城壁はかなり改修されてんな。高さが倍近くになってやがる。そしてその上には弩砲(バリスタ)が見える。

 空中からの攻撃に対処するためか。

 まー、前の戦いでは、オレサマ率いる部隊によりこの街は陥落したワケだがな。それを戦訓にしたってコトか。

 ふ〜む。もし次に攻めるとしたらどーすべきだ? 射程外からの空爆か、それとも……

 ……おっと。

 今考えるコトじゃねーか。まずはドラゴンに戻らねーとな。


「あと少しだぜ。気合い入れて行けよ」


 背後のフェルズとイオレーアに声をかける。


「御意」

「…………」


 イオレーアの返事。

 フェルズは……イオレーアとそれを引く荷車を見、何か言いたげな顔してやがる。


「どーしたよ、フェルズ」

「いや……」

「?」


 一瞬ためらった様に口を閉じた。

 そしてややあって、


「あのさ……ここから先、荷車はレスィードさんが引いていった方が良いよ」


 などと口にする。


「へ? どーいうこった?」


 いや魔竜王サマが荷車引くとか幾らナンでもさ。かつての部下に見られたらオレサマの威厳がだナ……。

 いやまー、今のオレはその面影もないヒト族の姿だけどヨ。けど、オレサマ自身のプライドってモンが……。


「門をくぐる時にさ、力持ちっぽい男がいるのに女の人が荷車を引いてるっていうのは流石にちょっとね……」

「オ……オウ」


 そーいやそーか。まあ、オレサマの力ならこの程度の荷車なんぞ別にモンダイなく引けるしな。とりあえずはそーすっか。


「オイ、代るぜ」

「御意」


 そして今度はオレサマが荷車を引き始めた。

 ウム。軽い軽い。ラクショーだゼ。


「あと、そうだ」

「ン? まだナンかあるンか?」


 フェルズめ、注文が多いナ。

 ……まぁ、オレサマはニンゲンどもの事情についてほとんど知らねェから聞かねばならんのだケドよ。


「通行証のことさ。名前を一致させないといけないからね」

「……ナルホド」


 そりゃそーだナ。

 とりあえず、また懐から通行証を取り出す。

 これは棚の中に三枚まとめて入ってたヤツだ。他にもバラバラで見つかったのがあるが、ソレらは長櫃に入れてある。


「まずコイツは……ハビンってヤツだな」

「ああ……大兄さん、か。それはレスィードさんが持ってた方が良いよ」


 ……そうか、あのヤロウか。そういや通行証の件で揶揄しやがったナ。まさかそのオレサマに自分の通行証と名前を使われるとか思ってもみなかっただろーヨ。

 しかし、だ。


「ケドよ。アイツ、まさかリシュートの街で官憲に捕まるよーなマネはしてねェよな? 特にフェルズみてェな幼児に手ェ出して捕まってるとかヨ……』

「それはないから!」


 何故かブチ切れてやがるフェルズ。

 ま、まぁ……幾らかの情はあるンか? あんなんでも……。

 と……とにかく次は、と。


「オウ。フェルズのもあるぜ」

「じゃあ、それはオレが」


 やはりコイツら“兄妹”のだったか。


 イオレーアはどーしたモンかねェ。あの山賊連中はフェルズ以外女はいねェ。

 男装したのもいなかっただろうナ。……多分。

 それはともかく、次だ。


「コレは、ログスってのだな」

「小兄さんか。……そうだ。マントとフードで誤魔化せるかな?」

「ナルホド……」


 マントとフードを羽織り、スカーフで口元隠せば良いか。


「んじゃその辺のコトはフェルズに任すゼ」

「分かった」

「御意」


 フェルズはイオーリアの髪を首後ろでまとめ、縛る。そしてマントやらスカーフを着付けしていく。

 まー、オレサマにはやるコトがねェ様だ。

 何気なく遠方に目をやり……


「……ン? 向こうから誰か来るな」


 砂煙が上がっている。

 ヒト族並みの視力じゃまだよく見えんが、多分騎馬だなアレは。

 武装してる可能性もある。どーすンべきだ?

 ……そーだな。まずは一応確認しとくか。


「“遠視”!」


 視力を増強。

 一気に視野中央が拡大される、

 ……ふむ。やはり騎馬だ。一騎で随伴もなし。かなりのスピードで駆けてんナ。緊急事態? 何かあったんか?

 ……というか、鞍上は鎧をまとってンな。しかもプレートアーマー。どーやら騎士っぽい? いやマテ、あの鎧は……イルムザールのヤロウと同じ⁉︎

 まさかヤツが⁉︎ ……いやしかし、アイツはヴォルザニエスの野郎と相討ちになって死んだハズでは?

 というか、フェルズのヤツが知らなかっただけで、実は生きてやがった? そして復活したオレサマを討ちに?

 クソッ! あの時ヤツの攻撃を喰らった辺りが疼きやがる。そして、膝を屈した屈辱も……ッ!

 …………。

 いイ、いや待て。

 今パニクってもしょーがねェ。そーと決まったワケじゃねェしナ。

 第一、アイツがイルムザールとは限らねェ。そもそもアイツが生きていたとしても、このタイミングで現れる理由がわかんねェし。

 確かあの鎧はエルズミス大神殿から選ばれた戦士に支給されるヤツだったか。もしかして、ヤツの部下あるいは息子あたり……って、息子のヴァルスラーナは勇者じゃねーか! もっとヤバげ?

 …………。

 れ、冷静になれ。そもそもヴァルスラーナはオレとは戦ったこともねェ。というか、イルムザールですら今のオレがレスィードとは気付くめェ。

 ……いやマテ。何で天下無敵の魔竜王サマがこんな弱気になってんだ? たとえ今の状態でも一騎打ちなら後れを取るハズがねェ。

 とりあえず、様子を見ねば、ナ。

 ……そうする間にも騎馬はオレサマたち方へと近付いてきた。

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