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ラージ  作者: 全州明
四章
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適応環境3

「……まさか創立記念日だったとは」

「災難だったな」

 自分も間違えて来たくせに人ごとのように何食わぬ顔で呟く彼は、僕のクラスメイトであり、友達でもある、岡田健治君だ。細身だけど筋肉質で、黒光りする整った黒髪に、鋭い目つきと細い黒ぶち眼鏡。外見から(すで)にちょっと危ない感じの男子高校生だ。

 例えるなら雨の日に傘を折りたたんだまま持ち歩く人だ。

 どうしてこんな例え方をするかと言えば、この前、実際にやっていたからだったりする。

 要するに、ちょっと変わった感じの人なんだ。変人とでも言うべきだろうか。

 でもそんなことを言い出したら、僕の学校は変人で満ち溢れてる。変人が多すぎて、もはやそれが普通になってしまっている(ふし)すらある。

「あ、橋丘先生だ」

 岡田が唐突に、前からやってきた白衣の男性を指す。

「橋丘先生? 誰?」

 僕は聞き慣れない名前に首を傾げた。

「知らないのかよ。ほら、あれだよあれ、何か脳の研究してる人」

 そういう岡田もうろ覚えらしかった。

「脳の研究?」

「正確には空想と妄想の違いについて研究している脳科学者だよ」

 橋丘先生は僕らにそう説明してくれた。でも、やっぱり僕はこの人のことを知らないと思う。

「二つはどう違うんですか?」

 僕は橋丘先生に尋ねた。先生は、少し考え込むような素振りを見せてから、こう答えた。

「空想と妄想の違いは、気付いているかいないかなんだよ。

 空想は、自分が今空想していることに気が付いているし、次の日、昨日空想していたことを覚えている。ところが妄想は、していないことをしていたと思い込む。本当はしていないのに、した記憶があって、したと思い込んでいて、本当はしていないことに気がついていない。これが妄想だ。実は妄想は、精神疾患の一つなんだよ。脳が自己防衛のためや、自分の立場を有利にするために、自分で自分に嘘の記憶を植え付けるんだ。

 それもとことん、都合のいい記憶をね」

「へぇー」

 岡田は生返事をした。話を聞いていない時の態度だ。

 でも僕にはもう一つ聞きたいことがある。

 だから悪いけど、後少しだけ、置いてけぼりになっていてもらおう。

「それじゃあ先生、自分から目を覚ますには、どうすればいいんですか?」

 僕は次また悪夢を見たときのために聞いた。

「君はもう、目を覚ましているはずだよ? ただそのことに、君が気がついていないだけで」

 先生は、僕の質問の意図を履き違えてしまったらしい。

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