適応環境
第四話 「適応環境」
――――目覚まし時計が鳴り響き、僕はようやく目を覚ます。
起き上がり重いまぶたを開くと、背の低い本棚や勉強机、開けっ放しのクローゼットが僕を囲むようにして置かれていた。
時計を見ると、十月十日の月曜日、午前七時だった。
いつも通りの僕の部屋が、そこにはあった。
昨日のあれは夢だったんだろうか。それとも、あの後なんとか家に辿り着いたんだろうか。立ち上がり、ドアノブを回しながら考える。
夢にしてはやけ鮮明に覚えている。けれど、あれが現実とはとても思えなかった。
階段を下りながら、大口を開けてあくびをする。
リビングには誰もいなかった。テーブルの上に置手紙があったけど、どうせ遅くなるとかそんなようなことが書いてあるんだろう。構わずキッチンへ向かう。
冷蔵庫からタッパに入ったサラダを取り出して、オーブンの上に置かれたパンを一枚咥え、テーブルに着く。テレビを点けると、今日は全国的に晴れるでしょうと天気予報士の人が声を弾ませていた。チャンネルを変えても、特に変わったことはなく、これといった事件や事故も、起こっていないらしかった。
昨日のあれが夢だったにしても現実だったにしても、平穏で、いつもと変わらない日常が、ここにはある。それだけで十分じゃないか。そんな結論に至り、僕は考えるのをやめ、黙々と食事を始めた。
家を出るころには、時計の針は七時五十分をさしていた。
少しのんびりし過ぎた。あと十分で学校に着かなくちゃいけない。間に合うだろうか。
僕は再度戸締りを確認し、足早に家を出る。
昨日の夢のこともあるし、走るのは、少し気が引けた。
でも今はどうしても走らなくちゃいけなかった。学校に遅刻しないためというこの上なく恰好悪い理由で。アニメやマンガなんかでは、普通ピンチになったときとかに何かを固く決意するなり大きな心境の変化が起こるなりして苦労の末に克服するものなのだけれど、僕の場合、先生に怒られたくないがために簡単に走れてしまう。苦労もへったくれもあったもんじゃない。現実とはそういうものだ。
腕時計を見ると、残された時間はあとわずかであることがわかった。
何て言い方をすれば少しは恰好良くもなるけれど、さっきも言ったようにその時刻を過ぎると僕は遅刻する。時間が過ぎて困るのは、本当に、たったそれだけのことだ。




