あるはずの無い過去2
あちこちに植え付けられた木々は青々と茂り、至る所で蝉たちが騒がしく喚き立てていた。
夜になるとそれらは途絶え、代わりに鈴虫の合唱が始まる。
町はすっかり、夏色に染まっていた。
ここで黄昏ていても仕方ない、僕はおもむろに立ち上がり、帰路につく。
僕はかなりの方向音痴なので、見知った道以外勘が通用しない。もうすぐ夕方になる。日が沈みきるまでには帰りたいところだ。
歩く速度は急速に速まり、しまいには走り出していた。
僕は焦っていた。早くも額に汗が滲む。
心臓の位置がはっきりとわかる。
胸騒ぎがして、バッと後ろを振り返る。そこにはさっきのベンチがあるだけで、誰もいない。
胸騒ぎは治まらず、その後も何度も振り返る。何度見ても誰もいない。
でも、なぜだか誰かに追いかけられている気がした。
「誰かぁ‼」
僕の叫びは不思議と反響し、何重にも重なって聞こえた。
地面は平らなはずなのに、何度も転びそうになる。
バッと後ろを振り返る。道の脇には木々が立ち並び、遠くの方にベンチが見えた。
曲がり角に差し掛かり、速度を落としてなんとか曲がり切ってから、もう一度振り返る。
道の両脇には木々が立ち並んでおり、遠くの方にベンチが見えた。
こんなことはあり得ない。間違ってる。
ここはどこなんだろう。見覚えの無い一本道がどこまでも続いている。
僕はがむしゃらに走り続けた。
疲れてきたのだろうか。周りの景色がしだいにぼやけ始める。
辺りはすっかり真っ暗になっていた。多分もう、誰も追ってきていない。
それでも僕は走り続ける。後ろを振り返らないようにして。
再び曲がり角に差し掛かる。今度は速度を落とさずに、構わず走る。
すんでのところで曲がり切り、再び一直線に走る。
景色のぼやけはさらに悪化して、しだいに歪み始めた。
それでも僕は走り続ける。ただひたすらに、前だけを向いて。
歪みはさらに酷くなり、景色がひび割れる。僕の行く手にも大きな亀裂が走り、やがて穴が開き、そこから淡いオレンジ色の光が漏れてきた。
それでも僕は、走り続けた。その光の、向こう側へ。




