落下地点のその先3
――――これからやることは、既に決まっていた。
「死ぬ気で走って飛び降りろ――――か」
時間ならいくらでもあるし、試してみる価値も、十二分にあるはずだった。
地面を蹴り上げ、僕は走り出す。途端に辺りの風景が、あり得ない速度で後方へと流れて行く。
やっぱりここは、夢の中だったんだ。
両腕を力強く振り、速度を上げる。辺りの建物が、残像で引き延ばされていく。
まだだ、まだ足りない。もっと、もっと速く。
地面を後ろに向かって力一杯蹴り出して、さらに速度を上げる。
一歩前に踏み出す度に、体全体に負荷がかかり、グンと前に出る。
引き延ばされた建物は、地面と平行に伸びる、いくつもの線と化していた。
濃さの違う様々な灰色の線は、僕の視界を埋め尽くす。
かと思えばいきなり地面が消え失せて、僕を取り巻く線たちはあっという間に水色に変わった。振り返ると、マンションの廊下が刀で切ったように不自然に途切れていた。
それからしばらくはスローモーションのようになり、途切れた廊下と空に残像は無く、辺りの景色も元に戻った。下には町があり、上には視界いっぱいの、曇一つない青空が広がっている。
しかしそれも束の間、僕の体は下に向かって落ちて行く。その速度はしだいに増していき、辺りは再び線で埋め尽くされる。今度は地面と垂直に伸びた水色の線が、上に向かって流れて落ちて行く。見ていると、逆流する川のようだった。
体を空中で一回転させて、下を見る。町は消え、水色の線に支配されていた。両手を広げ、突如吹き始めた風を全身に受ける。
尚も加速していくうちに、真っ直ぐに伸びていた線が波のように揺らぎ始め、渦を巻くようにして歪み、その中心から真っ黒な亀裂が走ったかと思えば、しれはあっという間に全体に広がった。あちこちが羽化する卵のようにひび割れて、風で捲り上げられ、次々と上方へ吹き飛ばされていく。
やがて全ての殻がめくれ、辺りは暗闇に真っ暗になる。
しばらくすると、闇の中に閃光が迸り、全てを飲み込んだ。




