楽しげな日々の中で3
………嘘だ。そんなはずない。僕が、僕が変わったなんて。
僕はこの世界でも、普通になれないなんて。だったら僕は、どうすればいいんだよ。
「何を悩んでるの? あなたはもう、外の世界の普通になれたのよ?
目を覚ませばいいじゃない。目を覚まして、こんな世界から抜け出して、一生かけても見渡しきれないような、広くて大きい、本当の世界を、知ればいいじゃない」
「でもどうやって?」
「簡単よ。口にすればいいの。一体ここが、どこなのか」
ここがどこなのか。ここは、間違いなく僕の頭の中だろう。でも多分、それを言っても僕は目覚めない。僕の頭の中だってことぐらい、最初から、わかっていたことだから。
なら僕は、果たして何を言うべきなんだろう。そんなことはもう、わかり切っていた。
顔を上げ、空を見上げる。視界いっぱいに広がるその景色は、しかしいつもと変わらない。
雨が降ることもなければ雪が降ることもない。この世界ではいつもいつも、こんな天気だ。
これが、僕の頭の限界なんだろう。
そんな自分に嫌気がさしたのかもしれない。目を覚ましてもいいような気がした。
「ここは、この世界は❘僕の妄想だ」
途端に世界はばらばらに崩れ落ち、僕は二人の間に出来た穴の中へと落ちて行った。
それは全てを呑みこむような、真っ暗な穴だった。
目が覚めると僕は、狭くて汚い部屋の、ベッドの上にいた。
電気が点いておらず、うす暗いせいで、それがさらに際立っていた。
ふと、この世界が、酷くちっぽけで、つまらない場所に思えた。
久しぶりに、どこかへ出かけてみようかな。
例え外の世界が、都合の悪い事ばかりで、何一つ、思い通りになんかならない場所だったとしても、何一つ、取り返しのつかない場所だったとしても、それでいいんだ。
きっとその場所は、部屋の中なんかよりも、頭の中なんかよりも、ずっとずっと――――
――――広くて大きいはずだから。