再発2
「嘘、だろ………」
教室の中には、縦も横も綺麗に揃えられた、いくつもの机と椅子があった。
ただそこには、誰もいなかった。
たくさんの笑い声や話声だけが、教室中に響き渡っていたのだ。
僕は青ざめて、すぐに扉を閉めた。
呼吸を整えることもできないまま、六組の教室へと向かった。
六組は五組と比べると、静かでおとなしい人が多い。
そのせいか、六組の教室からは何も聞こえてこない。扉を開けて、中を見る。
使われていないのかと思うほど新品同然の黒板があり、机があり、椅子があった。
でも、それらを使う人たちは、ここにも居なかった。いや、居なくなっていた。
僕は駆け出して、七組へと向かい、勢いよく扉を開ける。
誰もいない。
八組の扉も開ける。
やっぱり誰もいない。
最後の望みを賭けて、九組へと向かう。
九組は、入口の扉に南京錠がかけられて、教室ごと閉鎖されていた。
「……何だよこれ!」
僕は訳が分からなくなって、奥の階段を足早に駆け降りた。
――――はずだった。
踵を角で滑らせ、僕は一段目を踏み外してしまった。
僕の体は前のめりになって、そのまま倒れ込む。
直前で目を瞑るも、闇の中で、額に激痛が走る。
その後も僕の体は止まらずに、体のあちこちを打ちつけながらぐるぐると回り始めた。
今度は体中に激痛が走る。目を開けると、真っ白な天井と、薄汚れた階段とが、ぐるぐると入れ替わっている最中だった。
やがて、地面と天井の区別は無くなった。
階段はたくさんの真っ黒な線となり、視界は白と黒の縞模様で埋め尽くされた。
それらは一定の間隔を保ったまま、上から下へと流されて行く。
手足を広げてみても、止まることは叶わなかった。
気付けば痛みは消えていて、地面の感触も、しだいに薄れて行った。
浮遊感は無く、重力は、今も僕を下へ下へと引き寄せる。
横線は今も途切れる様子がまるでなく、曲がることもせずに、僕を一直線に落として行く。
遠くの方に、一際太い横線が近づいてきた。
距離が縮まるにつれて、その線の中に、真っ白な歯がならんんでいるのが見えると、それはあんぐりと大口を開け、僕をごくりと飲み込んだ。