目覚めの前の大いなる夢より「序章」
完成しました!
今後書く作品の共通設定です。
原初のただ一点。そこ以外のどこにも「有」も「無」も存在しないが故に、有と無が等価になるところ。そこに一つの世界があった。まだ数の概念は意味をなさず、一点にして果てなき、有限にして無限の世界――そこにアザトースはいた。有にして無、一にして全、個にして無数、それがアザトースだった――「世界」そのものこそがアザトースだった。
アザトースに意志はなく、まさしく「全能にして白痴」と呼ぶに相応しいありさまだった。
意志なきアザトースはただ世界を見つめ続けた。
それは偶然であったのか、それまでにかかった果てなき時間を考えれば必然ともいえようか、その世界に一つの観測者が生まれた。観測者は生まれた時には「視点」以外の何も持っていなかったが、この世界に存在するうちに「望む」ことを覚えた。アザトースの力は無限であり、望むものは何でも与えられた。他の観測者が生まれた。力が生まれた。喜びが生まれた。愛が生まれた。美が生まれた。――あらゆるものが創造され、世界はその流れに導かれていった。みるみるうちに世界は多くの存在で溢れ、そしてその時が訪れた。
――欲望が生まれた。
力も愛も喜びも、より強いものを求めだした。欲望のままに、ただ自分が美しいと思うものを無尽蔵に創りだした。果てなきアザトースの力によりすべてを与えられていた彼らにとって、欲望に果てなどなかった。どこまでもどこまでも美しい物を求めていく……。世界は美で溢れかえり、その狂気的な欲望はアザトースをも狂わせることになった。
ここに至り、アザトースは意志を得た。世界にあふれる狂気がアザトースの有り様を変えたのである。ただ、観測者から見ればこの世界は完璧だったが、アザトースから見ればそれは間違っていた。
「この世界のものは皆、美と愛に満ち溢れている。しかし、誰も満たされてはいない。欲望がそれを許さない。それは私自身にも言えることだ……。確かにこの身は完全だろう、力は絶対だろう。――だからそれが何だと言うのだろうか。あらゆるものを手にし、絶対の力を振るい、望む愛は奪ってでも手にできる。――だが満たされない。皆が完全なものを求めている。だが、私自身は完全でもなんでもない。私の心根は醜く、欲望に支配されていて無力だ。このような不完全な存在を、誰が好んで愛そうとするだろうか? 私を望むものなどいないのではないか? 何より、私がこんな私を許せない!」
アザトースは正しくこの世界そのものだった。世界の大半が欲望に支配された今、アザトースもまた穢れた存在へと堕落していた。アザトースは自分自身の有り様に憤り、そしてまた。
――怒りが生まれた。
アザトースは世界そのものであったから、世界は怒りで満たされた。反目が対立になり、あらゆるものが争いだした。互いを拒絶しあい、時には力で争いもした。最終的にはそれぞれが自分だけの空間へと引きこもるようになってしまった。望むものはすべて与えられる、他者を拒絶したところで不都合はなかった。むしろより一層、欲望のままに世界を美で満たすようになった。
世界は愛で満ちていった……自己愛で満ちていった。
――世界の片隅で誰かが気づいた。世界が分断状態にあったため、他の誰も気づくことはなかったが、世界そのものであるアザトースだけは気づいてしまった。
「世界は愛と美で満ち溢れている。しかし、それらはすべて私の外側にあるものにすぎない。確かに世界は美で満ちたが、その美を手に入れたとしても、私自身が美しくなるわけではないのだ。ああ、周囲のものの、なんと美しいことだろうか。……比して私はそのように美しく在ることができない。むしろ、外の美が極まっているがゆえに、私の醜さが際立っているではないか。ああ私は、この醜い私と付き合いながら、絶対に己の物にできない美に囲まれて生きていかなければならないのか……」
そして生まれた。
――嫉妬と、その果てにある狂気が生まれた。
発狂したアザトースにより世界が閉じられた。存在は形を失い、猫箱に片づけられた。そして新しく世界が始まった。
――不完全なものに満ち、欲望と怒り、嫉妬とその果てにある狂気の世界が。
世界創造以前の話です。
最後に創造された世界が、いわゆる外なる神々の世界で、その下層に地球とかの現実世界、それを繋ぐ形で夢の世界があります。
今後は下層世界の話を中心に書きますので、よろしく!