少女の名は
黒いローブのような物を頭から被ってる人物は坂原たちの視線に気付いたのか、こちらにゆっくりと近づいてきた。ゆらり、ゆらりと怪しく近づいて、手を伸ばせば触れられるくらいの距離になった時、クスリと口元で笑みを浮かべた。
「へぇ、私が見えるのね、貴方達」
澄んだ女性の声だった。背は坂原と水無瀬よりちょっと小さいくらいの少女だったが外見に似合わない凛とした声の持ち主だった。坂原は少しびっくりしながらも、まず一声に
「…なんだオメー?」
と、至極当たり前のことを口にした。口が悪いのは坂原の性分であるが、それを見かねた水無瀬が坂原をムッと睨みつける。
「ホントに坂原くんは子供のあやし方がなってないねー…これだから子供にいつも恐がられるんだよ足の小指ぶつけて死んじゃえばいいのに」
「おい、今の注意に俺への罵倒はいるのか。てかお前今死ねって言った?言ったよな。なぁ」
「よしよーし、キミその服装かっこいいねぇ。魔法使いごっこかな?」
坂原を無視して水無瀬はローブを被っている少女の頭を撫でながら言った。ぶちりと切れそうだった坂原だったが、頭を撫でられてる少女も俯きながらフルフル震えている。
「…屈辱だわ。子供扱いされるなんて…」
どうやら少女もお怒りの様子だった。それに気付かないのか水無瀬は愛でるように激しく頭を撫でまくる。流石に限界がきたのか、腕をブンッと振って少女は水無瀬の愛のある行為(?)を振り払った。
「いいかげんにして頂戴。これでも私は貴方達の何倍も生きてるのよ」
「へー魔女設定かぁ凝ってるなぁ。もっと私に懐いてくれてもいいんだよ?それとも私も一緒にキミと魔法使いごっこしたほうがいいのかな?それと――――]
「うるせえよロリコンなんかテメーは」
ゴンッと、さっきの仕返しとばかりに坂原は水無瀬の後頭部をげんこつで強く殴った。思った以上に強かったのか水無瀬はううーっと唸ってその場に蹲った。痛がってる水無瀬を無視して坂原はローブの少女に近づいた。
「…おいガキ、テメーから声をかけてきたってことはなんか俺らに用があるんだろ。こいつが回復する前にさっさと用件言えよ」
ぶっきらぼうに坂原が言う。それを聞いた少女が少し意外そうな顔をした後、ふーん、と少し嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。
「へぇ、絶対に話ができない人だと思ってたけど、人は見かけによらないのね。数百年生きてきたけど勉強になったわ」
「口の減らねぇガキだな…つか人を見かけで判断すんじゃねーよガキのクセに」
「そっくりそのまま返すわ。人殺した事ありそうなくらい目つきが悪いクセに」
「OK。ここでぶちのめしてやるよ。家で母ちゃんにあやしてもらいな」
ぶちぶちと青筋を浮かべながら坂原は指の骨をぱきぱき鳴らしながらちょっと口の悪い少女に近づく。流石に言い過ぎたと思ったのか、少女が咳払いをして口を開く。
「ラウラよ。それが私の名前」
急に真面目になったラウラと名乗った少女に坂原の動きがピタッと止まる。