プロローグ
文明が進んだ、いつかの世界。
この世には科学では証明されないような、魔法という存在がある…ワケが無い。
正式には昔にはあった、らしい。らしい、というのは実際その魔法とやらの存在を目にした事がないからである。
今の世の中というのはそんな昔世を虜にしてた魔法、なんてメルヘン溢れる言葉がなかった事のように街にはビルが立ち並んでいるし、人が空を飛んでるわけでもなく、ただ道路の上を歩いているような。
普通――――そう、ここは極々普通の世界だった。
「でも昔はホントにあったらしいよ、魔法」
そう言ったのはおさげとくりくりした目が特徴的な学生服の少女だった。
空は若干曇っている。
真昼だというのにそらは薄暗く、妙に不気味さを感じる。学生服の少女はそんな不気味な空に手を伸ばしながら言葉を続ける。
「ホントにさ、今の時代に魔法があったらどうする?私だったら…そうだなぁ、やっぱ王道だけど空を飛んでみたり、手からビームとか出してみたいかな」
目をキラキラさせながら少女は隣にいる少年に話しかけていた。
「もうっ話聞いてるの、樹くん」
樹と呼ばれた少年は、本当に面倒くさそうにくあっと欠伸をした後にジトっとした顔をして口を開いた。
「おめーさ…その手の話し、ホントに好きだよな」
魔法は本当に存在したかどうか、まだ世界的には明らかにはされていない。ただ小文書に少なく記されていたり、老人達や学校の先生等に昔、魔法があったと伝えられている、とたったそれだけの話である。
じゃあ証明してみせろ、というと偉い人達は言葉を濁してしまう。
何故なら魔法を証明することができる人がいないからである。
本当に――――本当につまらない世迷い言なのである。
だからこそこの樹のような冷たい反応をする輩も少なくない。
「樹くん、それ本気で言ってる?」
「本気も何も…証明ができないもんだから信じようがねぇだろ」
少女がわかってないなこいつ、といったリアクションをしながらため息を吐いた。
「じゃあ聞くけど、樹くんは魔法のことはどれだけ知ってる?」
「あ?…そんなもん学校で習ったとおり科学では証明できない事柄のことだろ。オメーがさっき言った空飛んだりとかビーム出したりとか」
「なんだわかってるじゃん。樹くんバカだと思ってたから心配したよ」
「んだとこのクソアマ」
「じゃあ樹くんはただロマンがないだけなのかな?だって素敵じゃない、魔法」
「魔法さえあれば、人間は世界の全てを手に入れることもできるかも知れないんだから」