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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

復讐のセレナード

作者: くろい

※少年に対する性的描写をちょっと書いちゃったので、苦手な方はご遠慮下さい。

それと微妙なところでたぶん終わってますので、読んだ後にここで終わるなってツッコミは歓迎です。



 はじめまして。わたくし、エイリア・クリエーションと申します。

 若干13歳にして、当クリエーション家の当主候補と申しますが、若輩者にて多々ご迷惑をおかけするかもしれませんが、お気になららずお付き


合いくださいませ・・・・・・・。


 とまぁ、何となく言い訳は置いておきまして。

 現在わたくしの置かれた状況を整理させていただきたいと思います。


 先ほどから、従者であるケインとわたくしのお付の侍女であるカリナが、真っ青な顔をしてこちらを見ています。


 現実を突きつけられた瞬間に、何故か頭の中にわたくしが今まで知りえなかった記憶と、現実で頭の中が混乱しております。


 仕方ありませんわ。今までが今までだったけに。


「お嬢様?」


 ケインが固まったわたくしに気を使うように、声をかけてくれます。

 そうでしたわね。貴方はこういう時には頼りになる青年でした。わたくしより2歳年上なだけなのに、色々苦労をかけましたわ。


「大丈夫で、すわ」


 そう大丈夫な状況ではないのですが、大丈夫と言い切れないわけではないです。

 思い出した知識が、何とかわたくしを支えてくれます。

 今、思い出したことがすべてとは限りませんが、ここで選択肢を間違えなければ、未来は【いのち】は救われるそう信じています。


 たった今、失われた【いのち】を知ったとしても・・・・・・・


「大丈夫。とにかく現状を把握して、お父様とお母様の状況を確認、そして・・・・・・・・あの子を助けます」


「「はいっ!」」


 従者と侍女の返事が今まで以上に心強いと感じたことはありません。

 ええ、助けますとも。

 でなければ、破滅への扉を開くことになります。





*********************



 状況を説明せずに失礼しました。

 と言っても、自分に説明するためにこうやってまとめているだけですので、誰に謝っているんだろうとかそういう問題ではないですが。


 とにかく、落ち着け自分。


 エイリア。貴女がしっかりしなくてどうする。

 その為の記憶でしょう。その為にここにいるのですきっと。


「まずは、その話は間違いないのですわね?」


「はいっ!公爵様も奥様も既に絶命、護衛に当たっていた我が兄ヘストも絶命、他にいた護衛も全滅に近い状態でしたが、弟君の遺体はどこにも存


在しなかったとの報告です。」


「生き延びたものは?」


「テトルが辛うじて、現在証人として騎士団治療室にて治療中。意識が戻り次第状況を確認中でございます」


 生き延びたのがテトルだけとは。彼は護衛として今日はじめて公爵夫妻と弟のイオが領地に戻る馬車の護衛をしていたはずだ。

 巻き込まれて申し訳ないことをしたが、これから彼は伸びる。

 イオが生き延びた場合、彼ほど味方になるものはないだろう。


「わかりました、最優先はテトルの回復。そして、イオの探索です」


「了解しました」


 現状を把握しなくてはいけません。父と母は今日、弟のイオを連れて、領地に戻る予定で旅立ちました。

 わたくしは今年より王都にある学園に通っているためにこちらに残ったのが、事件に巻き込まれなくて済んだという結果になっています。

 弟のイオも12歳になれば、こちらから学園に通うことになるのですが、今は両親と共に領地で普段は過ごしているのです。

 社交シーズンが終わったこの時期に、3人が移動するのは当たり前の行動で、それゆえに警戒して護衛をいつも以上に増やしたのです。

 それでも、助からなかった【いのち】。


 わたくしが記憶を取り戻せば、救えたかもしれない【いのち】だけど、今ならたったひとりの弟を助けることが可能なのです。


「急がないと・・・・・・」


 そう、お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、わたくしこの度前世の記憶を取り戻しました。

 と言っても詳しいことは覚えてないのですが。

 少々、いやかなりのオタク人生だったという記憶が脳裏を過ぎってますが、簡単にまとめていいでしょうか。

 アラフォーに近づいた頃に、ふとやってみようかなとはじめた乙女ゲームというものがありました。

 三十路になった時点でそろそろそっちの世界からは足を洗っていたのです。

 年に二回の祭典に連続7回受かった後、当選しなかった結果というのとまぁさすがに落ち着こうと思った結果、そちらの世界からは一歩下がって


、まぁそれでも創作よりも見てる側に移っただけとも言います。

 そしてあまり興味もなかった乙女ゲームをやろうとしたきっかけ、まぁぶっちゃけ絵柄です。

 声優さんもそれなりに素敵な方が使われていたらしいのですが、前線から後退した前世のわたくしにはそれほど価値はなく、たまたま目に付いた


ゲームというそんな理由ではじめたゲームでした。


 何故はじめたかというと、簡単です。RPGという見出しにときめいたのです。

 レベル上げて魔王を倒して来いとかそういうノリではありませんでした。

 どちかというと、アイテムを集めて売ったり生産して遊ぶ系と言えばいいのでしょうか。

 もちろん乙女ゲームなので攻略者さんたちは、その生産したアイテムで口説き落としたり、一緒に冒険したりする仲間だったりします。

 どちかというとそういう風なゲームが好きだったので、面白そうと思ったのがきっかけ。


 そしてわたくしエイリア・クリエーションはその世界では、悪役令嬢と呼ばれる枠組みに属していました。


 そもそも生産性のゲームで悪役が必要だった理由というのが、この王国は侵略されかかっていました。

 ふたつの強国に挟まれたこの国というのも特殊な理由です。

 昔のえらいひとが、ふたつの強国が喧嘩しないように、間に小さな国を作って中立という名をこの国に求めたからです。

 どちらかがこちらに軍を派遣すれば、もう片方も出してくるようなそんな場を用意した意味がよくわからないですが、いざとなったらこの国は戦


場となります。

 そうならないように、代々両方の国から王子様やら、皇女様がこちらに嫁いではこの国の人柱として存在したのです。


 そして現在、伝統が破られようとしています。


 父であるクリエーション公爵が狙われた理由。それはふたつの国のうち帝国と呼ばれる方に近い領地でいざこざが起きているせいです。

 そう、昨年領地内にとっても素敵な鉱山が見つかった、そのために。

 帝国がそこは自分の領土だと主張したからに違いありません。


 近年、鉱山はいくつもありましたが、クリエーション公爵で見つかったものは他に見ないすばらしいものでした。

 今まで価値がないとされた石炭に、これほどの莫大な利益を生み出すことが可能とは、誰しも思っていなかったのです。

 石炭を燃料とする技術が発展するなどと、近年まで誰も考えなかったのです。

 お陰でクリエーション家はそれなりの富を我が国にもたらすことになりました。

 だけど、それは帝国の野心に火を付けるには十分な理由だったのです。


 そしてこの乙女ゲームですが、石炭による技術が発明され、蒸気機関車やら、蒸気船などの相次いだ発明。ふたつの国を挟んだわが国は、その中


継ポイントとして冒険者を集め、貿易拠点となりました。

 主人公である人物はそんな貿易拠点である王都で、小さな店を営むことからはじまります。

 時には自らの足で冒険者としてアイテムを集めたり、ギルドの仕事としてモンスターを退治したり。

 もちろんひとりでは怖い場所には護衛として誰かを誘うことができます。


 その護衛として選ばれるのが、乙女ゲームでいう攻略者たちです。


 ぶっちゃけ恋愛ものとか入れなければもっと楽しいゲームだったよなとか思わずにはいられないぐらい、緊迫した状況とかも出てくるのでそれな


りに楽しんだ記憶があります。が、全ての内容を把握してない時点で、それなりにしか遊んでないのでしょう。

 ぶっちゃけ全員攻略した記憶はございません。


 しかし、エイリアとしての必要な知識はあるのです。

 そう、たった一人の弟であるイオが生きて攻略者となる理由がわたくしの知識にあるのです。


「探さないと、イオを・・・・・・」


 このまま放置したら彼の人生はめちゃくちゃです。

 彼は今10歳、そしてヒロインと出会う時には15歳。そう5年の間、記憶を奪われ屈辱の限りを身体に刻まれ、彼は奴隷にまで身を落としてい


るのですから。


 記憶を奪うなど簡単に言いましたが、それが可能なのです。そうこの世界はそれなりに石炭やらなにやらエネルギー事情がありますが、ギルドや


らモンスターなどという単語が出てお分かりでしょうが、それなりにファンタジーなのです。

 つまり魔法も利用可能ということ。

 彼は魔法により記憶を封じられます。

 そして、奴隷に身を落とし、偶然ヒロインに拾われるのです。今にも死にそうな美少年が、道の真ん中に落ちていたら拾うでしょう?

 わたくしだって拾ってしまいます。


 奴隷として買われた商人が、山賊に襲われたときに生き延びた設定が前向きなものです。

 運よく生き延びた彼は全身傷だらけで、その胸には奴隷の刻印。

 重症だったイオをヒロインは懸命に癒すことにより、心を開いていく。

 まぁ定番なのかはわかりませんが、とあるキーワードで奴隷の印も外れて記憶が戻るという設定でしたわ。

 ええ、その原因がわたくしの死という素敵なキーワードです。


 クリエーション家が絶滅したらその刻印が消えるという、素敵なおまけつきな設定。

 実は、記憶をなくしたイオを暗殺者として育てた帝国貴族は、行き倒れの哀れな少年として彼をこの国に送り込むのです。

 どれだけ我が家が帝国に睨まれていたかわかる設定ですわね。

 代々守ってきた土地を手放さず、外交手段の全てを使って遮ってきた我が家でしたもの。あちらからしてみたら、目の上のたんこぶだったのでし


ょう。悪徳の限りを尽くして土地を治めていたなんてことはないのですよ?

 我が家は代々、帝国からこの国を守る盾としてあの土地を守っていたのですから。


 そして後を継いだエイリアもその意思を守るのです。

 その為なら何でもしました。たとえ悪徳といわれてもです。何せ13歳でこの国の盾になることを決めたのです。それなりの覚悟がなければダメ


ですわよね?


 そうそう、このゲームは王都でアイテム作りやらなにやら攻略者との恋愛など好感度を上げていくと、それなりにヒロインの発言力が上がってい


きます。そして政治関与すらできるぐらいのヒロインのパラメーターが上がると、外交問題という素敵なシナリオも発生するのです。

 もちろん、攻略者であるイオを攻略するためにはこの問題は解決しないといけないのですが、中途半端に口出ししてくると、ヒロインが提案する


帝国との和平は、石炭の帝国への提供及び侵略としかいいようのないものになります。

 戦争がさけられるからと、そんな理由で手放すことなどできません。

 ある程度の選択肢を積み上げなければ、ほぼヒロインが起こす過ちとして悲惨なものとなるのです。

 つまり邪魔立てするわたくしが悪女ということになり、結果的には屋敷ものとも燃えて消えると、そしてイオの封印が解かれ・・・まぁ発狂してエ


ンドですわね。うん、酷いわこれ。


 ちなみにイオ攻略に向かわないと、どっちみちわたくしは殺されます。どの攻略に向かおうとも、クリエーション公爵家を帝国が倒すと決めてい


るのですから。

 唯一の救いはイオを攻略することなのですから。

 

 だけど、ねぇ?今、連れ去られているイオに奴隷の刻印をすることなどこの国ではできません。

 一旦、帝国に連れ去られないといけないのです。


 そして、イオを助けるのは・・・・・・・


「あの子を助けなければ、意味がない」


 その為の知識があることに感謝せねばいけません。

 わたくしは彼を助けたい、助けなければわたくしが彼の剣によって死にます。

 だけど、最悪の場合でもいいのです。彼と共に死ねるのなら。それは残酷ですが自分なりに納得できる運命なのではないでしょうか。

 その後彼が発狂して、この屋敷を火の海に沈め自らも命を絶つとしても。

 最愛の弟の手にかかるのなら。


 それでも、今足掻けるなら足掻きたい。助けたいのです。


「ケイン、残った屋敷にいる全ての使用人を集めなさい」


「はいっ!」


「カリナ、わたくしも出陣します。用意を」


「はいっ!」


 慌しく準備が始まります。まずは彼の救出を、その後はこの国を守るためにいざ出陣です。





*********************




「お嬢様!全員ここに!」


 王都にあるクリエーション公爵家の屋敷に仕えるすべての使用人が集まっています。

 わたくしは広間に集まった全員の顔を見渡すと、決意を込めて頷きました。


「わたくしがこれより、この家の家長になります。お父様の後任許可は下りていませんが、一刻も争う事態なのは皆さんもお分かりかと思います。



 わたくしが着替えている間にケインが説明してあるのだろう、全員が一同に頷きます。

 ここに集まっているのは、わたくしの護衛として残った護衛をはじめ、執事、侍女、メイド、料理人、庭師、など全ての使用人です。

 ええ、使用人を集めて人探し?無理とか思わないで下さいませ。

 なにせ、ここに集ったのはクリエーション家の使用人なのですから。

 確かにお父様たちについていった護衛たちもそれなりに強いものたちばかりでした。

 ケインの兄へストなど近衛隊のホープとして期待されていたのにも関わらず、我が家に就職した変わり者としても有名なぐらいに。


「相手は、お父様達の護衛たちをすべて倒すほどの実力者が交ざっています。どんな罠を使ったのかはテトルの意識が戻らなければわかりません。


それでも、あの子を連れ戻さねばなりません。これから連れ去った可能性が高い場所を重点に罠をしかけます。」


 そう伝えると、カリナがホワイトボードに地図を貼り付けて持って来ました。


「まずは、暗殺を計画した首謀者は間違いなく帝国側でしょう」


 わたくしの説明に皆さんは息を呑みます。


「そう見せかけて王国側というのはないのでしょうか?」


 執事であるじいやが、質問してきますが、わたくしは頭を振ります。


「ありえませんわ。デミリットの方が高いですわ。帝国に野心を持たれてから、王国の方に安めに提供していますもの。戦争を起こすぐらいなら帝


国よりもちょっと安い価格で購入できる方がメリットが高いと思いますわよ」


 面している領土と反対側の領土を手に入れる意味がお隣さんにはないのですから。


「戦争したいわけでないのですよ。ただ利益を奪い取りたいだけ、クリエーション家から巻き上げることができないなら、帝国よりの貴族にこの領


地を与えて、利益をとりたいそんなところでしょう。」


「イオ様は・・・・・・?」


「人質でしょうね」


 13歳の娘に何ができるのかと高を括っているのでしょう。


「わたくしが帝国に靡かなかった場合、人質もしくはもっと最悪なことになるかもしれません。今の内にあの子を助けたいのです」


 だからこそ、今わたくしが動く必要があります。小娘ひとりが足掻いても弟を助けられるとは思っていないのでしょうし。


「時間がありません。カリナ率いる侍女及び、メイドの皆さん、町人に扮装し情報を仕入れて。出来たらあちらの王国側とこの王都周辺に。帝国側


には、騎士様に協力して何人か回って。庭師、厨房の皆さんはカリナたちの情報を元に徹底的に調べ上げて。じいやはテトルの様子を見に行って、


ケインと残ったものは私に続きなさい。」


「「「「はっ!!!」」」」


 そう、我が家はこの国の盾。裏も表もこの国を守るためにある。だからこそ、ただの使用人を雇っているわけではないのです。

 お父様達の護衛は確かに強い者ばかり集めました。そして敗北しました。ならば、こちらはそれ以上の戦力を持って叩き潰すのみです。


「相手は20人ほどの護衛とお父様たちを倒せるほどの手だれ、油断はしないように。そして、クリエーション公爵家の恐ろしさを身をもって教え


て差し上げなさい!」


「「「「「御意!」」」」」


 こうして、わたくしは全力で叩き潰すことにしますわ。

 戦闘服に身を包んだ令嬢なんて、私ぐらいでしょうね。騎士としての正装をしながら、わたくしは用意してもらった愛馬に跨ります。


 ふふふ、乙女ゲームで最大の敵だったわたくしが、これぐらいのこと簡単ですわ。

 何故わたくしがヒロインと敵対したか、お分かりになります?

 くだらない嫉妬などではありませんのよ?


 あのヒロイン、天然なのをいいことに好き勝手狩場を荒らし、外交問題に首を突っ込み、怪しげなアイテムを作っては市中に出まわすとか、あり


えないわ。大体、戦争勃発しそうな時にすさまじい効果のダイナマイトなんて作られてもみなさい?凄まじい効果の回復剤やら、毒薬やら、あちこ


ちに売りさばいてごらんなさい?どういう結果になるかお分かりよね?


 そんな危険なのも冒険に使うからよろしくーって言われてほいほい作られてはたまりません。

 それも友達感覚でぽいぽい売られてみてくださいな。刺したくなりますわよね。


 大体あんな小さな店でそんな取引がされているなんて、思わなかったのも問題ありますが、庇ってたのも問題なのですよ?

 協力なアイテムを作り出す頃には、攻略者たちの好感度は鰻上りですからね。

 庇ってくれる人も現れるわけです。


 まぁ実際には怪しげな人にそういうものを売りつけると、わたくしが出てきて邪魔をしてきたり、売りすぎると国が滅ぶとか・・・あるのですよ。


本気で。

 ただ、そういうアイテムはとてもお高いので、彼女が目指すエンディングによってはたくさん作って売りさばく必要があります。

 そう、彼女が魔王になって世界を滅ぼすというエンディングが見たいならば。

 魔王エンドというのは、乙女ゲームの定番逆ハーレムエンドとも言います。つまり攻略者全員を手に入れたら、ついでに魔王として君臨しちゃっ


た。みたいな。とんでもないと思いませんか?



 ええ、全てのフラグ落として差し上げますわ。まずは、うちの大事な弟を返却してもらいますわよ?







*********************






 ああ、どうして気づかなかったのでしょう。

 わたくしは全力でお父様たちの敵討ちと、弟の奪回のために翻弄し、後もう少しのところまでやってきました。

 事件現場の検証が終わったとき、可能性をひとつ思い出してしまったのです。


 お父様達の【いのち】が危険なことはわかっていたのに、相手方にまさか魔道士を使うなど考えていませんでした。

 何故かと聴かれれば簡単です。

 魔道士と呼ばれたものが極端に少ないからです。

 暗殺に組するような外道魔道士など衰退してしまったのが現状です。

 ある程度魔法が使えるものならば、魔道協会に属さないといけません。そう、魔法は許可制なのです。


 ヒロインがダイナマイトなどを製作できるのは、魔道協会でそれなりの地位を築いてその本を閲覧する必要があります。

 そこにもひとりの攻略者がいるのですが、そこは今は省きます。

 つまり、そういう許可がないとそれなりのアイテムは作れないのです。そして魔法も許可が必要なのです。まぁ時代と言えば時代なのでしょう。

 昔は魔道士が許可なくばんばん魔法を使って、ひとつの国を滅ぼした事実もあるらしいので。


 魔法が扱えるものは、その手に契約の腕輪を使用することが義務付けられています。それを外すことは許されません。魔法を使った規模などを記


録するそのマジックアイテムは外しらすぐに暗殺者が放たれます。

 これを回避するには、魔道協会での申請が必要となってきます。一応例外も認めてくれるそうですし。

 例えば誘拐されて、腕輪を外されたとか、酔っ払って道端で寝てたら誰かに奪われたとか。自分では予期せぬ出来事の場合に限り、罰金と始末書


と監禁刑が待っています。誘拐の場合は、故意的じゃないと判断された場合にかぎり始末書だけという事例もあるらしいですけどね。


 そしてこれが一番大切なのですが、魔道協会に属さないということは魔法を覚えることができないということなのです。

 魔道書や、必要なアイテムすら購入できません。この周囲にある全ての国で協定を結んでいる機関である魔道協会から外れて魔法を使うことが許


されないのです。

 それなのに相手は魔法を使った。そしてそれが使える相手をひとりだけ心当たりがあるのです。イオを誘拐し、記憶を失わせることが可能な人物


で、お父様たちを攻撃魔法で葬ることが可能。

 そんな人物はたったひとりしかいません。


 本当に思い出してよかった。じゃなければ、記憶がなければわたくしが倒せる相手でもありません。


 先ほどヒロインが魔王エンドを迎えると言いました。そう、この世界には魔王という概念があるのです。

 そして現在、魔王と名乗っているものがいます。

 彼は隠れキャラとして有名でしたが、まさか黒幕だったなんて思いもしませんでした。

 そもそも、前世の記憶のないわたくしなら魔法が使われた時点で調べても誰一人該当者を見つけられないのですから。

 まさかこの時点で関わっていたなんて思いもしませんでした。


 そう彼が介入していたからこそ、こんなことになったのでしょう。

 ぶっちゃけいいですか?めんどくさかったので、隠れキャラまで攻略してないんです!

 先行きちょっと不安になってきました。 


 確か落としたのは、幼馴染とこの国の王子ぐらいかな。イオも落としたかったんだけど、ハッピーエンドがすっごい難度が高すぎて攻略サイトに


噛り付きながら必死にやった記憶があります。たぶんイオを落とした時点で、この世界の裏側が見えるので最後にとっておけという政策側の目論見


だったのでしょう。

 選択肢1つ間違えられず、パラメーターもほぼマックスキャラってイオぐらいじゃなかったかな。

 そこまでやって思い出したのが、確か必死にプリンセスになろうとしてパラメーター上げたのに、何故か女王になったときの脱力感。どこで間違


えたんだろうとか、あったなぁとか、イオ攻略してて思った記憶が蘇ってきました。

 方向性変えたら、側室とか、宰相とか・・・・・・いやいろんな職業に就けるのは楽しかったけどプリンセスだけにはなれなかった!

 いや、今はそんな話じゃない。とにかくだ、隠れキャラの問題を片付けないといけませんでした。


 報告と、結果を見ながら次に動くべきは王国への街道閉鎖ですわね。帝国側にも一応閉鎖しますが、わたくしから逃れることはできませんわよ。


 ひとつだけわかっていることがあるのです。そう、彼らの奇襲は魔王様の力があったからこそ、そして彼の力は1度しか借りれないこと。

 この理由は簡単です。20人もの人々を惨殺できるような魔法を使えば彼の封印が強化されるからです。

 そう、魔王様は現在封印中。それを解く鍵はヒロインが持っています。

 だが、たまに息抜きとばかりに封印が弱まった瞬間に下界に出てくるときがあるのです。そして帝国側となんらかの取引をした。そう考えていい


でしょう。そして記憶に残るのは、帝国の末の姫君が行方知れずになった時期が確かこのぐらいじゃなかったかと。

 そしてイラストだけは見たことがある、魔王様とピンクの子猫。

 ネタバレサイトは見てないけど、攻略サイトのTOPにランダムで表示されているイラストで見かけた光景。

 




 つまり魔王様はロリコンと。






 いや違った。とにかく、イオを助けるために一応魔王様の存在は考慮するべきと。







*********************






 がたごと揺れる振動と、腹部の痛みでうめき声が出る。

 それでも僕は現状を把握するために必死になっていた。


 両親が目の前で焼き殺されたのを目の辺りにし、その恐怖で腰が抜けてしまったという失態。

 10歳の子供であったから仕方がないと、誰も慰めてはくれないだろう。

 されたくもないけど。


 自分が人質としてその後連れ去られたのはわかっていた。

 どこへ向かうのかも、男たちの会話から聞き取れた。


 両親の敵である魔道士は既にこの場にはいない。

 意識を失わないように必死だった間に、男たちとは別れたのを確かに聞いた。

 僕を油断させるためじゃないのは明らかだし、第一捕まって縄で縛られ袋詰めにされている子供がそれで逃げ出すとは思ってないのだろう。


 一応油断はしてくれていると判断して、現状を何とか把握しようと必死になることしかできない。

 助けがこの状況で来るのか、来てくれるのか、判断はできないし自力で逃げ出すことも不可能に近い。

 近いけど・・・・・・・・・


 たったひとりの姉の顔が浮かぶ。

 希望はそれだけ。それだけだけど、今出きる精一杯のことを僕はしなければいけない。


 こう見えてもクリエーション家の男児として生まれたのだ。できる事があるかもしれない。

 空しい抵抗かもしれないけど、それでも。


(姉さま・・・・・・)


 助けて欲しいなんて言えない。言えないけど、今すぐ会いたい。会えるならどんなことでもしよう。

 そう心に言い聞かせて、僕は周囲を伺うことにした。


 覚悟を決めていると、僕らを乗せていた馬車が止まった。

 男たちの話をしていた内容によると、王国へと移動しているようだった。

 帝国へ連れ去る前に王国で下準備があるのだとか。


 がさごそと音がする中、聞きなれない声がする。

 今まで居なかったはずの声。それは女性の声に違いない。


「あんたたちかい。私に頼みたいというやからは」


「ああ、とびっきりの上玉なんでな。あんたなら調教できるだろ?」


「まったく物好きもいたもんだ。それでどれだね」


 そんな会話の最中に、僕の身体は中を浮く。

 一体何が起きるんだろうとか不思議に思いながら、ぎゅっと目を閉じる。

 まだ目覚めていない装いをした方がいい、そう判断したからで。


「こいつだ」


 袋が開かれたのがわかる。そして、僕を嫌な視線が嘗め回すように見ているのを感じた。


「これは確かに上玉だわ」


「自分が売られたのすらわかってない状況なんだが、ある程度楽しめる身体にしてくれ」


「へいへい、代金は高いわよ?」


「わかっている」


 何の話かはわからない。それでもここで一旦降ろされて、この女の元に預けられるようだ。


「様子を見ていても?」


「あんたも物好きだね。構わないさ。仕上げにあんたが調整してもいい」


 金貨の音がして、僕は乱暴にどこかに運ばれる。男の肩に担がれている状況なので、うっすら目を開くと暗い廊下と誰かの足元だけが見えた。

 それなりに広い建物なのだろう。薄暗いけど時折見える家具はそれなりのものを使っているようだ。

 タイル張りの床も、光り輝いていて掃除も行き届いているように見える。


(どこなんだここ・・・・・・)


 担がれながらばれないように、逃げれるポイントを探すががっちり押さえつけられている状況と足音でまだ周囲に3,4人の人間がいることがわ


かる。


 まだ逃げられない。そう思わせるには十分で。もう少し様子をと思っているうちに、どこかの部屋の中に入った。


「そこに置いておくれ」


「ああ」


 女の言葉を合図に、僕はちょっと固めなベッドに置かれた。


「気づいているかい?」


 顔を覗き込んだ女を僕は視線に捕らえた。


「・・・・・・・・・っ!!!」


 驚きで声が出ない。

 仮面をつけた赤い口紅の女が妖艶な笑みでこちらを見下ろしていた。


「この坊ちゃん、声を封じてあるのかい?」


「ええ、騒がれても困るんでな」


「まぁそうだろうよ」


 声封じの魔法を使われているとは気づかなかったけど、そういえば先ほどから声が漏れはしなかった。


「まぁ声を出した方が、調教具合がわかりやすいんだが、急いでるんだろ?」


「ああ、できる限り早く仕込みたい」


「まったくあんたを気に入った飼い主は、よほどなのかい。気の毒だが遠慮せずやらせてもらうわ」


 そう呟くように女が言うと、サイドテーブルに置かれていた小さな小瓶を手に取る。


「はじめてだろうし、痛いってのは本能で覚えちまうとねなかなか抜けないからね。まずは快楽を覚えるといい。まぁ中には痛みを快楽としたい奴


もいるだろうが、最初は誰だって初心者だ、優しくしてあげるわ」


 抵抗できない僕の口にその小瓶を押し込む。するとぬるっとした甘い液体が僕の口の中に・・・・・・

 本能的に飲んではいけないとわかるのに、口を塞がれ息が止まる。咽るように飲み込んだ液体。


「初心者向けの即効性じゃないやつだからね。優しくしてあげるわ。最初はね」


 次に取り出したのはナイフ。

 じりじりと手を拘束している縄以外のものを僕の身体から剥ぎ取っていく。


「うん、身体も綺麗だし高値で売れるわねこれは」


 じわりと身体がうずく感覚に、感じたことのない下半身が揺さぶられる。

 何が起きたのだろう。信じられない感覚に、僕は自分の身体のコントロールを失いかけていた。


「た、大変ですっ!!!」


 いきなりドアが開かれ、焦った男が部屋に乱入してきた。


「どうしたんだい?」


「お役人が、こちらに!」


「・・・・・・・・・何があった?」


 緊張した空気が流れる間に、僕は状況を掴みたいのに頭が熱で浮かされるようになってきた。


(姉さま・・・助けて)


 意識が薄れそうになるのを必死に堪えて、自分の身体がどうなったのかも理解できずに瞳から何かが流れたのを感じた。

 両親が目の前で死んだ時も、流れなかった涙が生理現象で落ちているなど僕にはわからない。


「仕方ない。あんたたちはここで身を潜めてな」


 慌てて出て行く女を視線に捕らえたまま、男たちの反応を見た。


「やばいかもな」


「こいつどうする?」


「足手まといだ」


「まぁこれほど早くこちらの動きがわかるとは、他に切れ者がいたってことか?」


 何の話だろう?わからないまま、僕は荒い呼吸と生理的現象の涙を浮かべる。

 こんな情けない姿を誰かに見られているなんて、屈辱に耐え切れない。

 それでも最低限のことをしなければと、熱に浮かされた頭の隅が訴えてくる。


「仕方ねぇずらかるぞ」


 そして、男たちは僕のことを振り返りもせずこの場から居なくなった。

 一人残された僕と、遠くから聞こえてくる足跡。



 

 そして、ばたんと開かれたドアを開いたのは・・・・・・



 その顔を見た瞬間、僕の意識は闇に閉ざされた。

 







*********************





 報告を受けて急いで向かった先に、拘束されて何も見につけていない弟を発見しました。

 ええ、生きてくれてよかった。


 危機一髪だったのが、イオの様子でわかります。

 切り裂かれた衣類。真っ赤になっている身体。

 前世の知識によると、三日三晩薬で犯されありとあらゆる快楽を身体に覚えさせるでしたっけ。

 この妓楼は、それなりに格式のあるお店ではありましたが、特に有名なのがその調教と呼べるしつけの仕方。

 一部には大人気のそれを、短期間で終わらせることが出来るのはここの特徴です。


 イオの心を怖し、わたくしを殺すコマとして調教する前提でこちらに送り込んだのでしょう。

 まったく悪趣味もいいところです。


「イオ、無事でよかった」


 解毒剤を無理やり飲ませたお陰で、身体の刺激も収まったことでしょう。

 この子にどれだけの傷をつければ気が済むというのですか。

 両親を目の前で殺し、身体も心も壊そうとした相手をわたくしは許しません。


「・・・・・・・・・姉さま?」


 救出された時に、見知った顔であるケインを見た瞬間に意識を失ったそうです。

 ずっと気を張っていたのでしょう。あんな薬を飲まされた後だというのに、自我を必死に残していたのだから。


「気づきましたか?姉さまですよ?イオ、痛いところはありませんか?」


「ないです。姉さま?本当に姉さま?」


「ええ、貴方のたった一人の姉を忘れたのですか?」


「本当に本当?」


「ええ、本当に本当ですわ」


 ああ、もう可愛すぎですわ。イオは。


「申し訳ありませんでしたっ!!」


 そうね、謝ってしまえるのも貴方のいいところよ。だけど、忘れないで。


「いいえ、父様、母様のことは仕方ありません。相手が悪かったのですわ」


「僕がもっと強かったら、強かったらっ!!」


 泣きじゃくるイオを優しく包み込みながら、何故わたくしを狙わなかったのかと憤りを感じずにはいられませんでした。

 幼い子供をここまで傷つけて、何が楽しいゲームでしょうか。

 傷を負った未来のこの子を見たくない。

 そのためにならわたくし何でもする覚悟ですわよ?


「貴方が強いのは父様も母様も知っていましたわ。ただ、失いたくなくて貴方を守ったのでしょう?おふたりは?」


 燃えた馬車、黒こげになった母の顔が穏やかだったのは、奪われてもイオが無事だというのを物語っていました。

 【いのち】さえ無事ならわたくしが助けてくれるそう信じていた顔でしたわ。


「それに応えられなかったら、わたくしの方こそ酷い女ですわ。貴方を守れなかったら、わたくしはどこまでも堕ちたでしょう」


 悪徳の限りを尽くした悪女として、後世に残ったに違いありません。

 イオを守れなかったことで、何かが外れてしまったわたくしは、国のためにならどんな汚いことでも率先してやったことでしょう。

 ヒロインを殺すという選択肢すらあったのですから。


「姉さまは酷くない。姉さまが・・・・・・・・・」


「いいですね、イオ。わたくしたちは弱い。それは覚えておきなさい。そして、わたくしたちは強くなろうと足掻くことができますわ」


「はいっ!姉さまっ!」





 一緒に強くなりましょう。イオ。そして、お父様達の敵を討つのです。

 それまでにしなければならないことがたくさんありますが、それはまた違う話かもしれません。





おわり。


それでは、勢いで書いてみましたが、何でコメディにならないんだろうと不思議に思ってます。自分的にはシリアス向いてないと思ってます。うん。

最後まで読んでくれてありがとうございましたー!書き逃げでごめんなさーーーいっ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信ありがとうございます。 違うものになるとしても読んでみたいなあと思います。 その気になった時でいいのでお願いします。
[気になる点] つづき、つづき、続きを! 続きを投稿して下さーい!! 続きが読みたいんです、お願いします!!!!
[一言] このお話(+続編)大好きだったんですが、続編の復活は無理でしょうか? あの終わり方がとっても好きなんですが。
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