表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンカーネート!  作者: 藍部 拓
3/3

グレステイン

 外見というものは多かれ少なかれ人の中身を映し出す。その逆もまたしかりで外見に中身が引っ張られることもあるのだろうと最近思うようになった。


 この世界に生まれ落ちてそろそろ十年の月日が経つのだが、私は自分でも驚くほど好奇心旺盛だった。


 前世では集中型というか没頭型というか、何か興味のあるものを見つけるとそれにのめり込んでしまうタイプだったのだが、今の私は欲張りなようだ。あれもこれもと目新しい物珍しい物に直ぐ興味を示してしまう。


 子供のように手に入ったらぽいと捨ててしまえるのなら良かったのだが、そこは日本人の名残か『もったいない』が出てしまい、妙な収集癖が付きつつあった。


 そのため私の部屋はちょっとした博物館状態である。(母はがらくた置き場と言っているが)



 杖を持つことを許されてから三年、私は全七段階ある魔法クラスの三番目『トリオ』を修めるに至った。トリオは一般的な貴族の魔法クラスであり、十歳で辿り着けるのはとても優秀な部類らしく、母がすごく喜んでくれた。

 

 神童だと持ち上げてくれるのは気恥ずかしくも誇らしいが、ズルをしているような気がして申し訳なくもあった。



 母の喜びようは一入で、実家のグレステイン伯爵まで届いたらしく、次兄の王国竜騎士隊への入隊と私の修学を祝うためにグレステイン家までお呼ばれになる事となった。そのためブロワ一家は馬車に揺られ一路南へと向かっていく。


「ユベール。」


「…………はい、なんでしょう父上。」


「一度胃の中を空にした方がいいんじゃないか?」


「……でしたら・・・・・・停めてください、今直ぐに。」


 これに関しては私の考えが甘かったと思うほかなかった。

 

 私は初めての旅行、それも他領に行けるとなって物凄く楽しみにしていたのだが。舗装されていない凸凹な道路と、サスペンションといった衝撃緩和装置の付いていない鉄車輪の馬車の乗り心地は、お尻は痛いわよく揺れるわと最低で、思いっきり乗り物酔いし終始青い顔をする羽目になった。

 

 グレステイン領の街に着いたらせめてクッションだけでも買おうと心に決めるのであった。


 この世界の生活水準はお世辞にも高いとは言えない。

 もちろん私の住む地域に限ったことかもしれないが、必死になってお嫁を迎え入れた父が母に苦労や恥を搔かせる訳もなく。何より数人の使用人まで雇い入れる我が家は恵まれた水準なのだろうと推察出来る。

 

 配水設備や電灯などと高尚なものはなく井戸や蝋燭といった具合。立地や需要によって電気や水が通っていないのではなく、どうやら概念が無いらしい。


 電気が動力になる事など以ての外のようで、一度父と領内を見て回った時など臼を挽く水車を「どうだ、すごいだろう。これで麦が挽けるんだぞ。」と父が話していたことがあった。


 汚物の処理などは比較的先進的で都市部には下水道が整備されている事などもあり所々にテクノロジーの息吹を感じることはあっても、前世のような科学技術と物質主義社会の訪れはずっと先のことになるだろう。





 グレステイン伯爵領最大の都市アルキアはとても大きな城塞都市であった。ブロワ男爵領を発ってから2日半程。

 

 山道を抜け急に道が良くなってきたかと思えば広大な麦畑の中に突如として高い塀が現れる、どこまでも続く塀を目指して進むと何処から湧いたとばかりに人通りが激しくなるのだ。


 がやがやと忙しない関を通ると空気が一変する、まるで前世小さな頃に毎年通った夏祭りのようである。


 広場には市が開かれ歩く場も無いほど人に埋め尽くされており。人々は無秩序に練り歩き、商人は大声で客を呼び込み、皆が楽しげに騒ぎ立てている。


 馬車の窓からは何やら香ばしい匂いが運ばれてきて、思わず喉を鳴らしてしまう。父など堪えきれないといった具合でしきりに外を確認し、くーくーと寂しげに鳴くお腹を押さえている。




 人の海を揉まれるように進んでいた我が家の馬車はようやくと伯爵邸に着いたようで、馬の嘶きと共に停車する。

 

 これでやっとこの最悪の空間から脱せると一番に馬車を降りた私であったが、その伯爵邸にはド肝を抜かれた。



 正に城。



 日本人的感覚を残す私は、異国情緒そのままに感じさせるこの邸宅が「これがこの国の国王の住まう城になります。」と誰かに言われたなら「なるほど確かに。」と頷いてしまうだろうと思われる程の権威を感じさせる。

(領主は代官ではなくその地の正統な主であり、まして制度的には連邦制のような我がミルフィーユ王国では領地の王とも呼べなくはないが)


「ようこそいらっしゃいました。アドルフ様、マリーお嬢様」


初老の如何にも執事然とした男性が私達を迎える。


「お久しぶり、ミラン。でもお嬢様は頂けないわ、私はこれでブロワ男爵様の奥様なのよ?」


母が拗ねたように言うとミランは楽しげに目を細める。父は「はっは」と笑う。


「そちらの可愛らしい幼子がユベール様ですかな?」


「えぇ、末息子のユベールよ。どう?愛らしいでしょう。これで男の子だっていうのだから困っちゃうわ。」


「実に。はて、マリー様の第三子は女の子であったかと首を傾げておったところです。」


「ほらユベール、マリーの教師役だったミラン老だ。挨拶なさい。」


「はい父上、お初にお目にかかりますミラン様。アドルフ・ド・ブロワの三男、ユベールと申します。」


「これはご丁寧に。私はミラン・ド・フォルティーヌ。以前マリー様のお世話をさせていただいておりましたしがない執事にございます。どうぞ様など付けずに唯のミランとお呼びください。」


 ミランはそう言って右手を胸に当てお辞儀をする。


 私のような男爵家といえども田舎貴族の三男に向けるには、些か大仰とも取れる礼を尽くしたお辞儀である。「で、ではミラン老とお呼びさせていただきます。」と返すと「光栄ですな。」と嬉しそうに立派な髭を扱く。如何にも好々爺だ。


「ささ、アルベール様がお待ちですので、どうぞ中に。」


そうして邸門を通される。何はともあれ今日は私の今世で十の誕生会である。


毎週水曜更新とは一体・・・年始は今よりもっと忙しいので更に更新遅くなるかもです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ