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リンカーネート!  作者: 藍部 拓
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魔法

 どうやら私は生まれ変わってしまったらしい。


 初めこそ戸惑い驚きもしたが半年もたてばすっかり現状を受け入れてしまう。


 赤子故に乳をのみ、排せつ物を垂れ流してしまう事にも慣れた。否、慣れざるを得なかった。


 もし全ての幼児が私のように前世の記憶を持ったまま生まれるというなら、事あるごとに泣き喚くのも仕方ない。


 それは意思表示手段が少ないないからという理由ではない。


 排泄も食事も全て誰かに頼らなければならない事が堪らなく恥ずかしいのだ。


 さて、ヒンドゥーでも仏門でも無い私が文字通り身も心も新たに生まれたこの場所はミルフィーユ王国という三方を海に囲まれた小さな国の南西部にあるブロワ男爵領。

 ミールというこれまた小さな町を中心に周辺三つの農村をまとめた小さな小さな領地である。


 父の名はアドルフ・ド・ブロワ、男爵である。つまりここブロワ領の領主様ということだ。


 元々は無領の士爵(騎士)家だったそうだが、隣国との同盟・敵国との戦争において大きな功績を上げたことで男爵位を戴いたそうである。


 どうも母の方がずっと身分の高い家の出身で、男爵以上でないと結婚の申し込みさえできなかったという裏事情があるらしく。

 当時敵対していた大国の脅威という国家の危機を好機と捉え、爵位欲しさに奔走したのだとか。


 何とも泥臭い話だが、それで隣国と対等の同盟を結び大国との衝突を最小限に押さえ戦場を駆け巡った挙句、嫁まで得ているのだから実に出来る男である。


 今世では前世のような独身貴族(本当の貴族になってしまったのだから笑えない)にならないようあやかりたいものである。


 父に爵位を取ってこさせた張本人、母マリーはブロワ男爵領を南から囲むように位置するグレステイン伯爵領グレステイン家の出身だそうだ。


 優しげで物腰の柔らかい美しい女性なのだが、有無を言わせぬ「待っていますから。」の一言で父に二年で爵位を取ってこさせた挙句「待たせすぎです。」が第一声だったというのだから相当な曲者である。


 そして今、私のほほをつんつんと突きながらにこにこしている父そっくりの青年が長兄カルロ。


 長期休暇で夏の間はブロワ領に帰ってきているが、王立学術院(日本で言う所の東大)に在籍しているのだとか。次期領主たる自覚も十分な頼れる兄である。


「あーん、ほらユベール口開けて。あーん。」

 スプーンを持って私に離乳食を食べさせようとしているのが次兄ダリウス。好奇心旺盛なやんちゃ坊主である。


 よく屋敷に隣接する竜舎で竜にちょっかいを出しては父にこっぴどく叱られているのを目にする。将来は竜騎士になるのだと決めているのだとか。


 竜。そう、この生まれ変わった世界は竜どころか魔法まで存在するやたらとファンシーな世界だったのだ。

 無宗教だったせいだろうか、輪廻も巡り巡って異世界だというのだから神様仏様も大変である。


 魔法を初めて見たのは二か月ほど前で、母に連れられて父の執務室へ向かう途中であった。


 外で落ち葉を燃やそうとしていた若い使用人が火打石をかちかちと打っていたのだが一向に火花が散らず、観念したのか腰から杖を取り出して数秒、杖の先端に小さな火球が生まれたのだ。


 思わず叫んだ私に母は「どうしたの?ごはん?」と言って授乳してくれたのだが、私は火球を作り出した使用人から目が離せなかった。



 あれはなんだ!



 魔法は実に汎用性・拡張性に富んだ技術だ。


 私の知る物理法則を完全に無視している、空中から突然火球が飛び出すなど前世で科学技術発展の為に脳漿を絞った幾多の科学者技術者に真っ向から喧嘩を売っているとしか思えない。


 魔法の源は血液に溶け込んだ魔力にあるらしく、貴族と平民を隔てた最古の階級制度が魔力の有無であった。

 魔力を多く含む血統は貴いという分かりやすい構図だったそうだ。


 今でこそ魔力は万民が持つことが証明されているが、それは杖によって血液から純粋な魔力のみを取り出す事が出来るようになり、魔力総量の少ない人でも魔法が使えるようになってからだという。平均的な貴族と平民との魔力総量の差は約三倍もあるのだとか。


(初期の魔法というのは自分の体を傷つけ滴る血で方陣を描いて使用していたらしい…何ともスプラッタな時代もあったものだ。)


 魔法の使用に必要な方陣(以後魔方陣)は魔力を編む事で作られる、母が虚空に描く、淡く発光した魔方陣を見たときにはその美しさに感動したものだ。


 この魔方陣こそが魔術の根幹で、大きな力を得るためには精緻な陣を組まねばならないという。魔術の研究とは究極的に魔方陣の改良に行きつくようである。


 また魔法の行使には魔力の他に対価が必要になる。


 所謂等価交換のようなものらしく、庭先で落ち葉を燃やしていた使用人の場合は火打石が大きく欠け、母が「部屋の空気を入れ替えましょう。」と杖を振るった時には左手に持っていた艶のある羽がぼろぼろになっていた。


 ミルフィーユ王国では七つにして全知を収めたという初代ミルフィーユ王にあやかり、全国民が七歳になると同時に帯杖する権利を得る。

(杖は割と高額なので実際に所有しているのは裕福な平民と貴族だけ、要は方便なのだろう。)


 なんにせよ魔法という未知との遭遇は私の興味を一手に引き受け、前世も合わせれば計四十にもなるというのに年甲斐もなくうずうずと好奇心を湧き立てるのであった。

(´・ω・`)誤字脱字指摘おなしゃす


                  (´・ω・`)らんらん


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