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リンカーネート!  作者: 藍部 拓
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社畜

団塊の世代と通称される人々がいる。彼らは戦後復興から始まる我が国激動の時代の華として、良くも悪くも以後の社会構造に多大な影響を与えた。


その中のほんの一例に過ぎないが『企業戦士』なんてものがある。


ネーミング的に古き良き時代に生まれた偉大なアニメーション映画の香りがするが、終身雇用という世界でも稀な雇用形態から発生したそれらは、身も心も会社に捧げる当時の労働環境を端的に表した言葉となった。


登場から数十年と時を経た今日でも『社畜』などと言葉を変えながらも、慣習として強く根付いていると言える。


バブル崩壊がもたらした未曾有の不景気は雇用環境をさらに悪化させ、これまで会社の為に生きてきた忠義の戦士達を斬り捨て御免とばかりにバッサバッサと切腹命令『リストラ』を出した。


私が就職活動をしていたのは丁度その時期で、やれ何万人解雇だの、やれ破産だの、やれ夜逃げだの、やってられるかと物申したくなる大就職氷河時代である。


可能な限り人脈を使い、頭を下げ何とか食らいついた地元スーパーで、私は今雇われ店長として心血を注ぎ仕事に励んでいるのだが。

 どんなに頑張っても7時出勤11退社(8時間以上はサービス残業給与無し)365日勤務という環境のこの会社を私はスーパー戸根村という正式名称ではなく、愛と親しみを込めてセブンイレブンと呼んでいる。


(明日何しようか…)

企業戦士として日本経済を支えた勇士達の定年後の人生はポッカリ穴が開いたような空虚さを醸し出すという。


仕事こそ趣味、仕事こそ生きがい、仕事こそ人生であると考え、誇りを持って会社に奉公していたため。そこから縛られなくなると何をやればいいのかわからなくなるのだそうだ。


それが熟年離婚、アルツハイマー病の進行加速、老人の孤独死という様々な社会問題の外因を担っていたりするのだが、まぁそれは置いておく。


つまり根っからの社畜として生きる私には二年ぶりに訪れた休日をどう扱えば良いのか分からないのだ。


別段私は無趣味というわけではなく、インドアでは帆船模型や木工それに料理、アウトドアでは登山、短期大学のサークルではバブルであったことも追い風となり金の掛るハンググライダーなんかをしていることもあったのだが。如何せん入社十余年で休日が計八回という厚生労働省も真っ青なブラック企業に仕えていれば、自ずと無味無臭で立派な戦士になれるというものである。


(ビールとつまみ、あと今日はラーメンでいいかな。)

独身貴族という悲しい現実に涙しながら「電気よし。」「窓よし。」「鍵よし。」と指さし確認で店内を点検し、社員割引で買った今日の戦利品を片手に缶コーヒーで一服。それが終われば帰宅というのが私の日常だ。


我が戦友たる愛車の軽自動車に火を入れ、入社したころに流行った歌を口ずさみながら国道を走る。

街はクリスマスという私には何の縁もゆかりも無い行事で美しく飾り立てられている。


 持てる者のイベントは普段であれば持たざる者の一員たる己の不甲斐無さと、幸せの絶頂を謳歌する人々の熱に当てられる為、精神衛生上好ましくないのだが。


 美しい街並みと微かに聞こえるクリスマスソングが私の童心を呼び覚ますのに大した時間は必要としなかった。


(暖かい両親の笑顔、プレゼント、ツリー、讃美歌、ケーキ、父サンタ……そうだ、実家に帰ろう。)

 思わず胸に熱いものがこみ上げ、ツンと鼻先に痛みを感じた。


 そういえば親孝行など殆どしたことがなかったなぁと思い立ち。ケーキがいいだろうか、いやちょっとお金を使って何かいいものを送ろうかなどとうつらうつら考える。


(そうだ、温泉に連れて行くとかどうだろう。その後でちょっと高い料亭にでも連れてってあげれば喜んでくれるんじゃないかな。)

 久々の休日にぼんやり物思いにふける私は、信号を無視して飛び出して来た大型トラックに直前まで気が付かない。


 大きな衝撃と激しい痛み、そして綺麗なクリスマスネオン。それが私の最後の記憶となった。


 多い年には2万人を超す死者を出す交通事故死、我が国ではガン・自殺に次いでポピュラーな死因である。




 日の光がちらちらと私の瞼を刺激する。ふかふかの毛布の手触り、そして暖かな人肌の感触。


(何処だろう…病院かな?大きな事故になっただろうしどこか怪我しただろうな…)

 手も足も思うように動かせず、まぶたも開いてくれない。


(脊椎損傷とかなのか?それとも脳が傷ついてるなんて冗談が効いた話じゃないよなぁ…)

 生きていた事は非常に嬉しいのだが、これからの人生を考えると背筋が凍る。両親に孝行しようなどと考えていた手前、これから今まで以上に負担をかけることになるだろうと思うと正直やるせない。


(麻酔が効いているのか痛みはない、もしかすると特別傷を負っているわけでは無いのかもしれない。そうだ、声帯はどうだ、声くらいなら出せないだろうか。)

 大きく息を吸い込み「誰か」と言おうと試みる。


「あぁー」


 絶望である。


(声も思うように出ない…これは本格的にダメかもしれないな…衝撃で喉がつぶれたのかも…)

 感じた人肌の感触が強くなる。後頭部に手を当て腰を押さえ持ち上げようとしているようだ。

(70キロはあるはずなんだが…看護婦さんなのかどうかは分からないがすごい力だな…)


「どうしたの可愛いユベール。お腹が空いたのかしら?」


「あぅ?」


「そうよね、ごめんねー。はいお食べ。」


 口元に柔らかな感触がする。暖かでそしてほんのり甘い懐かしい匂い。食欲をそそられ私は上手く動かない口を何とか当てる。


 大きな哺乳瓶のようなそれから与えられる食事は薄味の牛乳のような味がした。これがこれからの主食だと言われればその接種方法と共に泣けてくるが、どうにか腹は膨れそれに伴い抗いがたい睡魔が私を襲う。


「マリー、ユベールの調子はどうだい?」


「元気いっぱいよ、今はお腹が膨れて眠くなってきたみたいだけどね。」


「どれ、抱かせてもらってもいいかな?」


「えぇもちろん。」


 ようやく麻酔が切れてきたらしく瞼が薄ら開いた。明るい陽光に照らされ急な光量の変化に付いていけなかったのか視界はぼんやりとしている。


「見てアドルフ、この子もう目が開くわ。」


「おや本当だね。ユベール、僕が見えるかい?」


 ピントが合ってくるにつれて、視界いっぱいに人の顔が広がっているのが分かった。


(外国人か?…金髪だ…)

 ふさふさと柔らかく動くナチュラルなブロンド、青い目、薄く白い肌色、ちょっと割れている顎先。鼻が高く明らかに日本人ではない顔立ちである。


 日本という割と閉鎖的な国は、都会であったりNIPPONを象徴するような歴史的な街或いは軍事施設のある場でなければ昨今のNIPPONブーム・アニメブーム・OTAKUブームとは言えどあまり外国人を見ることはない。


私が住んでいた街は田舎で文化遺産などどこにもないような所であったため尚更である。


日本人の文化として或いは生態に近いものかもしれないが、あまり人の顔を覗きこんでまじまじと眺めるなんてことはなく。

ぐっと笑顔で目の前に迫られると思わず目を背けたくなるのも仕方ないことだ。


 視線を外し横を見ようとするのだが後頭部を押さえられている上に首に力が入らず動かす事すら叶わない。


「パパだぞーユベール。」


「あぅ?」


 ブロンドの男は言うのであった。

(´・ω・`)誤字脱字指摘してくだしあ



                  らんらん(´・ω・`)

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