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5:辿る

 バスに乗り駅前まで出て、デパートに行った。都会では大型スーパーくらいの規模だが、地元では一番栄えている百貨店だ。中学にあがった頃から、とんと訪れることはなかったが、昔と何も変わらない。飲食店が並ぶ階まで登り、ファミリーレストランに入る。昼時にもかかわらず、平日だということもあってか待たずに案内された。

 珍しそうにきょろきょろと視線を巡らせるタロウの前にメニューを広げる。自分の顔を指差してからランチセットAを指す。その後、タロウの顔を指差して、首を傾げて見せた。俺はランチセットAを食べるが、お前はどうする?という意味を含ませているのだけれど、上手く伝わるだろうか。何度か繰り返されるそんな行動をジッと見つめていたタロウは、おずおずとお子様ランチを指した。一番彩りが鮮やかで、目がひかれたのだろう。頷いて「わかった」と伝えてから、オーダーした。

 幼い頃の父との思い出の大部分は、このレストランだった。仕事に追われ多忙だった父と一緒に食事をとれるのは、週末の夜だけだったのだ。日頃から溜まっていた父に話したいことをぶちまける俺を、父は優しく見守ってくれた。寡黙で時には厳しい父を嫌うことがなかったのは、彼はきちんと話を聞いてくれる人だと知っていたからかもしれない。

 母がしていたようにタロウの食事の世話をする。スプーンやフォークに食べ物を乗せ、握らせた。昨日に比べて随分と器用に動く小さな手。その小ささが悲しかった。

 あの不思議な声は、タロウには幸せな記憶が無いのだと言った。一体、どんな生活をしていたのだろうか。タロウはひとりぼっちで捨てられていた。生まれてすぐに兄弟と引き離されたのだろう。母の存在を知らぬまま、孤独に震えていたのかもしれない。小さな命の存在を、誰か祝福してくれたのだろうか。誰か、ほんの一人でも「おめでとう」と「生まれてきてくれて、ありがとう」と伝えてあげたろうか。

 無意識に、子犬の頭を撫でていた。目を丸くする少年に構わず、何度も撫でた。俺は良かったと思うよ。お前が生まれてきて良かった。そんな想いを知ってか知らずか、タロウはにんまりと笑った。口の周りをケチャップで赤く汚しながら、それはそれは嬉しそうに。


 レストランを出た俺達は屋上に昇った。港からの潮風が吹き付けるそこには小さなアミューズメントコーナーがある。子供を遊ばせながら、親は休憩スペースで一息つけるという場所だ。

 鮮やかな色使いの遊具の数々にタロウの目が輝く。特に小さなメリーゴーラウンドを熱心に見ている。係員に代金を支払い、子犬の手を引いてラウンド内に入った。軽い体を抱えて、一緒に白馬に乗り込む。ほどなくしてメルヘン調の曲が流れ、ゆっくりと馬が回転し始めた。緩やかに上下に動きながら、景色が回る。柔らかな風と風景の流れに、目を細めた。

 前に抱えているタロウの表情は見えないが、きっと楽しんでいるだろうという確信がある。その昔、俺も楽しんだからだ。俺は未だに子犬に幸せを伝える術が分からない。だから、同じ記憶を与えようと思った。せめて人並みの日常を経験させようと考えたのだ。緩慢な動きで回転木馬が静止する。興奮した様子のタロウを抱え、俺は次のアトラクションへと向かった。

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