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車椅子
バカみたいね。私は喜んでいる。
しっかりと、立ってくれたこと。
私を表面上だけでも求めてくれたこと。
その一つ一つにただ、喜んでいた。
軋む車椅子。握られた、手。
私自身、狂ったようになっていた。
ただ、ちょっと長く一緒にいただけ。
ただ、他の誰よりも親身になりたいと身を乗り出しただけ。
別にあなたにとって、私が特別なんじゃない。
歩み出そうとして、歩み出せず、腐りかけようとしていた。
別に私じゃなくてもあなたは時が経てば……。
わかっているの、わかっているの。
でも、それでも今、あの瞬間だけは、私を求めていたと思わせて。
例え、あなたが口にする言葉は、私に向けられたものではなくても。
空は燃えるような赤紫だった。
音は、不気味なほど私の体に刻みついて、風は私の体を貫くように通り過ぎた。
きっと太陽の赤さでわからない。
きっと木々のざわめきで気づかない。
きっと空気の冷たさでわからない。
何も、何も。何もかも。




