内戦 2-2
高いとは言えない建物の上にスナイパーは潜んでいる。
相手には見えないと思って安心しきっているスナイパーは簡単に撃つことができる。それに自分は自慢ではないが視力が4.0ある。スコープなんか無くても離れたところから相手の居場所が分かる。大尉もそれを知っていてこの内戦に自分を護衛に頼んだのだろう・・・
正直大尉は護衛なんかいらない。遠距離戦苦手と言っても常にシグ・サウエルは使える状態になっているから、有効射程圏内に入っていればすぐに打ち落とすことは可能。
もう、かれこれ30分が経ったが、この30分で大尉は15あまりの部隊を倒してきた。部隊を消してまた、ゆっくり戦場を歩いていく。
その時、大きな大砲の音が戦場に鳴り響く。
岩の影から大尉の方を見ると大尉前にはふつうの部隊の5倍ほどの部隊が大尉に向かって進んできている。
この距離だとこちらの攻撃は届かないが、あの戦車についている馬鹿でかい大砲ならこちらに余裕で届く。
大尉はとっさに自分の隠れている大きな岩に飛び込んできた。無表情のまま部隊を見つめながら荒れた息を整えていた。その部隊は無駄に弾を乱射していることから、恐らくこちらの位置はばれている。こういう乱射の時は相手の弾切れになるのを待つものと教えられた。マニュアル通りに行動するエファト大尉はマニュアル通りに相手の弾切れを待っていた。
しかし、数とライフルの性能がいいからかなかなか弾切れにもならず打ち続けている。
その時、視界の隅に一つの動く影。
この町の逃げ遅れ、親とはぐれた幼い子供で泣きながら戦場を歩いていた。そのまま歩いていったら、銃弾の雨の中に入ってしまう。
自分が動こうとしたその時にはもうエファト大尉の姿はなく鉄の雨の中、子供に向かって走っていた。ろくな防具も着けずに鉄の雨の中へと突っ込んでいったカロン大尉を見てから、とっさに自分は持っている銃で大尉に向かって打っている相手軍の人間を撃つ。しかし、人数が多すぎてなかなか消すことができない。
大尉はこの銃弾の嵐の中を走ってその子供を抱きかかえ地面に伏せた。地面に伏せた後、軍服に大量の血の赤色が広がるのが分かった。見ただけでも4カ所はある。
大尉は子供を岩の影に隠してから、先ほどと同じ無表情で長刀を抜き軍隊に向かって走り、いつもより少し遅いが巨大な軍隊を消滅させた。軍服から血が滴りながらこちらに戻ってくる大尉は顔を歪ませ、とても苦しそうだった。
「大尉! 大丈夫ですか!? すぐに手当てを……」
大尉に近寄り、傷を見せるよう言う。だが、大尉は自分の手を払い、
「少尉、俺は少尉に“俺のやることを見てるだけでいい”っと言っただろ。」
っと言って、手で傷口を押さえながらゆっくりと子供の所へ歩いていく。岩にもたれかかって泣いている子供の前にしゃがみ涙をぬぐってあげ、“どうしたんだ?”と問う。子供は涙を手でぬぐいながら大尉を見つめて話し出した。
「あのね、お母さんとね……離れちゃったの……西の安全地に逃げるってお母さんのと約束したの……」
セミロングの黒髪に、瞳の大きな端整な顔立ちで少年か少女か分からなかったが、声の感じから少女だと分かった。
少女の母親が今生きているかは分からないが、少女をこれからどうするか大尉の行動をよく見ておくことにした。
少女の事情を聞くと大尉は少女の頭を撫でて少女を抱き上げ、ゆっくり歩き出した。歩く度に血が地面に滴る。
大尉は少女を抱きかかえながら戦場を歩いていると、またしても相手軍の部隊が大尉にめがけて発砲。
だが、距離が距離。大尉にはそんな発砲は打ち落とすことぐらいできる。
しかし、閃光が大尉の腹部に貫くのが見えた。
「大尉!!」
大尉は一度よろめいたが、すぐに体制を整えまたゆっくり歩き出した。子供に弾丸が当たらないようにしっかり抱いている為長刀を抜くことが出来ないのだ……必死に痛みに痛み大尉。自分は何をやってるんだ……
自分はすぐに応戦に入る。だが、先ほどと同様、数が多すぎて対応しきれない。何発も大尉の体に弾が当たる中、自分は少ない数の人を倒すことしかできない・・・
その自分の無力さに失望した。部隊をまくことができた頃には大尉の体はボロボロになっていた。血の後が生々しく戦場に残りながらも必死に歩く大尉を後ろから追う。
だいぶ歩いてから大尉が向かってる場所が分かった。“西の安全地”だ。そこにあの少女を連れて行っているのだ。大尉……やっぱり大尉は優しい人だ。
地下に頑丈な扉を付けた小さなスペースを作った場所、それが安全地だ。
安全地には多くの人がそこでこの醜い内戦が終わるのを願いながら待っている。その安全地でこの少女の母親も娘を捜しながら待っている事を願う。
大尉はもう歩けるような体じゃないにも関わらず、ずっとその少女を抱いてここまで歩いてきた。西の安全地の入り口を力ない腕で開ける。そこにはたくさんの女子供が安全地の中で震えて待っていた。
「あの……この女の子の母親はここにいますか? この子が探してますよ……」
大尉はそういって抱いていた少女を地面におろす。少女は大尉にしがみつきながらもきょろきょろと周りを見渡し母親を捜す。大尉は苦しそうな息遣いをしながら少女の頭を撫でる
「ハーネス! 生きてた、よかった……探したのよ……」
安全地の中から一人の女性が飛び出てきてハーネスと呼ばれた少女に抱きつき涙を流す。その様子から母親だと思われる女性に抱きつく泣きじゃくるハーネスを大尉は静かな笑顔で見ていた。大尉は立ち上がりさっさとこの場を立ち去ろうと歩き出した。自分は大尉の数歩後を追う。その時、
「あの……娘を助けてくれてありがとうございました。本当になんとお礼を言えばいいか……」
母親は何度も頭を下げる。大尉はそんな姿を見ながら何も言わずに頭を下げてまたしても戦場に戻っていった。大尉はお礼や褒め言葉を言われると照れて逆に態度が悪くなると、この前代将が言っていたことを思い出した。歩いて行く大尉を見ながらハーネスは自分のところに走ってきて、自分の足にしがみついた。
「あのお兄ちゃん、お名前なんて言うの?私はハーネスって言うの、お兄ちゃんにありがとうって言っておいてね。」
ハーネスは泣きはらした目でにこっと笑った。自分は“カロン・エファト大尉だよ”っといい、ハーネスの頭を撫でてゆっくり歩く大尉の後を追い、大尉に先ほどハーネスの言ったことを伝える。すると、
「そうか、よかったな。」
まるで他人事だ……自分がやったすばらしい事のすごさ分かっていない。銃に撃たれ、深手を負いながらも子供を守りぬき母親の元に返した心優しい人だ。しかし、この傷で今からどこへ向かうというのか……大きな大砲を食らった腹部は大きな風穴が空き、十数カ所に拳銃の弾が当たり大量の血が体から溢れ出ている。こんな傷では一つの部隊を消滅するのも難しい。それなのに大尉はどこかへ向かって歩き続けている……
「大尉……どこへ向かうのですか。速く手当をしないと大尉の体が……」
「少尉もしつこいな……俺は“俺のやることを見てるだけでいい”って言ったろ。だから、お前は俺の後ろで見ていればいい。もうすぐこんなくだらない内戦終わらせてやるから。」
大尉はそう言って、そのボロボロの体でまたゆっくりと歩いていった。そしてまた自分は大尉の後ろで見ていることしかできない。