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内戦 2-1

今回、カロン君がボロボロになります……

残酷な描写ありです……

南からの風が紅茶のポットから出る何ともいい匂いが流してくれる。

いつものようにおいしい紅茶を飲みながら、窓から見える煙をただただ見つめる。


(いつも通り、すぐ帰ってくるよな……)


いい匂い部屋に広がる度に不安も心に広がる……

いつもあいつは何事も無かったかのように笑顔で帰ってくる。

あいつはどんなに嫌なことがあっても俺たちに言わない。俺たちが迷惑するとでも思っているのか分からないが、こっちもこっちであいつの事を心配している。

もし戦いで……怪我ではすまなくて死んでしまったら……カロンが戦いに出ている時はいつもそんな不安に襲われる。


(早く帰ってこいバカカロン……)



**********



死臭と爆弾の火薬の臭いが鼻を刺す。内戦が始まってそろそろ1時間が経つがまだこちらに相手軍は来ない。岩の後ろに隠れて時計の秒針をただ意味もなく見つめる。

その時、俺のすぐ後ろに爆発音がした。


(来たか……)


横目に岩から後ろを覗くと馬鹿でかい戦車と戦士がぞろぞろと歩いている。

戦車が一台、戦士は見たところ100人を超えているだろう。

俺は単独行動だから俺の姿は見えていないのだろう。不意打ちはあまり好まないが、勝つためだ仕方がない……

俺は腰に装着してある拳銃をホルスターから抜き岩の間から狙う。しかし、数が多い……ここで一人一人狙っていたら確実に俺の居場所が分かってしまう。

それなら…………腰のベルトからぶら下がる長刀を抜き地面を蹴り軍隊目指して飛ぶ。

飛んで着地した先は群がる戦士の真ん中。いきなり敵が自分たちの真ん中に現れたら一瞬どうすればいいか分からなくなる。そんなことお構いなしに俺は長刀を横に振る。腰から上下に切り裂かれた戦士は武器を構える前に血を吹き出しながら崩れ落ちる。

俺は頭から降りかかる大量の血を舐め、次々へ戦士を切り裂いていく。戦士は全て消えた。残ったのは馬鹿でかい戦車の中にいる人間のみ。俺は戦車の上についている防弾ガラスをジャンプの勢いで割り、中に腕だけつっこみ銃を乱射する。防弾ガラスに飛び散る赤い体液の量から中にいたのは恐らく3人、しかしその3人はもう、藻くずと同じだ。口の周りについた返り血を舌で舐め、長刀を振り切った際に着いた血を振り落とし鞘に戻す。

これで一つの部隊は消滅した。後どれだけの人を殺せばこの内戦は終わるのだろうか……手に残った嫌な感覚を握りしめ戦車の上から降りる。




それからどれだけの時間がたっただろうか。エファト大尉の補佐として戦場に出たが、エファト大尉は補佐なんかいらない……ものの1分もかからない間にどの部隊も消滅させてしまう。

 岩の影からのぞくグレイ少尉はその姿を見て体が動かせないでいた。いつもコツコツと仕事をこなし、自分が話しかけたら笑顔で答えてくれる優しくてまじめなエファト大尉じゃない……殺気がこっちにまでしみてくる。その時、大尉は後ろを向いたまま、


「グレイ少尉、そこにいるんだろ。こっちに出てこいよ。」


そう言われて正直心の底からびっくりした。岩の影から静かに出て、大尉の前までゆっくり歩き止まる。僕が来た時にこっちを向いた、その顔はいつもの笑顔ではなく表情は無い、返り血で余計に怖く感じた。


「少尉は覗き見が趣味か? バレバレの追跡だったな、もうちょっと練習した方がいいんじゃないか?」


さっきと変わらない表情で淡々としゃべる大尉は手に持っていた長刀を振り鞘に戻す。


「大尉、自分は大尉の護衛と言われて来たのですが、どうすればいいのでしょうか……」


エファト大尉は綺麗な秋空にかかる大量の煙を見上げてから小さくため息をしてから、自分の方に向き直した。


「少尉はさっきみたいに下手な追跡で俺の後ろで待機してくれればいい。俺のやることをただ見てるだけでいい。でも銃は常に使えるようにしておいてくれ。それと俺を見ないで俺の周りにスナイパーがいないか見てくれ。俺遠距離はあまり得意じゃないから。」


大尉はそう言ってまた少し大股で歩き始めた。その姿はたくましくも見えたが怖くもあった。このままどこへ行くのか、これからどうするのかも分からないまま黙々と歩いていく大尉の背中を見て、自分はエファト大尉の後を小走りで追った。



**********



内戦がすぐに終決した。

カラーの部隊の一人が相手の大将を倒したのが終決した理由だった。


内戦が終わってカラーの兵隊がぞろぞろ列をつくって帰ってきた。

窓からその様子を見ながら一人の男の存在を探す。胸騒ぎがする。あいつは帰ってきてるのか?


「きっと相手の大将倒したのカロンだよ。」


声のした方を向くと扉にもたれかかったブレインがにこやかな笑顔をしてこっちを見ていた。

いつもこいつはいつどこでどう出てくるか分からない。いつもフラフラしていて、型にはまらない奴の行動は到底読めそうにもない。倒したのがカロンと言うのは俺もそう思う。そう思うけど、この胸騒ぎがおさまらない……

 紅茶の香りが部屋に漂う。机の上の書類を見るが頭に入らない。

何で来ない? いつもなら笑顔であの扉から“よう”っと言って入ってくるはずなのに……いつもより遅い。ブレインを見ると机に頬杖をして人差し指で机を叩いている、この行動を見せるのは不安な時か苛ついているときだ。

その時、部屋の扉が大きく開く。扉が開いた瞬間、俺とブレインは扉に視線を向ける。来た……?


「ワイズ上級大将、リラクスト代将。負傷者リストと死亡者リストを持ってきました。確認をお願いします。」


入ってきたのは書類を持ってきた伍長だった。二人は伍長を見つめながら静かに椅子に座り直す。


「伍長、カロン・エファト大尉の今どこにいるか知っているか?」


ブレインは扉から出て行こうとする伍長にそう聞く。伍長は目を大きく開き一時停止。

俺とブレインはその動きの止まった伍長を見ながら伍長が動き出すのを待つ。伍長は一つ咳払いをするときちんとした姿勢してこちらをむき直す。


「お二人はご存じでないのですか? エファト大尉の事。」


伍長は改まってそう呟いた。カロンのことを知らない? やっぱりあいつに何かあったのか……怪我でもしたのか? 珍しい、あいつはこれまで戦いで怪我という怪我はあまりしなかった。するとしても少しの切り傷や打撲程度大怪我などしなかった、してもいつも無理矢理退院していた。だからいつも少しの包帯を巻いてこの部屋に入って来る。病院では脱走常習犯だ。

そう言えば、前回医者が次怪我したら治るまで医務室のベッドにくくりつけておくって言ってたな……


「ベッドにくくりつけられてんのか?」


冗談半分で言うと、伍長は首を大きく横に振り、負傷者リストの一枚を俺達の前につきだした。

その書類をよく見ると真ん中のほうに見覚えのある名前が書き込まれていた。


「違います。カロン・エファト大尉は意識不明の重態で今医務室の集中治療室で治療を受けています。」


イシキフメイノジュウタイ?

頭が真っ白になった。カロンが? あいつが怪我なんてするわけがない。したって軽傷で済むはずだ。今までだって、ずっとそうだった……なんで重態なんて……

 そう思ったときにブレインは椅子から立ち上がり伍長を押しのけて扉から出て行った。一歩遅れて俺も部屋から出て医務室に向かう。

あいつが……あいつが死ぬわけない……そう思いながらも足が速くなる。

勢いよく医務室の扉を開けると看護婦さん達が迷惑そうな顔をしてこっちに視線を向ける。

しかしそんなことどうでもいい、カロンはどこにいる? 集中治療室ってどこだ? 内戦が終わったばかりで負傷した戦士のうめき声やすすり泣く声が医務室中に響いていた。


「看護婦長、カロン・エファト大尉はどこにいますか?」


ブレインは怪我人を見ている看護婦長に話しかける。

婦長はブレインを一度見て、すぐに怪我人の包帯を巻き、巻き終わると他の看護婦に怪我人を任せると“こちらです”と言いながら奥の部屋までゆっくり歩く。俺とブレインは看護婦長の後を追い、看護婦長の歩幅に合わせて歩く。もっと速く歩いて欲しかったが、看護婦長さんのペースに合わすしかなかった。

婦長は静かな廊下を歩き、廊下の先にガラス越しに見ることができる集中治療室があった。その前においてある長椅子には一人の男が軍服を毛布にして丸くなって寝ていた。


「カロン・エファト大尉はこちらで治療中です。お静かにお願いします。」


婦長はそう言って部屋の方を指さし一礼した。俺とブレインは急いでガラスにへばりつくようにして部屋の中を見る。


 一瞬二人は絶句した。

そこには想像していた以上に傷だらけで、包帯だらけで腕や体にたくさんの管をつなぎ、酸素マスクで小さな息をするカロンが横たわっていた。

心電図の波はふつうの人より小さく弱々しかった。何でこいつがこんな怪我をしているのか……

こいつのこんな姿、見たくない……


「婦長さんこいつの様態は?」


ブレインはガラスの向こうにいるカロンから目を離さずに婦長に尋ねた。ブレインの目を見てみると不安を隠しきれずに泳いでいた。


「傷が深く、銃で撃たれた傷が多いです。しかも、銃弾の一つが心臓近くまで達しています。意識が戻らないと何ともいえませんが、普通の人なら命を落としています。」


婦長はそう言って静かに一礼し静かにまた廊下を歩いていった。カロン……何でこんな事になってんだよ。あの内戦でお前に何があったんだよ……


「ワイズ上級大将、リラクスト代将。エファト大尉からの伝言をお伝えします。」


その声が聞こえ、声のする方を向くとさっきまで椅子で寝ていたグレイ・アニスト少尉が真っ赤に腫らした目でこっちらに向かって敬礼をしていた。グレイ少尉はずっとカロンについていたから何か知っているかも……それに伝言って……遺言?


「エファト大尉は意識を失う直前に“ジーニ、ブレイン。終わったら一緒に飯行こう”っと言っておりました。」


この伝言から分かることが一つ。こいつは俺たちが思っているほど死ぬつもりはないらしい。本当に馬鹿げた伝言だ。そう思うと笑えてくる。


「伝言は分かった。それよりあの内戦でこいつに何があった。」


ブレインはグレイ少尉に尋ねる。どんなにひどい内戦だったからってカロンがこんなになるには何か理由があるはずなのだ・・・


「そうですね。大尉には口止めされていたんですが、自分は話した方がいいと思いますので、お話しします。自分は大尉に命令されてからずっと大尉の後ろで護衛をしていました。建物の上にいるスナイパーなどを打ち落としていました・・・」



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