表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

入隊以来の苦労 1-2


「エファト大尉。今日は一段と仕事が多いですね。どうしたんですか?」


「これか?ジーニアスとブレインが俺によこした仕事だよ……」


俺はぶつぶつと文句を言いながらもせっせと仕事をする。眼鏡を中指で上げ、ペンを書類に走らせる。俺は目がいいが、こんなに目を使っていたら目が疲れてしょうがないので眼鏡をして視力を落としている。

俺に問いかけてきた少尉は手に持っていた書類を床に落として驚く。俺は落とした書類を拾い上げきちんと整え少尉に渡す。少尉は驚きながら俺に聞く。


「ワイズ上級大将とリラクスト代将をそんな呼び捨てで……そう言えば、あの二人とよく話していますが、仲いいんですか?」


少尉は“ありがとうございます”と言いながら書類を受け取る。俺は少し微笑んでまた仕事に戻る。頭が痛くなるほど小さな文字を読みながら書類を片付けていく。


「あぁ~あいつら? あいつらとは腐れ縁だよ。小さい頃から仲は良かったけどこんなに人使いが荒い奴だとは思ってなかった……あいつら俺のこと何だと思ってんだよ……」


そう言いながら二人の仕事の最後の書類にハンコを押して疲れた目を休めるために眼鏡を取る。やっと終わったぁ~あと自分の仕事だけだ……

その瞬間、俺の横から聞き覚えのある声がした。


「そりゃ親友だと思ってるよ。でも今はちょうどいい玩具かな~」


聞き覚えのあるその少し笑ったような声はブレインだった。

ブレインはまるでホストの着ているようなシャツに軍服を肩だけ羽織りネックレスや指輪をチャラチャラさせた格好で俺をにこやかに見下ろしている。その横には崩しきった軍服で大きなあくびをしたジーニが立っていた。

俺は二人を無視して眼鏡をかけ直し、やっとたどり着いた自分の仕事に進める。

俺のいるフロアの奴らはみんな頭を下げてじっとしている。そりゃそうか、軍の上層部の奴らがこんなところに来ているんだから。だが、俺は黙々と仕事をすする。


「何だよ玩具って……お前らのせいで俺ここ2・3日寝てないんだぜ。今日は仕事がやっと片付けられそうだったから寝れるっと思って喜んでたところだったのによ……俺の睡眠時間返せ。」


俺はそう言いながらも机の中に入っているチョコレートと口に銜えてペンを走らせる。

耳を傾けながらもペンを走らせるのは止めない、より多く仕事をこなすためのコツだ。


「お前にいい知らせを持ってきたぞ。もうこの仕事はしなくてもいい。そこら辺の少尉とかに任せておけ。今日はもう休んでいいぞ。」


ジーニアスからその言葉を聞いて俺は口からチョコレートを落としてしまう。

こいつらに今まで休めなんて言われたことは数えられるほどしかない。それに仕事をしなくていいって……どういう事だ。俺は落ちたチョコレートを食べて“どういうことだ”と少し睨み付けて聞く。


「やだな~そんな怖い顔しなくたっていいのに。俺は2、3日寝てないお前の体が心配だから言ってあげてるのに~」


ブレインはそう言いながら俺の机にある仕事の山をさっき話していた少尉に渡す。少尉は急いで自分の机に戻る。俺は少尉に同情をしながらもブレインに呟く。


「嘘だろ。」


こいつらが俺の体を心配するなら、こんなに大量の仕事寄こさない。さっき言ったとおり、こいつらは俺を玩具としか思ってないのだから。


「やっぱ、ばれた? さっき元帥から指令が入ってな。ここでは話せないから全ては俺の部屋で話すから来い。」


ジーニはそう言って俺の襟を持ってフロアから出て行く。俺は手にチョコレートを持ったままフロアから引きずり出されていく感じになった。その後にブレインがついてくる。

 ブレインは182cmと、身長がとっても高く腕や足も長い。だが筋肉質って言うより単に細い。ジーニアスはブレインよりは低いが170cm後半とそれなりの身長はある。

しかし俺は平均身長より10cm近く低い。ジーニアスの調査だと、軍隊の中の男で一番背が小さいという絶望的な調査報告をしてくれた。それにプラスして、童顔で未だに中学生でも通るほど幼い外見なのだ……

これはコンプレックスだが、前向きに考えると長所だと思う。戦場に出てでかかったら目立ってしょうがない。小さいからこそ相手に自分の存在を知られずにしとめる事ができる。その面では俺は強みだった。みんなにそれを言うと“負け惜しみ?”と言われるが、断じて違う。




ジーニアスの部屋に着き襟元から手が離される。絞まった首を手でさすりながらも目は二人から離さないでいる。手に持っていたチョコレートを口にしながら二人に向かって眼をとばす。


「そんな怖い顔しなくても大丈夫、すぐ終わるから。まずおまえに言わなきゃならない事が2つある。一つ目、明日の内戦におまえも参加してもらうことになった。しかも、おまえだけ単独行動を取ってもいいという命令が出た、よかったな。」


俺はまたしても口にくわえていたチョコレートを落としてしまった。

明日出る内戦は俺のような下級の奴らが出れるような軽い戦いではない。

国からの直接の命令で大佐以上の人たちが出る大きな内戦、この内戦にここカラーも全力をあげている。それはこの軍全員が知っている常識。その内戦に俺が出る……しかも滅多に出ない単独行動の許可……

あり得ない。確かに大尉の称号でいる割に戦闘能力は高い方だが、そんなの上の奴らが俺の事を知っているわけがない。たとえ知っていても俺なんかを内戦に出すわけがない……っと言うことはまあこいつらの悪戯か?


「おまえ今、俺をだまそうとしてるな。って考えてただろ……残念でした~これは本当だ。許可書もここにある。元帥がいうに、カロンの戦闘能力はこの軍で二位らしい。今までの戦闘経験やおまえの戦闘スタイルから元帥はお前にこの内戦を任せたんだってよ。あっついでに一位は俺ね。」


ジーニアスは許可書を俺の前に放り投げた後、親指を自分の方向けて静かに笑った。


 確かに俺は階級は下の方だが、戦いとなったら誰にも負ける気はしない。

今まで誰よりも多くの戦闘経験を積んできたし、俺は山で産まれ山で育った。身体能力と五感には少しばかり自信があるし、小等部の頃に習った剣術も今ではジーニアスにも勝てるほどの腕になった。

山で育ったおかげでサバイバルにも強くなったし、父親の教えてくれた事は今でも本能的に覚えている。中等部で初めて拳銃の操作を習った銃も得意だ。「SIG SAUER P266」(シグ・サウエル)の銃を愛用としている。火縄銃のようなのは山の狩で使った事があったが、ハンドガンは中等部で初めて使った。

しかし、目のいい俺は命中力もあって、山を駆け回っていたから体も鍛えられていて跳ね飛ばされる心配もなかった。今も常にシグ・サウエルを携帯している。


「っで。二つ目、これは大切だからよく聞けよ・・・」


珍しくジーニアスが真剣な目で俺を見てきたので俺も心構えをしてジーニアスの言葉を待った。


「………紅茶入れてくれ。のどがカラカラだ。」


俺はその言葉を聞いた瞬間、腰にいつも待機されているシグ・サウエルをホルスターから抜きジーニアスの額に押しつけ、安全装置を外す。ジーニアスも少しびっくりしたが動じることなくこっちを見ている。正直、銃を抜き戦闘態勢に入るのは俺はジーニアスより上。早抜きならお手の物だ。こいつこんな近くに銃口があるのに動きもしない。完全に見切ってやがる……


「おまえはそんなことのために俺を呼んだのか? 紅茶ぐらい自分で入れろ。」


「嘘だよ、嘘。ったくカロンは冗談が通じないんだから。紅茶を入れたら本当に話すから、紅茶を三人分入れてくれ。」


シグ・サウエルを腰のホルスターに戻し、部屋の小さな台所へ向かう。その間にブレインは丸い机とクッキーの缶を用意していたが、ジーニアスは一歩もその場を動かなかった。

紅茶が入り二人分の紅茶を目の前に出し俺は机にもたれかかるようにして立って話を聞く。ジーニアスは“おまえのは?”と聞いてきたが、俺は俺用のマグカップにコーヒーを入れて飲む。俺は紅茶よりコーヒー派なんでね……


「よし、お茶会の準備もできたしそろそろ二つ目の話をするか。」


コーヒーのマグカップを口から離し、ジーニアスの言葉に耳を傾ける。また冗談みたいなことを言ったら次はこのコーヒーをぶっかけてやる。


「二つ目の内容は、十日後つまり内戦が終わってからの軍事会議におまえも出てもらう事になった。これは特別だが、元帥がいうのだからしょうがない。」


俺の思考回路は一時停止。そして巻き戻し。グンジカイギ……

おい、それってカラーのトップの奴らが出るカラーのこの先を決める大事な会議のことだろ……なんで俺なんかが? おかしいだろ。でもジーニアスは至って本気っていう顔をしてるし。これは冗談じゃないようだ。


「まっ、待てよ! 何で俺みたいな大尉にその会議に出れるんだ!?」


ジーニアスはう~んと少し考えている。しかしジーニアスの口から答えが出るより先にブレインの口が動いた。


「お前、今までにどれだけの戦場に出てきたか知ってるか? 普通の人は2年で約30程度が限度だ。それ以外は断っている。死にたくないし、戦場で酷いのを見るのも、酷いことをするのも嫌だからな。

でもおまえは100を超えている。たった2年で100以上の戦場に出ることのできるような奴は、人が死ぬのを見ていて楽しい奴か、単にまじめな奴か、国民の為の事を思っている奴かしかいないって、元帥は言ってた。っでおまえは国民の事を思って戦ってるっと思われている。だから元帥に気に入られて戦場に出たお前の意見が聞きたいらしいだな、きっと。」


 もうそんなになったのか……

確かに戦場に出るのはいやだ。俺みたいな人間が尊い命を消すことになるのは辛いし、精神的にも肉体的にもきつい仕事だ。しかし、この戦いに勝てばびくびくしながら暮らす国民の人たちは解放され、自由になる。

そう思うと、戦場の酷たらしさも耐えることができる。だから俺は出された命令には従い、出された通りに仕事をこなす。


「だからおまえは内戦が終わりしだい俺のところに来い。まぁ内戦で死んでたらそれもできないがな。」


冗談交じりでジーニアスは言うが、常に死と隣り合わせの俺はそれもあり得るかもしれない。分からないことは笑ってごまかせ、どこかの本に書いてあった事を思い出し小さく微笑む。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ