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ブレイン・リラクスト 5-1

受験から解放されたので、書きためていたのを投稿します。

楽しんで頂けたら幸いです。

朝陽が目に眩しくて、ベッドから体を起こす。

額に手を当て、ゆっくりと髪を掻き上げ大きく欠伸をする。


眠い目で時計を確認すると、7時30分。

いつもよりかなり早い時間だ。


それも久しぶりに寝た自分のベッドがとても寝心地が悪かったせいだ。


「くそっ……昔の俺ってなんでこんな固い枕で寝れてたんだ……首が痛くてしょうがない……」


俺は首を摩り左右に首を振るとポキッと音が鳴る。

今のマンションのベッドの方がでかいしふわふわだ。

この枕で1ヶ月も寝てられない……明日にでも枕を買いに行こうと心に決めた。


とりあえず、部屋に備え付けてあるシャワールームで軽くシャワーを済ます。

髪を拭きながら、Yシャツを羽織りベットにドカッと座る。


昨晩読んでいた本の続きが気になったが、今読んだらきっと部屋から出なくなる。

腹の虫も鳴っていることだし、まずは朝食を先にするのが先決だ。


俺は髪を乾かし終わり、タオルを椅子にかけて部屋を出た。



長い廊下をゆっくり歩いていると、1つの客間の前で立ち止まる。


ここにはブレインとシンパティーさんが泊まっている客室だ。

ブレインだけだったらきっと寝通すだろうが、今回はシンパティーさんがいる。


わざわざ起こすこともないだろう。

物音がするのでどうやら起きている様子だし、呼ばなくていいか……


まぁ、もとから起こす気なんてないけど。



俺は欠伸をしながら一階へと降りていく。


広い階段をゆっくり降りていると、数人のメイドが挨拶をしている。


幼い頃はなんとも思わなかったが、このメイドたちは何時に起きているのだろうか……


まぁ、そんなことは置いといて……

そのまま食堂へと入り、朝食の前にモーニングティーを飲むことにした。


少しして食堂の扉が開いた。

カップで紅茶を啜りながら扉の方を見てみると、ブレインとシンパティーさんが入ってきた。


「おはよう。いやぁ~相変わらずお前んちのベッド寝やすいねぁ~ぐっすり寝れたよぉ~」


ブレインは笑いながらゆっくり俺の正面の椅子に座った。

シンパティーさんもブレインの横に座った。


メイドに注文し、朝食を持って来るように頼む。


「それは良かったなぁ。俺は首が痛くて仕方がないよ……さて、そろそろカロンも起きてるだろ。朝飯を食ったら行くとするか。」


紅茶を飲みながらそう言って二人を見ると、朝食に舌鼓を打っていて聞いてないようだ。

そんなに珍しい朝食だったのだろうか……


シンパティーさんがすごく驚いている。俺は身分の違いに少し驚きながら、紅茶を飲んだ。

今更だが、俺の家はどうやら金持ちのようだ……




その時、ポケットに入っている携帯が鳴り響いた。

携帯画面を見ると、『カロン』と書いてあった。

何かあったのかな?


「グットモーニング~何かあったのかい?」


俺が少しおちゃらけた声で言うと、携帯電話から少し大きめの声が鳴り響いた。

電話の向こう側からは子供の高い声が鳴り響いていた。


『グッドモーニングじゃねぇよ! お前ら昨日はよくも酔わせてくれたな! おかげで二日酔いが酷くて、頭が割れそうだよ……』


頭が割れそうなら叫ばなきゃ良いのに……


昨日はカロンの叔父さんと一緒に、カロンをヘベロケになるまで酔わせて遊んだことを思い出した。

まぁ、酔っ払ったカロンで遊ぶのはいつものことだし、今更である。


「それは俺たちが、酒に抵抗をつけてやったんだ。感謝しろ。その二日酔いがお前の弱点なんだからな。」


『訳のわからねぇこと言ってんじゃねぇよ!? お前らのせいで俺は昨日の記憶が全くないんだよ!?』


あらぁ~たったあれだけで記憶がなくなるなんて……

相当酒に弱いみたいだ。


これは毎度のことながら、俺たちからしたら良い体質に生まれてくれたもんだ。


「記憶がない方がいいさ。」


『なんの話だ!? まぁ、それは良いとしてだな。いや、よくはないが……今日ナッツ達が町の祭に行きたいって言ってるんだが、お前達はどうする?』


どっちなんだ……まぁこれ以上責められるのも嫌だし、スルーってことで。



それにしても祭かぁ……確か俺達の子供の頃からあった祭だな。

小さな祭だが、カロン達と街の通りを走り回った記憶がある。

あまり美味しいものはないが、独特な祭の雰囲気だ楽しかった。


「ん~その祭夕方なんだろ? じゃぁ、夕方まで自由にして、祭に集合みたいな感じにするか。俺もやりたいこともあるし。」


新しく紅茶を入れて、角砂糖を一つカップに入れる。受け皿に乗っているスプーンでカップの底を傷つけないように混ぜる。


『そうだな。俺も少し山を見て回りたいし。じゃぁ、ナッツ達が帰ってきたらまた連絡するよ。じゃぁな。』


カロンはそう言って電話を切った。

山って、猿か……

結局山で仕事ですか……

休暇の意味知ってるのか?



俺は携帯を閉じてため息をついて顔を上げると、ブレインが俺を見つめていた。


「今日の夕方に街の祭に行くらしい。夕方まで自由行動だが、お前達どうする?」


俺は紅茶をすすりながらブレインに聞くと、ブレインは考えながらロールパンをかじった。


「ん~俺達も自由に街を回らせてもらうよ。行っておきたい所もあるし。ジーニも用事があるんだろ?」


ブレインはロールパンを口に放り込んでニコッと笑った。


用事って言っても、自室に置いたままの本の続きが気になるだけだけど……

まぁ、そういうことにしておこう。めんどくさいし。


「じゃ、詳しくは連絡するから。それまでごゆっくりどうぞ。」


俺は口を軽く拭いて、食堂を出て行くことにした。


廊下をゆっくりと歩き、夕方まで何をしようか考える。

久しぶりに町を歩くのもありだ。

祭の時はそんなに歩き回れないだろうし、今のうちに回っておくのも、ありかもしれない。


でも、今から着替えて歩き回って汗をかいて、またシャワーを浴びてから祭なんて……


(めんどくさいな……今日は家でのんびりしよぉ~)


大きく伸びをしながら、ゆっくりと首の骨をポキポキ鳴らす。


さて、さっさと本を片付けて昼寝でもしようかな。

普段仕事でご無沙汰だったし、久しぶりに庭で読書に勤しむことにしよう。

で、庭でアフタヌーンティーでもいただこう。

夕方までゆっくり出来るな。俺は心ゆくまで休暇を楽しませてもらおう。



****



ジーニの屋敷から出て、街へと続く道へ歩いて行く。

シンパティーは町が珍しいのかキョロキョロしながら俺の隣を歩いている。


この町は人攫いが多いからな……こんなにも可愛いシンパティーが一人で歩いていたら攫われてしまう……

そう思って俺はシンパティーの手を握って歩くことにした。



シンパティーはミドルの町の隣町の出身で、都会で育った。

だから、こんな田舎に来たことがない。

俺と出会ったのも、ミドルの隣町の大学だったから、俺がここ出身ってことは知識でしか知らない。



俺とシンパティーには出身から大きな違いがある。



シンパティーはどちらかというとお金持ちの次女だ。

昔から不自由もなく暮らしていたからか、心も清らかでとても愛情に溢れている。


シンパティーの家にお邪魔させてもらった時、家族ってこんなにも暖かいのかと思った。

見た目は怖いが気さくな父親、天然でとても優しい母親、気立てがよくて美人の姉。



俺と言えば、昔から家族とは衝突ばかりで家庭爛漫な生活が出来なかった家の長男。

だからか、少し歪んだ性格にもなり、物事を斜めから見る癖がある。

俺に家族はもう既にいない。

家も、なにもかもがなくした。

この町で……




「さて、シンパティーはこれからどうしたい? どこか行きたいところはある?」


俺がシンパティーの顔を覗き込みながら聞くと、シンパティーは微笑みながら言う。


「そんなこと言って、ブレインは行きたいところ決まってるんでしょ? そこに着いていくわ。」


もう、可愛すぎる……

こんな俺に着いてきてくれるなんて、君は女神かぁ!?

心の中で地面に開いた穴に向かって叫び、ルンルン気分で歩いて行く。



俺は首からぶら下げているシンパティーとペアルックの十字架のネックレスを手で遊びながら、歩く。

不安な時にやる俺の癖だ。



シンパティーは少し赤みのかかったセミロングの髪を弄びながら、道を真っ直ぐ見つめていた。


俺はこの真っ直ぐな瞳に何度となく助けられた。


シンパティーの瞳が、言葉が、暖かさが、存在が俺を支えてくれたから、今の俺がいると言ってもいい。


何にでも真っ直ぐに見つめる彼女の瞳は、俺の醜い感情も歪んだ心も全て消してくれた。


そして、ただ1つの彼女への愛情へと変わっていった。



「シンパティー」


俺は決意をして彼女に話しかけた。


シンパティーは俺の顔を見上げて首を傾げて“なに?”と聞いてきた。


「今から俺の、俺の昔のトラウマの所に行こうと思う……だから、その……一緒に行ってくれないか? 情けないことに一人じゃぁ、どうしても踏み込めないんだ……」


彼女のおかげで俺がいる。

その彼女がいれば、俺の醜い感情の源である、この町の嫌な思い出を消せるような気がした。

俺の嫌いで、怖いあの場所……


「もちろんよ。私はずっとあなたの隣でこうやってあなたの手を握ってるから。でも、無茶しないでね……」


シンパティーはそう言って俺の手をギュッと握り、俺にもたれかかった。


「ありがとう……それじゃぁ、行こうか。」


俺はシンパティーの手を握り替えして、ゆっくり足を進めた。




この町には悪い思い出の印象が強すぎて、居心地が悪い。

居心地の悪さと、懐かしさを織り交ぜたこの町。

俺にとっても

ジーニにもカロンにとっても



この町は悪夢の塊だ……

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