帰郷 4-4
長い間汽車に揺られ、暇な時間を過ごした。
そして、とうとう……
「やっと着いたぁ~アームタウン!」
駅のホームに降りて大きく伸びをする。
ここがカロン達の故郷の町、アームタウン。
カロンやブレイン君、ジーニ君はなんだか複雑な顔をしていた。
せっかく自分の町に帰ってきたのに、嬉しくないのかな?
「それにしても……駅ちいせぇなぁ~こんなんだったけ? もっと広かったようなぁ~」
ブレイン君はトランクとシンパティーの荷物を持ちながら、周りを見渡した。
本当に優しい彼氏さんだなぁ~シンパティーは幸せ者だ。
「そうか? 昔とあまり変わらねぇと思うけど。」
カロンは大きな欠伸をしながらブレイン君に言い返す。
さっきまで頭に凄い寝癖がついていたが、私が直した。
「そりゃ、カロンはあまり成長してないから、そんなに変わらないように見えるんだよ。」
ジーニ君がそう言うとカロンはキッとジーニ君を睨む。
ジーニ君は睨まれてから視線を逸らした。
やっぱり身長のこと気にしてるんだ。
たぶん一番気にしてるのはシンパティーに身長が負けてることだろうな……
私はカロンより少し小さいくらい。私も結構チビです……
「ったく、身長の事は触れるな……じゃぁ、さっさと帰りますかぁ~ジーニは自分の家に帰るんだろ?」
カロンは自分の鞄を肩に掛けて、ゆっくり歩き出す。私もトランクを持ってカロンの後を追う。
「まぁな。流石にお前の所に1ヶ月も泊まる訳にはいかないからな。ブレインとシンパティーさんもうちで泊める事にしたよ。」
ジーニ君の家は大金持ちで、家は大豪邸とカロンから聞いている。
空き部屋なんか腐るほどあるんだろうなぁ~
ジーニ君もブレイン君もここ出身だもんね。一回は両親に顔を合わせた方が良いに決まってる。
でも、2人共あまり嬉しそうじゃなかった。
それに、なんでブレイン君とシンパティーもジーニ君の家に泊まるのかな?
ブレイン君も家があるはずなのに。
「了解~シフォン、良かったな。豪邸に泊まれるぞ。」
カロンは私を見ながらニコニコ笑った。
そうか、私もジーニ君の家に泊まるのか。
「はぁ? 何を言っている。シフォンさんはカロン、貴様の家に泊まるんだぞ。」
ジーニ君の発言に私とカロンは一斉にジーニ君を見た。
私だけカロンの家に泊まるの?
「はぁ!? なんだよ、その話! 聞いてねぇよ!」
カロンは声を上げてジーニ君に講義。
まぁ、私にしたら大豪邸も良いけど、カロンの家で良かったと心のどこかで思っていた。
「当たり前だろ。シフォンさんはお前のお客様だろ。お前が世話をするのが道理だろ。」
ジーニ君の言葉にカロンは言葉を詰まらせた。
****
確かにシフォンは俺の客かもしれない。
いや、でも、元はといえば大佐の目論見なんだから、俺は関係ないような……
「それに、シフォンさんと親しいのはお前だけ。俺たちはまだ会って2、3日しか経ってない。そんなんじゃぁ、シフォンさんも居心地悪いだろ。」
確かに、シフォンはジーニやブレインの事を俺から聞いて知ってるが、こいつらからしたら、この前会ったばかりの俺の知人でしかない。
「だったら、シンパティーさんだってシフォンと親友だろ。シンパティーさんと一緒にいた方がいいんじゃないか?」
ここで納得してしまうと、これ以上何も言えなくなるので、とりあえず何か言わなければ。
シフォンとシンパティーは高等部の頃からの親友と聞いている。まだ在学中の時も結構シンパティーさんの話はシフォンから聞いていた。
現在大学も同じだし、シフォンは医学部、シンパティーは法学部となかなか難関な学部に入っている。
「それはダメだよぉ~シンパティーは俺と一緒なんだからぁ~一緒にいたら、結局シフォンさんが1人になっちゃうよ。」
ブレインはシンパティーさんの肩を自分の方に引き寄せ、笑う。
こいつは他人に合わせると言うことをしないのか……
「ねぇ、カロン。私もカロンの家の方が良いな。ダメ?」
ブレインにイライラしてると、シフォンが俺の袖を引っ張ってそう言った。
その上目遣い止めろ、気持ち悪い……
「ダメ……って訳じゃないけど……ただでさえ帰郷の事言ってないに、ましてやお前連れてったら母さんが卒倒するぞ……」
俺は頭を掻いて、考える。
俺の家は山の中にある。そのせいか、季節によっては電話が通じない時がある。
今回はその季節に当たってしまい、昨日電話したら繋がらなかった。
母さんのことだ、驚いて腰を抜かさなければいいが……
「まぁ、何とかなるか……しゃぁねぇな、泊めてやるよ。」
俺はため息をつきながら言うと、シフォンは喜んでお礼を言った。
全く、調子の良い奴だ。
とりあえず、ジーニとブレインたちも一度俺の家に来るらしい。
理由は俺の母親に挨拶するためらしい。
ガキの頃から知っているし、世話になったから挨拶をしたいって言い出したので、みんなで行くことにした。
駅を出て駅前を見渡す、人がたくさん行き来している。
俺たちがいたときより、賑わっているようで良かった。
「カロンの家と連絡が取れない以上、歩きしか移動手段はない。歩くぞ。」
ジーニはそう言ってズカズカ歩き出した。
ジーニの家に電話をすれば、車ぐらい廻してくれるだろうが、ジーニは家に頼りたくないらしい。
「まぁ、町を見ながら歩けるからいいか。それにしても、久しぶりだなぁ~」
俺はキョロキョロ周りを見渡しながら歩く。
街並みはあまり変わらないが、俺たちの子供の頃から見たら賑わっている。
昔はこの通りも昼なのに、数えられるほどの人しか通ってないような状況だった。
「あれ? もしかして、カロンたちじゃないか。」
そんな昔の思い出に浸って歩いていると、誰かに声をかけられた。
ふと、声のする方に視線を移すと町の小さなカフェのマスターらしき人が俺たちに手を振っていた。
「俺だよ、覚えてるか? ほら、軍事学校で一緒だったグリードだよ。」
グリード………グリード……
あっ!?
「あぁ、あのグリードか!? 何やってんだよ、こんなところで。」
俺はすぐにカフェへ近づいてグリードの前に立った。
グリードは小等部の時に俺を虐めていた張本人だ。
しかし、中等部に上がる時には何かと仲が良くなっていた。
グリードは俺と思考が似ているところがあり、銃や武器の考え方などを話し合ったら仲良くなっていた。
向こうは許して貰ったと思っているが、俺はもともとグリードが悪いとは思ってない。
俺が変な容姿をしている方が悪いのだし……
しかし、ジーニとブレインは未だにグリードのことを嫌っている。目つきが怖い……
「いやぁ~一度は軍に入ったんだけど、父親が倒れて仕事が出来なくなったから、俺がこの店継ぐことになったんだ。」
グリードは笑いながらカフェを指差した。
小さなカフェだが、なかなか人が入ってるようだ。
「へぇ~そうなのか。父親は大丈夫なのか?」
確か、威勢の良いおじさんだったはずだ。この通りで遊んでるとよく話しかけてくれたおじさんだ。大丈夫だろうか……
「あぁ、大丈夫、ピンピンしてるよ。今は車椅子だけど、本人は元気だよ。そんなことより……」
グリードは俺の肩に手をかけ、顔を近づけ、小さな声で俺に耳打ちした。
「あのちっちゃくて可愛い女の子誰だよ……もしかして、お前の彼女? なんだよ~さすが、お前たちモテるもんなぁ~でも、お前も変わったんだなぁ~昔は女なんかいらないって言ってたのに。」
グリードは俺たちを見ているシフォンを見て、ニヤニヤしながら羨ましそうに言った。
「違う違う。あいつはただの大学の後輩で、そんな関係じゃねぇよ。」
当たり前のことをいうとグリードは少しキョトンとした顔をして、少ししてから大きなため息をついた。
「前言撤回。お前は全然変わってないな……おぉ~い、リラクスト、ワイズ。こいつ全く変わらず、このまま成長してんのかぁ?」
グリードはジーニとブレインにそう言った。
何を言ってるんだ、俺だって成長ぐらいしたさ。
振り返ってジーニとブレインを見ると、2人は深く頷いていた。
なに頷いてるんだ……
「まぁ、いいや。それより、俺たち1ヶ月ぐらい休暇でこっちに故郷してるから、その間よろしくな。また、コーヒーでも飲みに来るさ。」
グリードは“俺の店はうまいぞ”と笑いながら見送ってくれた。
「グリードがあんなところに出現するとは……予想外だ。」
ジーニは大きなため息をついた。
「お前、そこまで嫌いなのか?」
俺は歩きながら聞いてみた。
確かに柄は悪いが、中身は良い奴だ。
「嫌い。ってか、お前よく許せるな。お前をよく虐めていたのはあいつだろ? なんで許せるんだよ。俺はああいう奴が一番嫌いだ。」
ジーニは少しムッとして、不機嫌になった。
まぁ、グリードとジーニの気が合うとは思えない。
「確かそうだけど。昔のことだし、中等部になったらしなくなったし。まぁ、水に流そうぜ。な?」
俺はジーニの肩を軽く叩いて、笑うとジーニはまたしても大きなため息をついて、やれやれと首を横に振った。
「そんなことより、早く帰ろうぜ。俺、腹減ったし。」
俺は歩調を速め、通りを歩く。
この道、こんな小さかったかなぁ。
昔と変わらないはずなのに、変わって見えた。
通りをすぎ、少し歩くと山の麓に到着した。
「はぁ、この山を登るのか……なんでお前の家はこんな山奥にあるんだ……もっと麓に作れば良かったものを……」
ジーニが山を見上げで悪態をつく。
そんなこと言われても……爺ちゃんの時代からあの家なんだからしょうがない。
「いいから、文句言わずに登れよ。」
俺は鞄を担ぎ直し、山道を登り始める。
ジーニとブレインはため息をつきながらもゆっくりと登り始めた。
だいぶ登って、あと半分ぐらいになったときには俺以外の奴らはバテ始めていた。
ジーニとブレインは疲れた顔をしていたが、文句を言いながらも登っていた。
シフォンとシンパティーさんはすでに無言でスローペース。
「みんな、大丈夫か? あと半分ぐらいだ。頑張れよ。言っとくけど、俺ガキの頃これ毎日行ったり来たりしてたんだからな。」
そう、俺は学校に行くのにこの山道を下り、学校から帰ってくるときはこの山道を登っていた。
そのおかげか未だに山道を歩くのは得意だし、山での勘は冴える。
「だからお前は体力バカなのか……こんなの、しんどいだけだ……車出せよ……」
そう言われても、電話が通じないんだから、無理だ。
それから少し歩くと、やっと家に到着した。
みんなは家が見えてきてから、気力は回復した。
やっと帰ってきた。懐かしい俺の家。
****
カロンは敷地に入る門を開ける。
ギィと軋んだ音をたてて開くと、変わらないカロンの実家がそこにあった。
ちょっと古くて、広い家が昔と変わらずあって、俺たちまで実家に帰ってきたみたいな感覚になった。
門の音に反応したのか庭から2人の子供が出てきた。
2人の兄弟らしい子供は俺たちをただただ見つめていた。
「おぉ、ナッツにミント。久しぶりだな。」
カロンは俺たちを見つめている子供を呼んだ。
すると、2人は一気に笑顔になってカロンの元に走ってきた。
この子供たち、誰だ?
「カロン兄ちゃん、お帰り! どうしたの!? 帰ってくるって聞いてないよ!」
カロン兄ちゃん!? まさか、カロンの兄弟?
いや、年が離れすぎてるから、ないか……
「ん? 急に帰ってくることになったんだ。母さんたちいるか?」
カロンは鞄を下ろして、年下の方の女の子を抱き上げて聞いた。
いや、やっぱり兄弟か?
「うん、いるよ!」
そう言って兄弟2人は叫びながら家の中に走っていった。
「おい、カロン。あの2人は誰だ? お前兄弟なんかいないだろ。」
俺の疑問はジーニが聞いてくれた。
やっぱりジーニもそう思ったんだ……なんとなく雰囲気がカロンに似てるし……
「あぁ、あの2人は俺の従兄弟だよ。叔父さんの子供なんだ。」
なるほど、従兄弟か。
なら、なんとなく似てるのも納得いく。
ん? でも、叔父さんの子供がなぜここに?
「今は叔父さん夫婦がこの山の仕事してくれてるんだ。本当は俺がやらなきゃいけない仕事なんだけど、叔父さんがやってくれてるんだ。」
そういうことか……
本当はこの山はカロンの父親の物だから、カロンが持ってる物のはず。
しかし、カロンは軍で働いているため山の仕事が出来ない。だから、叔父さん夫婦が替わって仕事をしてくれているとのことだ。
「カロン?」
カロンが俺たちに説明している間に玄関から1人の女性が出てきた。
「母さん、ただいま。」
カロンの母親。日本人の薫・エファトさん。
薫さんは玄関から出て、カロンに小走りで近づき、ハグ。
「お帰りなさい。よく帰ってきたわねぇ~こんな大きくなってぇ~」
薫さんはカロンの頭を撫でた。
身長はカロンの方が辛うじて少し高い。本当に辛うじて。
「あら、ジーニ君にブレイン君も久しぶりね。いらっしゃい」
薫さんは俺たちを見てすぐに笑顔で歓迎してくれた。
「あと、えぇ~と……カロンのお友達かしら?」
シフォンさんとシンパティーを見て首を傾げた。
俺はシンパティーの肩を自分の方に引き寄せる。
「この人は俺の彼女のシンパティー・スカーレットっていいます。」
「シンパティー・スカーレットです。初めまして。」
シンパティーはにこやかに笑って、挨拶をする。あぁ~可愛いなぁ~
「あら! ブレイン君の彼女さん! べっぴんさんの彼女さんねぇ~なんだか、私まで嬉しくなっちゃったぁ~」
薫さんは手を合わせて喜んでいた。
他人の俺のことまで、自分のことのように喜んでくれる人は少ないだろう。
でも、もっと驚くことがまだ待ってるんだなぁ~
俺はシフォンさんの背中を押してカロンの横に並ばせた。
「っで、この人がカロンの彼女のシフォン・ディアさんです。」
俺がそう言うとカロンとシフォンさんは“はぁ!?”と声を上げて俺を見てきた。
「えっ!? この子がカロンの彼女さん? やぁ~もう、すごい可愛らしい彼女じゃないの!? なんでお母さんに教えてくれなかったのよぉ~シフォンちゃんって、あのディアさんのとこの娘さんよね? お久しぶりねぇ~」
薫さんは驚いて喜んで大変なことになってた。それに慌てふてめくカロンとシフォンさん。
俺とジーニは笑いを堪えるに必死。
「母さん!? 違うから! こいつは俺の大学の後輩なだけで彼女とか、そんなんじゃないって!? ブレインも何言い出すんだよ!?」
「そうです! 私たち、まだそんな関係じゃなくて、単なる先輩と後輩ってだけで……」
カロンは顔を真っ赤にしながら弁解している。シフォンさんはだんだん声が小さくなりシンパティーに引っ付いた。
あらら、これはダメだな……
「あら、そうなの? まぁ、でもカロンが女の子連れてくるなんて初めてだから、嬉しいわぁ~シフォンちゃん、この子ちょっと照れ屋でひねくれてるけど、仲良くしてやってね。」
薫さんは笑いながらシフォンさんにそう言った。
シフォンさんもはい、と返事をして頷いた。
「母さん、こいつに挨拶なんかいいから。こいつは勝手に引っ付いてきただけだから。」
カロンはそっぽを向きながら薫さんに言う。なんやかんやで嬉しそうじゃん~
「ん? ナッツたちが騒いでると思ったらカロンが帰ってきてたのか~」
後ろから声が聞こえてきたので振り返ると、少し泥で汚れた作業着を来たデカい男が立っていた。
とにかく、デカい……俺と身長は変わらないぐらいなのに、なんかがっしりしてるから俺よりデカく見える……
「叔父さん、お帰り。あと、ただいま。」
カロンの叔父さんとはこの人だったのかぁ……
「おぉ、ただいま。んで、お帰り。ナッツとミントが慌てて呼びにくるから何かと思ったら、お前かぁ~」
カロンの頭をガシガシと撫でながらカカカと笑った。
そして、俺たちの存在に気が付き、こっちの方に歩いてきた。
「一応初めましてだよな。俺はカロンの父親の弟。カロンの叔父にあたるカイ・エファトだ。よろしくな、ジーニアスにブレイン。」
叔父、つまりカロンの父親の弟さんのカイ・エファトさん。
今はこの山を守っている人だ。
なかなか気さくで不器用にも暖かみのある人だ。
「っで、この子がカロンの彼女かぁ~いやぁ~良い子を見つけたなぁ~」
カイさんはさっきの話を聞いていたらしく、弁解をするカロンを見て“冗談だ”と笑った。
「あと、家の中に俺の妻とこのチビ共がいる。ほら、ナッツ、ミント。挨拶しろ。」
さっきの子供たちがカイさんの後ろから出てきた。
「ナッツ・エファトです。今小等部の4年です。」
兄のナッツ。真面目で大人しそうな兄さんだ。
「ミント・エファト、小等部の2年生です! お花が大好きです!」
妹のミント。明るく元気でどことなくカロンの雰囲気と似ている。
2人は仲の良い兄弟だ。そしてカロンに良く懐いている。
カイさんはミントを肩車し、ナッツを担いで回ったりして遊んでいた。
カイさんも良いお父さんだ。
「さぁ、こんなところで立ち話じゃダメね。みんな疲れたでしょう。中に入って、休んでいってちょうだい。」
薫さんはそう言って家に入っていった。
確かに少々疲れた。お言葉に甘えて、休ませてもらおう。